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第八章 寂しがりやに、さようなら
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「ん~、いいカンジにお客さんたちが温まってきてるねぇ。このままガンガンいっちゃおうかっ」
元気にぴょこぴょこ飛び跳ねているウララの言う通り、クリスマスライブは順調に進んでいた。客の入りも盛り上がりも、申し分がない。ヒカリもメンバーも、ここまで楽しく歌えている。気がかりがあるとすれば、この後の天気だ。予報では、夕方から雪が降るかもしれないと言っていた。野外でのパフォーマンスやファンの体調に悪い影響が出なければいいと願いながら、ヒカリは厚い雲で覆われた空を見上げる。
「ウララさんは本当に能天気ですわね。今日のライブ中に、ひょっとしたらカナエさんになにかあるかもしれないということを、ヒカリさんからお聞きになったでしょう? もうお忘れになったの?」
呆れたようなツヅルの声が、しなやかな茨のようにウララをぴしぴし打った。けれど、打たれた本人は何処吹く風で、にししししと呑気に笑いながらストレッチに励んでいる。
そう。次はいよいよ、カナエのソロ曲だ。ヒカリを含めた残りの三人は、舞台袖に引っ込んで様子を窺っている。独特の緊張感の中、ヒカリは今は手元にないデバイスを使ったエリヤとの昨日のやり取りを、頭の中で慌ただしく反復した。
『そんな脅迫なんかしなくても、要件があるならちゃんと聞きますよ!』
きっと誰かに頼みごとをするのが物凄く下手な人なんだろうなと、いっそ微笑ましく思いながらヒカリが返事を返すと、今度は雰囲気の異なるメッセージが戻ってきた。ひょっとしたらエリヤではなく、仲間の誰かが代わりに送ってきたのかもしれない。それがマコトである可能性を考えるだけで、ヒカリの胸が軽く踊った。
何度か続けられた、会話のキャッチボール。その球心には、カナエの存在があった。
カナエを助けたい。カナエに心から笑ってほしい。カナエに心から歌ってほしい。そのためにヒカリの協力が必要だと、無機質な文字が切々と訴えかけてくる。
カナエが常に何かに耐えるように顔を俯け、目を逸らし、胸を抑えていたことは、ヒカリも知っていた。その何かに踏み込むことを許してもらえるほどの関係性が構築できているという確証と自信が持てないまま、今に至っている。カナエの仲間である彼らが、カナエに対してヒカリと同じ違和感を覚えているのだとしたら。この提案はヒカリにとって、願ってもないことなのではないのか。
『カナエが自分のソロ曲の前に少しでも迷う素振りをしたら、そのときは――』
カナエの仲間たちからの要求は、自分ひとりの手には余るものだった。すぐにカナエ以外のメンバーとマネージャーを集めて相談すると、意外にもすんなりとした了承が返ってくる。
元気にぴょこぴょこ飛び跳ねているウララの言う通り、クリスマスライブは順調に進んでいた。客の入りも盛り上がりも、申し分がない。ヒカリもメンバーも、ここまで楽しく歌えている。気がかりがあるとすれば、この後の天気だ。予報では、夕方から雪が降るかもしれないと言っていた。野外でのパフォーマンスやファンの体調に悪い影響が出なければいいと願いながら、ヒカリは厚い雲で覆われた空を見上げる。
「ウララさんは本当に能天気ですわね。今日のライブ中に、ひょっとしたらカナエさんになにかあるかもしれないということを、ヒカリさんからお聞きになったでしょう? もうお忘れになったの?」
呆れたようなツヅルの声が、しなやかな茨のようにウララをぴしぴし打った。けれど、打たれた本人は何処吹く風で、にししししと呑気に笑いながらストレッチに励んでいる。
そう。次はいよいよ、カナエのソロ曲だ。ヒカリを含めた残りの三人は、舞台袖に引っ込んで様子を窺っている。独特の緊張感の中、ヒカリは今は手元にないデバイスを使ったエリヤとの昨日のやり取りを、頭の中で慌ただしく反復した。
『そんな脅迫なんかしなくても、要件があるならちゃんと聞きますよ!』
きっと誰かに頼みごとをするのが物凄く下手な人なんだろうなと、いっそ微笑ましく思いながらヒカリが返事を返すと、今度は雰囲気の異なるメッセージが戻ってきた。ひょっとしたらエリヤではなく、仲間の誰かが代わりに送ってきたのかもしれない。それがマコトである可能性を考えるだけで、ヒカリの胸が軽く踊った。
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カナエが常に何かに耐えるように顔を俯け、目を逸らし、胸を抑えていたことは、ヒカリも知っていた。その何かに踏み込むことを許してもらえるほどの関係性が構築できているという確証と自信が持てないまま、今に至っている。カナエの仲間である彼らが、カナエに対してヒカリと同じ違和感を覚えているのだとしたら。この提案はヒカリにとって、願ってもないことなのではないのか。
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