12 / 57
第一部 第一章 カスガイくんは、魔王と勇者の子どもになりたい
1-12 勇者のユラさんと魔王のマオさん
ロミットの説明を途中で真っ二つに断ち切った、第三者の涼しげな声。それを追いかけるように、ジュリオが開けたままだったカーテンの向こうから、すらりとした人影が姿を現した。
さっぱりと整えられた朽葉色の短髪。面倒くさそうに細められていた深い新緑色の目が、亮太を見つけた瞬間に本来の大きさを取り戻す。
(誰だろう……)
知らない顔だった。少なくとも『極マリ』の登場人物ではない。年齢はジュリオと同じくらいか、少しだけ年上だろうか。かろうじて少年の域は卒業したものの、青年としてはまだまだ新人といったフレッシュな印象を受ける。そんな幼さの残る彼が、上品なブラウンのスーツをきっちりと着込んでいるものだから、そのアンバランスさがギャップとなって魅力が増し増しになっていた。端的に言って、とってもかっこいい。
「はじめまして、センリといいます。大体の事情はマオさんとユラさんから聞きました。二人がだいぶお世話になったみたいで、本当にご迷惑をおかけしてすみません」
「あ、どうもはじめまして。いえいえ全然そんなことは。お二人とも本当にかっこよくてきれいでかわいくて強くて優しくて頼りになって大変大変目の保養に……ん? マオさんとユラさん?」
丁寧に頭を下げるセンリと名乗った青年に、こちらも慌てて礼を返してついでに推しの活躍をアピールするが、初めて聞く人名らしき音の羅列が気になって軽く首を傾げる。それがロミットとジュリオの本当の名前だということは文脈で理解できたが、どっちがどっちなのかまでは判別できない。そんな亮太の様子だけで全てを悟ったらしいセンリは、表情を一瞬でこわばらせてから大きく息をはき出した。
「……あきれた。まさかそこからですか」という低いうめき声はジュリオに向けられたものであり、それをぶつけられた当の本人はといえば「そういえばそうだったっけ」などとのんきに受け流している。
「ほら、怒涛の展開で息つく暇もなかったからさ。でもまあ確かに、礼儀がなってなかったことは認めるよ。というわけで、改めて自己紹介だ」
亮太に背中を向けるような形で腰掛けていたジュリオが、おもむろにベッドに膝で乗り上げて正座をした。ぴしっと背筋を伸ばしてから、ゆっくりと頭を下げる。
「改めまして、ユラです。ここで勇者ってやつをやってます。ほら、魔王さまも」
「マオだ。勇者と同じく、ここで魔王をやっている」
「勇者のユラさんと魔王のマオさん」
まるで宝箱を開く呪文のように反芻しながら、亮太は大きく頷いた。ジュリオがユラで、ロミットがマオ。やっぱり二人とも名前が違う。二次創作の現パロ――現代パロディの略。異世界などの別次元で生きているキャラクターたちを、現代の世界観の中で生活させてみたらどうなるだろうと想像して作られた漫画や小説のこと――なんかでも、もともとのキャラの名前を変える場合はあるが、さすがにそれとは切り離して考えるべきだろう。
名前も、世界も、能力も全く違う。ただ見た目と声がロミジュリに瓜二つなだけのマオユラ。けれど亮太はすでに、マオとユラという存在を好きになってしまっている。マオユラというカップリングを推してしまっている。
だから知りたい。とにかく知りたい。何でもいいからめちゃくちゃ知りたい!
「あの、聞いてもいいですか? どうして魔王さまと勇者さんが一緒にいるんですか?」
名前が判明したところで、次に気になったのはマオユラの関係性だ。だって腐男子なんだもの。夢の中の二人は、果たしてどれくらい進んでいる仲なのかが気になって夜しか眠れそうにない。
それなりにゲームやアニメや漫画をたしなんできた者なら周知の事実ではあるが、基本的に魔王と勇者は敵対している。一緒に遺跡に入っていちゃいちゃしたりはしない。いや、昨今の作品の多様性を考えると、そこまで珍しいことではないのかもしれないが。
「なるほど。昔の魔王と勇者の殺伐とした関係は知っていても、今の魔王と勇者のシステムは知らないってカンジかあ。うん、興味深いね」
楽しそうに頷くユラの後を、眉をひそめた仏頂面のセンリが引き継ぐ。
「確かに千年前では考えられなかった光景でしょうね。魔王と勇者は世界の覇権をかけて殺し合うもの、というのが通説です。ですが、マオさんとユラさんの場合は、あくまでも仕事上の肩書きとして使用しているにすぎません。ぶっちゃけ、ただの同僚ですね。旧時代の魔王と勇者のような運命めいたものもない、因縁めいたものもない。特別な力も――まあ、あるにはありますが、それくらいです」
「そうそう、それくらいそれくらい」というユラのリズミカルな合いの手に背中を押され、亮太はさらに食いつく。「そのお仕事というのは、どんなものなんですか?」
とりあえず「魔王、お前を倒す!」「世界の半分をやるから許して勇者!」という関係性ではないことがわかった。センリは同僚だと言っていたが、その仕事とはいったい何なのか。遺跡とやらを探索して亮太のようなものを回収するような仕事を、今までにも二人で何度か経験してきたのだろうか。
「ふふ、俺たちの仕事に興味を持ってくれるのはうれしいな。それが一番の目的みたいなところもあるから余計にね。よっし、じゃあ直接その目で見てもらおっか」
言うなり、ユラがひょいっと亮太を持ち上げた。細身に見えて意外に力がある。そんなギャップもまたかわいらしいと思いながら、その温かい胸元へ迷わずダイブするのだった。
さっぱりと整えられた朽葉色の短髪。面倒くさそうに細められていた深い新緑色の目が、亮太を見つけた瞬間に本来の大きさを取り戻す。
(誰だろう……)
知らない顔だった。少なくとも『極マリ』の登場人物ではない。年齢はジュリオと同じくらいか、少しだけ年上だろうか。かろうじて少年の域は卒業したものの、青年としてはまだまだ新人といったフレッシュな印象を受ける。そんな幼さの残る彼が、上品なブラウンのスーツをきっちりと着込んでいるものだから、そのアンバランスさがギャップとなって魅力が増し増しになっていた。端的に言って、とってもかっこいい。
「はじめまして、センリといいます。大体の事情はマオさんとユラさんから聞きました。二人がだいぶお世話になったみたいで、本当にご迷惑をおかけしてすみません」
「あ、どうもはじめまして。いえいえ全然そんなことは。お二人とも本当にかっこよくてきれいでかわいくて強くて優しくて頼りになって大変大変目の保養に……ん? マオさんとユラさん?」
丁寧に頭を下げるセンリと名乗った青年に、こちらも慌てて礼を返してついでに推しの活躍をアピールするが、初めて聞く人名らしき音の羅列が気になって軽く首を傾げる。それがロミットとジュリオの本当の名前だということは文脈で理解できたが、どっちがどっちなのかまでは判別できない。そんな亮太の様子だけで全てを悟ったらしいセンリは、表情を一瞬でこわばらせてから大きく息をはき出した。
「……あきれた。まさかそこからですか」という低いうめき声はジュリオに向けられたものであり、それをぶつけられた当の本人はといえば「そういえばそうだったっけ」などとのんきに受け流している。
「ほら、怒涛の展開で息つく暇もなかったからさ。でもまあ確かに、礼儀がなってなかったことは認めるよ。というわけで、改めて自己紹介だ」
亮太に背中を向けるような形で腰掛けていたジュリオが、おもむろにベッドに膝で乗り上げて正座をした。ぴしっと背筋を伸ばしてから、ゆっくりと頭を下げる。
「改めまして、ユラです。ここで勇者ってやつをやってます。ほら、魔王さまも」
「マオだ。勇者と同じく、ここで魔王をやっている」
「勇者のユラさんと魔王のマオさん」
まるで宝箱を開く呪文のように反芻しながら、亮太は大きく頷いた。ジュリオがユラで、ロミットがマオ。やっぱり二人とも名前が違う。二次創作の現パロ――現代パロディの略。異世界などの別次元で生きているキャラクターたちを、現代の世界観の中で生活させてみたらどうなるだろうと想像して作られた漫画や小説のこと――なんかでも、もともとのキャラの名前を変える場合はあるが、さすがにそれとは切り離して考えるべきだろう。
名前も、世界も、能力も全く違う。ただ見た目と声がロミジュリに瓜二つなだけのマオユラ。けれど亮太はすでに、マオとユラという存在を好きになってしまっている。マオユラというカップリングを推してしまっている。
だから知りたい。とにかく知りたい。何でもいいからめちゃくちゃ知りたい!
「あの、聞いてもいいですか? どうして魔王さまと勇者さんが一緒にいるんですか?」
名前が判明したところで、次に気になったのはマオユラの関係性だ。だって腐男子なんだもの。夢の中の二人は、果たしてどれくらい進んでいる仲なのかが気になって夜しか眠れそうにない。
それなりにゲームやアニメや漫画をたしなんできた者なら周知の事実ではあるが、基本的に魔王と勇者は敵対している。一緒に遺跡に入っていちゃいちゃしたりはしない。いや、昨今の作品の多様性を考えると、そこまで珍しいことではないのかもしれないが。
「なるほど。昔の魔王と勇者の殺伐とした関係は知っていても、今の魔王と勇者のシステムは知らないってカンジかあ。うん、興味深いね」
楽しそうに頷くユラの後を、眉をひそめた仏頂面のセンリが引き継ぐ。
「確かに千年前では考えられなかった光景でしょうね。魔王と勇者は世界の覇権をかけて殺し合うもの、というのが通説です。ですが、マオさんとユラさんの場合は、あくまでも仕事上の肩書きとして使用しているにすぎません。ぶっちゃけ、ただの同僚ですね。旧時代の魔王と勇者のような運命めいたものもない、因縁めいたものもない。特別な力も――まあ、あるにはありますが、それくらいです」
「そうそう、それくらいそれくらい」というユラのリズミカルな合いの手に背中を押され、亮太はさらに食いつく。「そのお仕事というのは、どんなものなんですか?」
とりあえず「魔王、お前を倒す!」「世界の半分をやるから許して勇者!」という関係性ではないことがわかった。センリは同僚だと言っていたが、その仕事とはいったい何なのか。遺跡とやらを探索して亮太のようなものを回収するような仕事を、今までにも二人で何度か経験してきたのだろうか。
「ふふ、俺たちの仕事に興味を持ってくれるのはうれしいな。それが一番の目的みたいなところもあるから余計にね。よっし、じゃあ直接その目で見てもらおっか」
言うなり、ユラがひょいっと亮太を持ち上げた。細身に見えて意外に力がある。そんなギャップもまたかわいらしいと思いながら、その温かい胸元へ迷わずダイブするのだった。
あなたにおすすめの小説
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る
骸
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。
その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。
爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。
爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。
『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』
人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。
『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』
諸事情により不定期更新になります。
完結まで頑張る!