[第一部完結]美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

文字の大きさ
63 / 588

カナンクルの前夜 カテリーデンにて3


「………………なんか凄い疲れた」

 シーフォルムが離れていったが、まだ会場内に残っていて買い物を継続している。
 教会内で行うカナンクルの祝祭で出す料理と、年末年始の買い付けに来ていたようだ。
 芽依達のところにも追加で冬篭りの食材を買いに来ている人は多く、販売用に用意していた物の3分の2は売り切れていた。


「…………メディさん、少しだけ休憩したい」

『おう、休んどけ』

 立ち上がり売り子をしているメディトークの足の間、腹部の下に入り込みちょこんと座ると、メディトークも腰を落とし足を閉じて周りから芽依を見えないようにした。
 すぐ隣にあるメディトークの足にしがみつき頬擦りするとメディトークの眉間にシワが寄る。

「……はぁぁぁぁ……ツルツルテカテカ気持ちいい」

『やめねぇか阿呆め』

「いや、そんな休憩の仕方っすか」

 シーフォルムの登場で疲れ果てた芽依は箱庭を開けて自動販売機を補充してから庭を見ると、何故かそこにはセルジオがいて、椅子に座り本を開いているみたいだ。 
 しかし、まったく動いておらず、たまに頭がカクッと揺れている。

「…………え、寝てる?」

 画面を近づけるとzzz……と表示が現れお昼寝タイム中だとわかりほっこりした。

「…………えー、可愛い」

『どうした』

「庭に入ってる不法侵入者を見てるの」

『なんだと!?』

「セルジオさんが本開いたままお昼寝してる」

『…………放っておけ』

 まさかの侵入者セルジオに脱力するメディトークは奥から来る客にまた息を吐き出したのだった。

『……おい、また面倒な客だ』

「今癒された所なのに……今度は誰」

 ズンズンと近づいてくるのは無駄に煌びやかに飾り立てた男だった。
 ズボンのベルトから少しはみ出している腹部がポヨンと揺れている。
 白いシャツがパチパチしているが、本人はあまり気にしていなさそうだ。

「……わ、珍しい貴族様だ」

 ちょび髭を蓄えた男はアリステア領民で貴族の男だ。
 メディトークが顔を見ただけで嫌そうな反応をした為知り合いか?と思ったら、そういえばカテリーデンで突っかかってきた貴族の従者がの話を聞いたなと思いだした。

「…………ふむ、良いじゃないか。おいお前、庭の持ち主を呼べ」

 ちょび髭を親指と人差し指で撫でつけた貴族は野菜や肉、乳製品を見た後にメディトークを顎で示した。
 その様子は見えていないが、傲慢なその態度に眉を顰める。

「………………せっかく初めてのカナンクルなのに、なんなのさ」

 足に寄りかかり呟くのを聞こえたのはメディトークだけ。
 クイッと芽依の背中を押した足にしがみつきイライラを誤魔化すようにスリスリした。

『……前にも断った筈だが?』

「お前には聞いていない。庭の持ち主を呼べと言っているだろう」

『はっ……話にならねぇな。帰れ』

「…………なんだと」

 ギリギリと歯ぎしりするその貴族にメディトークは鼻で笑う。

「貴様、たかが幻獣の分際で!!」

 持っているステッキをギリっと音が鳴るくらいに握りしめると、後ろに控えていた魔術師が魔術を展開し始めて、芽依は足元に広がる陣を目を見開いて見つめた。

「おいおい、マジっすか!カテリーデンでの攻撃的魔術の施行は禁止っすよ!!」

「はっ!そんなの私には関係ない!」

 ステッキでメディトークを指す貴族に合わせて魔術を打ち込むが、当たる前に宙に現れた小さな魔術陣によって掻き消えた。

「なっ!!誰だ!!」

「誰だじゃありませんわよ!私の羊を作るお庭の方に手を出したら許しませんから!!」

「…………あれ、ヘルキャット?」

 私の羊と言う言葉に芽依は足の中から声を掛けると、ヘルキャットは走りよってきてメディトークの足を鷲掴みにして折る勢いで動かした。

「まあ、ここに居らしたのね!あら!今日は特別仕様の可愛らしいお洋服でとってもいいですわ」

『いってぇぇな!!そっちに足は曲がんねぇよ!!』
  
 パチパチと手を叩くヘルキャットはニッコニコに笑っている。
 150センチくらいの茶髪にエプロンドレス姿のヘルキャットはヘッドドレスのリボンを直して笑った。

「…………ヘルキャットよね」

「ええ、勿論ですわ!!」

 キャッ!とジャンブした猫耳の可愛らしい少女の話し方や声は確かにヘルキャットなのだが、あの大きな猫だった姿からは想像が出来ない。
 猫耳と隠れているが尻尾もある可愛らしい女の子だ。
 思わずブースから出てきてヘルキャットの前に出るとキュルンと笑った。
 メディトークは勝手にブースから出た芽依を追って出てくると、普段ブース内にいる巨大蟻の迫力に野次馬で来ている周囲の人が数歩下がった。

「ねえ、羊は今日あります?カナンクル限定丸々一匹とかないのかしら?えへ……えへへ」
 
 恍惚とした表情で涎をダラダラと垂らす姿は確かにヘルキャットである。
 芽依は、あ、完全ヘルキャットだと納得した。

「……また幻獣か。邪魔をするでない!我はこの領地の貴族ジャルドレーク・ヨーグレリアであるぞ!!」

 カン!と床をステッキで叩きつけたシャルドレークはフンッと鼻を鳴らした。
 カテリーデンには来ない貴族がたまに訪れた時、ごく稀にこうした勘違いをしている貴族がいるのだ。
 自分は貴族なのだから平民は従えと傲慢に言う貴族。だがしかし、ここは領主アリステアの管轄である。
 たまに現れる傲慢な貴族は忘れがちだが、ここでの販売は全て公平で抑圧されるような事は禁止されている。

「お前が庭の持ち主だな。我はシャルドレーク・ヨーグレリアである。平民である貴様の庭を我がヨーグレリアで使わせてやる栄誉を光栄に思うがいい」

「……あれ、なんかムカつくなこのヨーグルト」 

「貴様ァ!!こちらのお方はかの有名なヨーグレリア様であるぞ!なんと言うことを言うんだ!」 

 クワッと目を見開いた従者はかなり焦りながら芽依の前に走って出てきて肩を掴みガクガクと揺すってくる。
 は、はぁ?わぁ、なに!?

 急に触れられ揺すぶられた瞬間、ベールが取れて会場内の人外者が香りの元を探し出した。
 直ぐにメディトークが従者を吹き飛ばし、壁まで飛ばされた従者は体を側面から打ち付け血を吐いてズルズルと落ちていく。

「グロい……」

「あらあらあら!やぁん、いい匂い!貴方も美味しそうだわ」

 猫目を細めて舌なめずりするヘルキャットに残念そうに息を吐いた。

「……そう残念だね、あなた用に追加で羊用意してたけど要らないんだね」

「ご、ごめんなさい!いるわ!いるのよぉ!!」
   
 ヘルキャットだけでなく、恐ろしいまでの嗅覚で芽依を見つけた人外者は花嫁が芽依である事に気付き、無意識に出そうな涎を我慢して手を握りしめる。

「お姉さんベールを被って」 

 いつの間にか現れた少年が床に落ちたベールを拾い芽依に渡そうと差し出してくる。
 直ぐにメディトークが受け取り頭に被せると、怪我は無い?と少年は首を傾げた。

「くっ!けしからん可愛さだ……怪我はないよ」

「そう、良かった」

「それより、あの人大丈夫かな」

「大丈夫じゃないかな、良くあることだし」

 吹き飛ばされた従者は血塗れで床に座り込んでいて同僚が回収している。
 良くあるんだ……と呟くと、目の前の貴族は不快感を顕にしながら咳払いを数回行なう。
  
「本当に移民の民なのか……こんなにいいものを作るのに人外者のお手つきとはまた面倒な事だ」

 やれやれ、と首を振るシャルドレークは怪我人も出た事だしと背中を向けた。

「たとえ移民の民だろうとその庭の育てる力は有益だ。いつでも我はお前を受け入れるとしよう」
  
「……なんだったの」
 
 そう言ってカテリーデンから出ていく貴族に芽依は訳分からないと首を傾げた。

「……もう疲れたから帰りたい」

『帰るか』

 今回初めて売り切る前に芽依はカテリーデンから出る事を決めた。









「よろしかったので?あの移民の民を手中に収めたら食料問題は解決致しましたでしょう」

「あの人が多い場所では我々が不利だ。それにお前も聞いただろうカリン・ネクタレスと息子のリーガル・ネクタレス。発表は無かったが、あれは多分あの子に何かした結果周りに消されたんだと思う……ますますあの庭の持ち主が欲しい所だな。様々な人外者を魅了する花嫁……楽しそうじゃないか」

「また悪い癖が出ましたねシャルドレーク様」
 
 馬車で揺られるシャルドレークは、首周りをぴっちりしめたボタンを2つほど外してネクタイを緩める。

「……今回は私も楽しめるか、どうかね」

 口の端を持ち上げて笑いながら外を眺めるシャルドレークはセットしている髪に指を差し入れてくしゃりと崩した。
 





 
感想 89

あなたにおすすめの小説

異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない

木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。 生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。 ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。 その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました

恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」 交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。 でも、彼は悲しむどころか、見たこともない 暗い瞳で私を追い詰めた。 「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」 私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、 隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!