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初即売の売上は良好
しおりを挟む半分ほど売れた頃に客足がバラつきはじめた。
一気に押し寄せていたお客さんは、お隣のブース終了時間で離れていったのだ。
「いやぁ、やられたなぁ。まさか試食付きだなんて初めてでびっくりしちゃったよ」
「え?」
「へぇ、美味しそう。匂いで気になってたのに見れなかったからさぁ、1口貰ってもいい?」
ずいっと前に出てきてニコッと笑った男性に芽依は1歩下がるとブランシェットにぶつかり振り返った。
「あらあらまぁまぁ、フェンネルではないですか。お久しぶりねぇ」
「え?……ブランシェット?なんでここに?」
「このお嬢さんのお手伝いに来ましたのよ」
「えぇ?ブランシェットが?本当に?」
目をまん丸にしたこの隣のブースの男声はブランシェットと知り合いなのだろう。
メディトークは知り合いなのか分からないが、ちらりと確認してから接客に戻ったようだ。
フェンネルと呼ばれた隣のブースの人は、1個残しといてね、と笑って自分のブースの片付けをはじめてしまった。
ポカンと口を開けているとフェンネルにクスッと笑われ、ちょうど来たお客さんの接客に戻った。
「そうだな、鶏肉7個に豚6個牛12個、牛乳3瓶にヨーグルトを1ダース」
大口注文!と目を輝かせて在庫確認を始めると、フェンネルの片付けの手が止まった。
振り返り客を見ると、顎を触りニヤリと笑う客が芽依を見ているのに気付いてくれたようだ。
芽依はウキウキと在庫数を見ながら客を見上げると、嫌らしく笑う相手にピクリと反応する。
これは、面倒な客ではなかろうか。
「なぁ、こんだけ買うんだ勿論サービスはしてくれるんだよな?そうだな、3割引なんてどうだ?」
「サービスですか?」
「ああ、見ろよこの量」
「……そうですね全て1ダース以上お買い上げで、同量を定期購入してくださるなら考えますよ?」
にっこり笑うと、強面な客のニヤニヤとした笑みが無表情に変わった。
鋭い眼差しが立ち上がった芽依を睨みつけるが、芽依の接客は継続中。
伊達にブラック企業のクレーム処理にいた訳では無い。
電話対応は勿論、窓口業務もしていた芽依の客にはこの様な人もかなりいたのだ。
難癖つける相手にこちらは一切の妥協はしない主義だ。
「ああ?なめてんのか?」
「それではご購入キャンセルでよろしいでしょうか?」
「ああ!?テメェ!」
「はいストープ」
長テーブルを挟んだ客が芽依に掴みかかろうとした時、フェンネルが芽依の横に入り込んで客の腕を掴んだ。
「ここでの値引き交渉は自由だけど、無理やりはご法度でしょー?乱闘騒ぎなんて問題外だよ。しかも新規参入の女の子相手にだなんて、同じ妖精として恥ずかしいなぁ」
あーあ、と言いながら芽依を後ろに追いやるフェンネルに客はギン!と睨みつけるが、相手がフェンネルだとわかり苦虫を噛み締めたような表情をした。
「……なんでフェンネルがいんだよ」
「いやだなぁ、隣にいたじゃないか!こっちのブース僕だよ」
「くそっ、お前隣かよ……おい、定価でいいさっき言ったヤツを早く包め……よ?」
『マナーがなってないな』
「次そんな態度で来ましたら容赦しませわよ?」
「い、いや!今日はもう、いらねぇ!!」
芽依の後ろにいつの間にか立っている巨大蟻なメディトークと怒りによってハラハラと周りに雪が降るブランシェット。
寒っ!と腕を摩り振り返ると、仄暗く輝く瞳のブランシェットが客を凝視している。
ブランシェットもフェンネルも客より位が高いのだろう、顔色を悪くさせた客はすぐに踵を返して離れていった。
「……大口注文の客が逃げた」
「あは、君なかなか図太いねぇ」
「ああ、前職はクレーム対応処理の仕事だったから慣れるの。流石に乱闘とかは無理だからメディさんに丸投げするつもりだったけど」
「へぇ、異世界では女の子もそんな仕事するんだね」
「まあ、そう……だね?あれ?」
芽依はフェンネルを見る。
ニッコニコに笑うフェンネルは首を傾げて芽依を見ていた。
「……もしかして、異世界って言われてびっくりしたの?匂い消ししてるもんね」
「どうしてわかったの?」
「君を後ろに押した時に腕を触ったら甘い風味があったから」
「……なるほど?」
どうやら匂い消しは出来るが触れたらバレるらしい。
セルジオさん是非に教えて欲しかった、と思いながらブランシェットとは少し違った真っ白の髪がさらりと揺れるフェンネルを見ていた。
今まで会った中でも痩せ型なフェンネルは、ブランシェットと同じくらいに繊細に見える。
まつ毛まで白く瞳を縁どっていて、薄い赤の瞳が印象的だ。
肌も白く、芽依の世界にいたアルビノを思わせるのだが勿論違うのだろう。
「……君はとても美味しそうだね、ちょっと味見してもいいかな?」
ちょっと散歩にでも行こうか、というような軽い誘い文句にメディトークが間に入り、ブランシェットはニコニコと無言でフェンネルを見ている。
「うーん、やっぱだめ?」
「これならいいよ、メディさん作の唐揚げ。助けてくれたお礼に牛乳プリンも付けてあげる。私のオヤツ…………メディさーん!帰ったらまた作ってー!」
『いいぞ』
「メディさん素敵!好き!」
『やめねぇか』
がばっ!と黒光りボディに体当たりをすると、フェンネルは唐揚げを口に入れたまま目をぱちくりとした。
「…………君のパートナーはその蟻?」
「蟻じゃなくてメディさん。メディさんはパートナーじゃないよ」
「え!?そんな求愛しといて違うの!?うっそぉ……君のパートナーよく怒らないね、ブランシェットがパートナーな訳じゃないんでしょ?こんなに離れてるのを許すのもすごいなぁ」
「ええ……パートナーって束縛強いストーカーってこと?何それこわっ!」
「……あれぇ?なんか話が噛み合ってないぞ?」
唐揚げを食べ終わったあと牛乳プリンを食べるフェンネルは、1口食べてうまっ!と声を上げた。
「えー、唐揚げといいプリンといいすごい美味しい、たまらない」
わぁ……とプリンを見るフェンネルに何故か芽依が自信満々に胸を逸らしているではないか。
そんな芽依にブランシェットはふふっと笑い販売に戻っていく。
「えっと、フェンネルさん?」
「なに?」
食べ終わり、ブースを片付けているフェンネルの隣にコソッと近付いた芽依は深々と頭を下げた。
「遅くなりましたが、助けて頂きありがとうございました」
「え!?そんないいよ!あの客前も別の売り子に難癖付けてたの知ってたから気になっただけ。それよりその牛乳プリンってさ、売って貰えないかな?だめ?」
『こいつ用の菓子で売り物じゃねぇ』
「そこをなんとかー!!」
メディトークに拝むフェンネルは次のブース使用者が来たことによりすぐに場所を譲り図々しくも芽依の隣に入り込んできた。
「こっちは売り子側ですわよ」
「勿論知ってるよ、ブランシェット。まだ売り物あるし僕手伝う」
『プリンはやらんぞ』
「メディさんお願いってー」
『メディさん言うな』
こうして3時間の営業時間内に持ち寄った物品は全て完売。
フェンネル曰く、今までに無かった試食提供の効果は凄まじいとのこと。
初参戦で完売はなかなか無いそうだが、芽依は人気な庭持ちのフェンネルが居たのも効果があったのではと思っている。
結局客の凄さにフェンネルの販売物が見れずそれだけが残念だったのだが、既に常連さんだった人や商品を気に入り買っていく人を見て頑張ってよかったな、と3時間の直売に満足感が素晴らしい初日となったのだった。
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