[第一部完結]美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

文字の大きさ
96 / 588

飛ばされたのは初めてです


 あの様々な色が一斉に飛び散り芽依に襲いかかった時、ハストゥーレはそれから守るように芽依を押してくれた。
 しかし、不幸な事に追跡魔術でも着いていたのかまっすぐ芽依へ進行方向を変えた光は全身にぶつかり弾けた。
 眩しさと少しの衝撃、恐怖に目を閉じた芽依は、触れていたツルツルの綺麗な床からザラザラとした砂を感じて目を見開く。

「…………え、何処ここ」

 屋内に居たはずなのに何故か外にいて、寂れた街の片隅に座り込んでいた。
 たった一人で周りには誰もいない。
 場違いな程飾り付けられた格好のままの芽依は立ち上がり呆然と周りを見渡すが、勿論見覚えは無い。

「…………これは」

 すぐ隣にある崩れ掛けた木製の建物は酷く朽ちている場所もある。
 人が、住んでいるのだろうか……。
 こんな場所で?

「…………これ、私帰れる?」

 眉を寄せて不安そうに呟いた芽依は、雨降りそうなどんよりとした雲が少しずつ流れてきて居るのを見上げる。

「とりあえず人……人を探そう……」

 ベールを被っていることを確認してから人通りがありそうな場所を探して歩き出した。
 室内でも靴を履く習慣があるのを今こそ感謝したことは無い。
 柔らかな靴は瓦礫が崩れて歩きにくい道路でも芽依の足を守ってくれる。
 針金や木材などが崩れて色々な場所から飛び出ているのを慎重に避けながら歩いていてやっと気付く。

「………………雪がない」

 あれだけ毎日雪が降っていたのに、どこにも雪が積もっていない。
 それどころか、少し肌寒さは感じるがコートが無くても動ける事にまた足を止める。

「…………まってよ、なんで寒くない?此処ってドラムストからかなり離れた場所なの?」

 顔を青ざめさせた芽依は、こんな時の緊急連絡の仕方を知らない。
 芽依は急いで箱庭を開くと、庭にはアリステアやセルジオ、シャルドネや今日居なかったブランシェットまでも居た。
 ハストゥーレが泣いているのだろうか、涙がポツリポツリと流れる絵が動いていて傍らにメディトークがいる。
 少し離れた場所にはミカとアウローラも居るようで、相変わらず泣きじゃくるミカをアウローラが抱き締めているようだ。

「………………ハス君、君のせいじゃないんだよ。ごめんね、泣かせて」

 箱庭からハストゥーレを撫でると、ピコン!とビックリマークが浮かぶ。
 お?と見ているが、箱庭からは特別変わりはない。
 何か話しをしているようだが、多分芽依が居なくなったことに対してなのはわかる。

「………………迷惑、かけてるなぁ」

 かなり困惑する状況ではあるが、芽依はまだ半信半疑で現実と捉えていない所がある。
 とりあえず人……と呟きながら箱庭をしまって歩き出した。

「…………なにも音がしないし、明かりもない。それどころか建物がほとんど崩れてる……住むには無理そう」

 開けっ放しの玄関から中をのぞき込むと食べ掛けの料理が乗せられた食卓に埃がかかっていた。
 周りを見ると整理整頓されているが、食卓と同様に埃が被っている。
 家は一般的な家庭らしく別の部屋を覗くと子供部屋みたいだ。
 小さな女の子用の玩具が散らばり、服が壁に掛かっている。
 そっと扉を閉めて家を出た芽依は別の家を見るが、同じように埃が被っていてやはり人の気配は無かった。

「………………どうしよう、人がいない」

 暫く歩き気紛れのように無人の家の中を眺める。
 困った事に人が居る温もりがまったく感じ無くて本当に芽依しか居ないようだ。

 小さな村のようだ。
 少し歩いたら端から端まで到達するくらいの狭さで、村長だろう家は同じく木製で出来た少し大きな家。
 どの家も木製で出来た家具があって、埃に塗れているが今でも丁寧に磨き手入れをしたら美しい家具に生まれ変わるだろう。
 それくらい匠の技術が施されたものだった。
 全てが小さな子供の玩具の様な木製の家具で、更に不思議なのは蛇口やコンロも木製なのだ。
 家を作る為の木とは確実に違う木材を使用していて、あれだけ家屋が崩れているのに家具の痛みは一切ない。
 これは素晴らしいな、と頷いてから村長の家を出ると1人の人外者が佇んでいた。

 小さな体に薄い水色のクルクルした髪は記憶よりも長いが、その背中にあるフワフワの羽は背中を向けているが見違えることは無い。
 芽依の常連客としてぶどうを買いに来る少年ではないだろうか。
 いつものフリルがたっぷりの服ではなく、全身真っ黒の体にピッタリと吸い付くような服を着てごついブーツを履いている少年は、瓦礫が積み上がった場所に片足を乗せていた。
 ガラン……と瓦礫が崩れ、それを静かに眺めているようだ。
 その手には大きな布を持っている。

 「………………間に合わなかった。今回は村ごとかぁ」
 
 はぁ……と息を吐き出して呟いた少年はゆっくりと振り向き芽依を見る。

「あ…………」

「で、お姉さんはだれ?どうしてこんな死の村なんかに居るの?」

「…………え、少年、だよね?」

「僕、お姉さん知らないけど?」

 振り向いた少年は顔に真っ黒の布を付けていて布から出ている紐を後頭部で結んでいる。
 感情の乗らない声色で話す少年に芽依は一方後ろに下がった。

「失敗したな、こんなタイミングで人が来るなんて。ちょうど外套を汚したばかりだったのに」
 
 片手に持っていたのはどうやら黒い外套だったらしく、よくよく見たら血がベッタリと付いていて裂けている。  
 ポイッと瓦礫の中にそれを投げ捨て、細い体が余計はっきりと見えた。
 返り血だったのかもしれない、怪我は一切なく傷1つないようだ。

「…………少年、ここはどこ?」 

「少年……?ここは死の村だよ。もう誰も住んでない」

「ドラムストから遠いのかな?」

「………………ドラムスト?どこ?」

「え!?……少年、えぇ待って……少年がドラムストを知らないはずないよね……え?別人?でもそんなはず……髪、どうやって伸ばしたの?」

 ゴクリと生唾を飲み込んで聞くと、少年は首を傾げた。

「……僕、ずっとこの髪型だけど?お姉さん大丈夫?」 

「…………………………え、大丈夫じゃないかも」

 俯きスカートを握りしめた芽依はキョロキョロと忙しく視線を巡らせた。
 前にいるのは確かに少年で、顔は隠れているが見た目や声、話し方は完全に一致している。
 知らない場所、知ってるはずの少年の冷たい対応に芽依は混乱した結果。

「………………ふぅ、ちょっと待って」

「……………………?」

「飲まなきゃやってられない」

 箱庭を取りだして中から出したのは庭で作っている葡萄酒である。
 瓶から直接口を付けて一気に半分飲み干すと、少年は呆気にとられていた。

「………………なにしてるの」

「お酒を飲んでる!まったく、いきなり知らない所に飛ばされて知らない場所で少年はいつもとなんか違うし、意味わからない」

 ぶわっ!とスカートを膨らませてその場に座ると少年は黙って見つめている。

「……いきなり知らない場所に来た?何かの魔術が反応したんじゃない?」

「……あ、あの子か、厄介だな……!」

 ダン!と瓶を床に叩きつけると瓶の中でちゃぽんとワインが跳ねた。
 それによって芳醇な葡萄酒の香り立ち少年は瓶を見つめる。

「……で、お姉さんどうするの?僕はお姉さん殺さないといけないんだけど……」

「………………え?」

「実行中に見られたからには殺さないと。それが決まり事だから……」

 ぶんっ……と風が吹き顔を両腕で庇うと、両腕の肉がぱっくりと切れた。

「は………………ああああぁぁぁぁぁ!?」

 ボタボタボタ……と両腕から血が流れて地面を濡らすと、少年は顔を上げて芽依を見た。

「……………………お姉さん、花嫁だったの?そんな感じしなかったからわからなかった…………そっか、困ったな」

 目を伏せ呟く少年を切られた両腕を抑えながら見ているが、少年からは無常な言葉が聞こえてくるだけだった。

「……………………仕方ないよね、伴侶ごと消すしかないかな。逃げたヤツも捕まえないといけないのに仕事増えた」

 はぁ……と息を吐き出した少年はいつの間にか持っている巨大な鋏をジャキリと動かして芽依を見る。
 ほんわかとした雰囲気を完全に消し去った少年は足に力を込めた。
 
感想 89

あなたにおすすめの小説

異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない

木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。 生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。 ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。 その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました

恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」 交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。 でも、彼は悲しむどころか、見たこともない 暗い瞳で私を追い詰めた。 「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」 私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、 隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!