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第一部 第一章 カスガイくんは、魔王と勇者の子どもになりたい
1-7 願い事は口に出さなきゃ叶わないからね
「……ここからどうする」
「んー。さっきも言ったけど、壁登りはやっぱりパスしたいなあ。遺跡の入り口に直結する都合のいい隠し扉がないか探してみようよ」
「また無茶を言う」
「願い事は口に出さなきゃ叶わないからね」
いつの間にかスノードームは消えていた。ダイヤモンドダストという天然のシャンデリアのもと、ジュリオが軽快なステップを踏みながら穴の端まで移動する。ぺたぺたと壁を触っては耳を押し当てたりしているところを見ると、本当に隠し扉のようなものを探し出すつもりらしい。
「勇者は一度決めたら梃子でも動かない。こちらもしばらく付き合う必要がありそうだ」
まるで自分に言い聞かせるように亮太へ説明すると、ロミットはジュリオとは反対の壁際へと歩き出した。
(そういえば『極マリ』の大佐も、ジュリオのフリーダムっぷりには手を焼いてたっけ)
それでも好きなように行動させていたあたり、なんだかんだ大佐はジュリオに甘くて、だからこそ亮太はロミジュリというカップリングの存在を確信したのだった。そんな推しカプの初心を思い出して両方の口角を一度に急上昇させた亮太に、大佐が「歯が痛いのか?」と声をかけてくる。心配してもらえた! 優しい! うれしい!
「いえ、大丈夫です! えー、こほんこほん。あの、隠し扉がもし本当にあったとして、簡単に見つかるものなんですか?」
「人の手による建造物であれば、何らかの綻びや痕跡は探せるだろう。だが、ここは旧時代の遺跡だ。ある程度の規則性は存在するが、次元がねじれているので物理法則や一般常識といったものがそのまま通じるとはかぎらない。何の予兆もなく壁が扉になることがあれば、その逆もまたあり得る」
「なるほど!」(わからん!)と、心の中でこっそり付け足す。
旧時代の遺跡? 次元がねじれている? 夢にしては設定が複雑で、ついていくのが難しい。
とにかく、この遺跡とやらが不思議な場所だということだけはわかった。何かの弾みで、うっかり壁に扉ができたとしてもおかしくはないらしい。何でもありだなんていかにも夢っぽいなあと思いながら、亮太は大佐の腕の中からそっと手を伸ばす。
「わっ」
亮太が小さな手のひらを水晶の壁に押し当てた、まさにその場所から光の幾何学模様が浮かび上がった。そのままゆっくりと円状に壁を伝っていく。まるで一滴の水が落とし込まれた水面のように。
スライムたちが登場した壁の穴が開いたときも、こんな模様が現れたような気がする。触れると反応する仕組みなのだろうかとジュリオを振り向くも、さんざんペタペタされている向こうの壁には何の変化もない。不思議に思いながら、大佐を見上げる。
「こっちの壁だけキラキラするんでしょうか」
「……さて」
相変わらず、何を考えているのかわからない無表情がかっこいい。「別の場所にも触ってみてくれ」と言われたので、恐れ多くも大佐に上下や横に移動してもらいながら縦横無尽に触り続ける。そのたびに、光の輪が広がっては消えていった。けれど、それ以上の変化はみられない。
「隠し扉ありませんね」
「お前が思う『隠し扉』とは、どんなものだ」
「え?」
哲学の問題か何かだろうか。不思議な問いかけをされて、亮太は目を瞬く。
隠し扉とは何か。そのまんま、隠している扉だ。人目につかないように、壁と一体化している扉。ふとテレビの番組か何かで見た忍者屋敷を思い浮かべる。
(確か『どんでん返し』だったっけ)
壁に溶け込んでいるドアの端を押すと、くるっと回転して向こう側に行くことができるカラクリのことだ。けれどあんな和風レトロなものが、こんな西洋風かつ近未来的な遺跡の落とし穴の中にあるとは思えな――。
「ほわっ?」
壁にあてていた手に軽く体重を込めながら考え込んでいた亮太の上半身が、突然がくんと傾く。すかさず大佐が抱えなおしてくれたお陰で、落下の危険は免れた。「ありがとうございます」と礼を述べたあとで、いったい何が起こったのかと壁面に視線を向ける。すると。
「なんかズレてませんか?」
ズレる。そんな言い方が適切がどうかはわからないが、亮太にはそう見えた。継ぎ目のなかった水晶の壁の一部分――ちょうど亮太が触れていた場所を囲うように、大きな四角い亀裂が走っている。それこそ、大人一人が通過できる扉のような大きさだ。そのドアの片側が、亮太の重みを受けてわずかに壁の内側へと押し込まれている。まさに、どんでん返しが開く直前のように。
「か、回転扉です! ありました!」
「勇者」
あわわわと驚く亮太に構わず、ロミットがジュリオを振り返る。
「えっ、本当に見つけたの? あはは、すっごい!」
すぐさまうれしそうに駆け寄ってきたジュリオが、大佐の後ろからひょいと壁を覗き込んだ。「これが扉? どうやって開くの?」と疑問の声をあげたジュリオの腰をロミットが無言で引き寄せる。そうして左手に亮太、右手にジュリオを抱えたまま、何のためらいもなく肩口から回転扉に突っ込んでいった。
「ひょあああ!」という亮太の叫びは、もちろん視界がぐるりと回ったからではない。突然のロミジュリ展開によるうれしい悲鳴だ。
(え、いま、腰を抱いてましたよね? 全員で回転扉をくぐるためとはいえ、そんなにスマートに? ジュリオも全く抵抗しなかったけど、ひょっとして慣れてるの? この二人、実はもうくっついてたりしない?)
などと混乱しているうちに、目の前の風景が一瞬で変わっていた。閉鎖的な空間から、開放的な空間へ。新鮮な空気の流れを感じた亮太は、慌てて深呼吸する。混乱のため大量の酸素を欲していた脳の「かたじけない……!」という感謝の声が聞こえたような気がした。
「んー。さっきも言ったけど、壁登りはやっぱりパスしたいなあ。遺跡の入り口に直結する都合のいい隠し扉がないか探してみようよ」
「また無茶を言う」
「願い事は口に出さなきゃ叶わないからね」
いつの間にかスノードームは消えていた。ダイヤモンドダストという天然のシャンデリアのもと、ジュリオが軽快なステップを踏みながら穴の端まで移動する。ぺたぺたと壁を触っては耳を押し当てたりしているところを見ると、本当に隠し扉のようなものを探し出すつもりらしい。
「勇者は一度決めたら梃子でも動かない。こちらもしばらく付き合う必要がありそうだ」
まるで自分に言い聞かせるように亮太へ説明すると、ロミットはジュリオとは反対の壁際へと歩き出した。
(そういえば『極マリ』の大佐も、ジュリオのフリーダムっぷりには手を焼いてたっけ)
それでも好きなように行動させていたあたり、なんだかんだ大佐はジュリオに甘くて、だからこそ亮太はロミジュリというカップリングの存在を確信したのだった。そんな推しカプの初心を思い出して両方の口角を一度に急上昇させた亮太に、大佐が「歯が痛いのか?」と声をかけてくる。心配してもらえた! 優しい! うれしい!
「いえ、大丈夫です! えー、こほんこほん。あの、隠し扉がもし本当にあったとして、簡単に見つかるものなんですか?」
「人の手による建造物であれば、何らかの綻びや痕跡は探せるだろう。だが、ここは旧時代の遺跡だ。ある程度の規則性は存在するが、次元がねじれているので物理法則や一般常識といったものがそのまま通じるとはかぎらない。何の予兆もなく壁が扉になることがあれば、その逆もまたあり得る」
「なるほど!」(わからん!)と、心の中でこっそり付け足す。
旧時代の遺跡? 次元がねじれている? 夢にしては設定が複雑で、ついていくのが難しい。
とにかく、この遺跡とやらが不思議な場所だということだけはわかった。何かの弾みで、うっかり壁に扉ができたとしてもおかしくはないらしい。何でもありだなんていかにも夢っぽいなあと思いながら、亮太は大佐の腕の中からそっと手を伸ばす。
「わっ」
亮太が小さな手のひらを水晶の壁に押し当てた、まさにその場所から光の幾何学模様が浮かび上がった。そのままゆっくりと円状に壁を伝っていく。まるで一滴の水が落とし込まれた水面のように。
スライムたちが登場した壁の穴が開いたときも、こんな模様が現れたような気がする。触れると反応する仕組みなのだろうかとジュリオを振り向くも、さんざんペタペタされている向こうの壁には何の変化もない。不思議に思いながら、大佐を見上げる。
「こっちの壁だけキラキラするんでしょうか」
「……さて」
相変わらず、何を考えているのかわからない無表情がかっこいい。「別の場所にも触ってみてくれ」と言われたので、恐れ多くも大佐に上下や横に移動してもらいながら縦横無尽に触り続ける。そのたびに、光の輪が広がっては消えていった。けれど、それ以上の変化はみられない。
「隠し扉ありませんね」
「お前が思う『隠し扉』とは、どんなものだ」
「え?」
哲学の問題か何かだろうか。不思議な問いかけをされて、亮太は目を瞬く。
隠し扉とは何か。そのまんま、隠している扉だ。人目につかないように、壁と一体化している扉。ふとテレビの番組か何かで見た忍者屋敷を思い浮かべる。
(確か『どんでん返し』だったっけ)
壁に溶け込んでいるドアの端を押すと、くるっと回転して向こう側に行くことができるカラクリのことだ。けれどあんな和風レトロなものが、こんな西洋風かつ近未来的な遺跡の落とし穴の中にあるとは思えな――。
「ほわっ?」
壁にあてていた手に軽く体重を込めながら考え込んでいた亮太の上半身が、突然がくんと傾く。すかさず大佐が抱えなおしてくれたお陰で、落下の危険は免れた。「ありがとうございます」と礼を述べたあとで、いったい何が起こったのかと壁面に視線を向ける。すると。
「なんかズレてませんか?」
ズレる。そんな言い方が適切がどうかはわからないが、亮太にはそう見えた。継ぎ目のなかった水晶の壁の一部分――ちょうど亮太が触れていた場所を囲うように、大きな四角い亀裂が走っている。それこそ、大人一人が通過できる扉のような大きさだ。そのドアの片側が、亮太の重みを受けてわずかに壁の内側へと押し込まれている。まさに、どんでん返しが開く直前のように。
「か、回転扉です! ありました!」
「勇者」
あわわわと驚く亮太に構わず、ロミットがジュリオを振り返る。
「えっ、本当に見つけたの? あはは、すっごい!」
すぐさまうれしそうに駆け寄ってきたジュリオが、大佐の後ろからひょいと壁を覗き込んだ。「これが扉? どうやって開くの?」と疑問の声をあげたジュリオの腰をロミットが無言で引き寄せる。そうして左手に亮太、右手にジュリオを抱えたまま、何のためらいもなく肩口から回転扉に突っ込んでいった。
「ひょあああ!」という亮太の叫びは、もちろん視界がぐるりと回ったからではない。突然のロミジュリ展開によるうれしい悲鳴だ。
(え、いま、腰を抱いてましたよね? 全員で回転扉をくぐるためとはいえ、そんなにスマートに? ジュリオも全く抵抗しなかったけど、ひょっとして慣れてるの? この二人、実はもうくっついてたりしない?)
などと混乱しているうちに、目の前の風景が一瞬で変わっていた。閉鎖的な空間から、開放的な空間へ。新鮮な空気の流れを感じた亮太は、慌てて深呼吸する。混乱のため大量の酸素を欲していた脳の「かたじけない……!」という感謝の声が聞こえたような気がした。
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