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現状の整理
どうやらミンミンは戦いからだいぶ遠い花屋さんを仕事にしているようだ。
豊穣の妖精から祝福を受けて自ら育てる花は美しく咲き乱れているのだとか。
そう、豊穣である。
他にもリリベルは本坪の鈴の妖精。元から清浄な存在で浄化作用がある等、それぞれに特性があった。
浮上、浄化、豊穣に全て近しいもの。
全員が知恵を絞り様々な憶測が浮かぶ。
そして極めつけがヴィラルキスが見た縄だった。
時計塔からはなり離れた場所に新しく建てた住宅がある。
マンションでかなり高く、ビル5階分はありそうだ。
縦にも横にも広く長く高い建物は、手前側がガラリと広くとってありそこに巨大なロープが張ってあった。下から斜め上にビル5階分の高さまでビっ! と張っている。
その時は見ても意味がわからなかったが、ヴィラルキスは今わかったようだ。
「…………なんでこんなにサーカスが色濃いんだ」
はぁ、とヴィラルキスがあからさまに肩を落とす。
あの縄もサーカスで用いられる演目だった。
実際、全員がそれを見てた。
足袋に似た靴下を履いて、バランスをとりながら親指と人差し指で挟んで縄の上を歩いていく。
魔術が使われ花火が上がり、華やかに鮮やかに咲き誇る花の前で、綺麗に着飾った女性が優雅に笑みを浮かべて登っていってた。
そして高い位置まで上り詰めた瞬間、足の力を抜いて一気に下まで滑り落ちていった。
まるで踊るよに手を動かし、しかし、下半身は一切動かさずに。
舞台にいる演者はその人だけで、演目自体は地味にさえ見えるのに、全員が目を惹き付けられていた。
「随分……登って降りたりする演目が多いな」
ミリーナが呟いた。
サーカスの演目は、幻獣と力を合わせるものやダンス、ジャグリングなど地面から動かないものも多いのだが、この水の底にあるものは全て登ったり高い位置で行うものばかりだ。
そのほとんどが、最後は下に戻る。
「………………そのサーカスの演目と脱出のキーワード、そして浮上、浄化、豊穣。絶対共通点があるはずって事か」
ヴィラルキスが悩みながら言うと、ミンミンはうーんと首を傾げる。
「もしかしてサーカスの団員がここに居る……とか無いよね」
「なんでそう思うんだい? 」
「私が扱う花関係の道具も、素人が見たら使い方が分からない物もあるの。花屋の道具がそうなのよ? サーカスの道具を正確に扱える人なんて、サーカス団員しかいないんじゃない? ただでさえ特殊な職業なんだもの」
「…………たしかに」
アーシェが頷き考え込む。
鉄球が着いていたロープが天井からぶら下がっていた。
人間1人、場合によっては2人の体重を支えるものだが、天井からぶらさがっているのだ。結び方なども決まっているのだろう。
空中飛行のブランコの設置の仕方も、芽依達は誰1人知らない。
「……可能性ありそうだねぇ」
リリベルもどうやら同意見のようだ。
たった一日半ほどで様々な情報を手に入れたのだが、逆に言えば、たった一日半で3人が死んだ。
芽依は息を吐き出しす。
サーカスに来て、楽しく鑑賞して街中を散策して。
そんな休みの一日を過ごすだけのはずだったのに、なんでこんな事に……と髪をくしゃりと握った。
「……なぁ芽依。大丈夫か? いや、大丈夫じゃないよな……怖いよな。俺も…………」
「…………あぁ、酒飲みたい」
「……め、芽依? 」
「こんな理不尽な事ってある? イライラしちゃう、お酒飲みたい」
「おや、飲むかい? お前さんならあるんじゃないかい? 」
ブレスレットをトントンと叩くリリベルを見上げる。
サーカスで買った中には酒もある。
だが、これは領主館メンバーも含んだ全員で飲みたかったのだ。
特に今は売られていないと言っていたし、懐かしいと思うかもしれない。
だが、今はイライラが収まらない。
こんな時に飲むお酒はあまり美味しくない。なにより家族がいない場所で飲んで取り返しのつかない事はしたくないのだ。
特に、珍しくリリベルを美味しそうに見える。
芽依は首を横に振り、煩悩を追い払った。
家族を悲しませる事はしたくないし、なによりシュミットの時のような渇望は一切ない。
今噛みたいのは蟻であるメディトークだ。
珍味な足を力の限り噛み締めたい芽依は、ギリギリと歯をかみ締めた。
「ん? 飲まないのかい? 」
「多分、家族がいない場所で飲んだら怒られますから」
「…………まあ、あいつらならそうかもしれないね」
クスッと笑ったリリベルと芽依の間に無理やり翔真が入ってきた。
そして、芽依を見る。
「俺はお前が飲んでる姿知ってっから問題ないだろ? なぁ、芽依、俺と飲もうぜ? 」
「……翔真さ」
「なに? 」
「なんでそんなに絡んでくるの? 知り合いが居ない中で私がいるから? 」
「なんでだよ! 」
思わず芽依の頭を叩く翔真に、はぁ? と声を上げて叩かれた頭を自分の手で抑えた。
「いや! だからっ!! 」
何かを言いかけた時、ミリーナが立ち上がって話し出した。
「食事も終わった事だし、色々調べないか?3日という期限がある以上、黙ってもいられないだろう」
3日は思っている以上に短い。
実際には一日半だろう、その間になんとかしないと……とジワジワ焦りが出てくる。
のんびり観光などしている事も勿論出来ない。
人が死んでいる時点で3日で帰れる保証もないし、最悪全員殺されるかもしれない。
そんな不安は、全員の中にある。
「…………まあ、最悪皆が助けに来てくれると思うから、私は私の出来ることをしよう」
全幅の信頼を寄せている芽依を見て、翔真は下唇を噛み締めていた。
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