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第四章 ケーキと優しさ、いただきます

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 諸々の都合を考えて、時間的猶予は十六時までの三時間とした。残り一時間半。現在の予約獲得数は、十九個。

 店の外では、マコトとミサキが数人の客を相手にケーキの試食を勧めていた。実家の和菓子屋で鍛えたミサキのセールストークは、さすがに慣れたものだが、マコトのほうも最初のロボットのような接客から随分と様になってきている。勘がいいうえに、失敗をおそれることなく、努力を惜しむこともないのだから、成長のスピードが速いのは当たり前だ。ケーキ屋の向かいにある小さなベンチに腰掛けながら、タイシはひとり、デバイスで状況の分析を続ける。

 ユウとエリヤの親子コンビには、少し離れた大通りへ行くように指示を出した。息をすることさえ面倒がるエリヤが自分から率先して働くことなど、まずない。けれど、たとえフードを被っていても、隣にユウがいることで多少は抑えられたとしても、あの圧倒的な存在感はどうしたってにじみ出る。スケートリンクでのイベントと同じく、今回もそれを利用することにした。先を急ぐ通行人がぴたりと足を止めてエリヤに注目したところを、人好きのするユウの笑みと物腰でもってケーキ店へ誘導する――というタイシの作戦は、おそらく成功している。あきらかにこの店を目指していると思われる客が、さっきからひっきりなしにやって来ていた。

 けれど。ちらりと腕時計を見やって、タイシは白い息をはく。「そろそろ限界か」

 ゴンタが急いで用意した試食用のケーキと、中学生が売り子をしているという物珍しさも手伝って、ある程度の予約数は確保できた。ネームバリューのないホールケーキが短時間でここまで売れれば、普通は文句はないだろう。けれど、どうしても五十個分の予約を取り付けなければいけないタイシたちには、そろそろ別の手を考える必要がある。

 残り一時間十五分。残り三十一個……たった今、三十個になった。デバイスに表示された数字を見ながら、タイシは眉間の皺を寄せる。ふと、わずかに俯けていたタイシの視界の隅で、小さな影がよぎった。
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