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第三章 カスガイくんは、パパとママのお仕事を見学したい
3-6 仏の顔もサンドバックですよ、こんにゃろー!
不穏な台詞に反応したイリスが視線を泳がせると、ちょうどひとりの男の子がこちらへやってくるのが見えた。座席脇の階段を登って、会場を後にしようとしている。
引率の先生はステージ付近のトラブルに対応中で、少年には気づいていない。イリスも普通ならスルーするところだが、ちょっと聞き捨てならない言葉が耳に入ったということもあって、そのままなんとなく少年の観察を続ける。
元気よくツンツンはねた髪が、いかにもやんちゃそうだ。今はだいぶ不機嫌に歪んでいるものの、それを差し引いても十分すぎるほど将来有望な顔立ちをしている。イリスより少し上くらいの年齢だろうか。シャカシャカと音がなりそうなジャケットのポケットに両手を突っ込み、高い天井を仰ぎながらだらしなく歩いている。
「オレだってエイミーちゃんがカリカリの目玉焼きが好きでも別に変だなんて思ったことないし。なのに、なんだよ。あんな奴にテキトー言われただけで、すげーうれしそうに笑っちゃってさ」
やってらんないよな、と。悪態をつく少年の様子を見て合点がいった。どうやら、あのカリカリの目玉焼きの女の子 (エイミーちゃん) がユラと話してうれしそうだったことが気に入らないらしい。
なるほど、さっきの暴言の理由はそれか。ちょっとイラっとしてしまったけれど、それなら許してあげよう。なにしろ自分は十六歳児なのでありますから。高校生は小学生の言うことに、いちいち腹なんか立てませんから。
イリスが年上の余裕の笑みを浮かべながら視線をステージに戻したところで、ユラが最前列の座席の下からひょっこりと姿を現した。あまりにも行動がすばやすぎて、誰も――おそらくマオ以外は――気づけなかったが、どうやらステージ上から一瞬で移動して、席から落ちた子どもが床に転がる前に抱きとめたらしい。
わーっという観客からの拍手を浴びてちょっと照れくさそうに笑っているユラが、白正装も相まって目に眩しすぎる。はい、僕の推しマジ天使。
「大体なんだよ、マオーとユーシャって。そんなとっくに終わった伝説を引っ張り出してきて、イイオトナたちが『ごっこ遊び』やってるとか、イタすぎるしサムすぎるだろ」
そんな大盛り上がりの光景を背にしながら、再び少年が呟いた。後ろで今まさに感動的なことが起こってるとも知らずに、イリスのほうへどんどん近づいてくる。
そのストレートな罵詈雑言に、とうとうイリスのこめかみがぴくっと音を立てた。
まあ、しかし。気になっている女の子が、とてつもなくかっこよくてかわいくてきれいな勇者と仲良くおしゃべりしているのを見てしまったら、心中穏やかではいられないだろう。少年の気持ちも、わからないでもない。
しかたない、やっぱり許してやろう。だが次はないぞ、少年。
「ユーシャのほうはヘラヘラしてるし、マオーのほうはピリピリしてるし。どいつもこいつも、あんなのの何がいいんだよ。見た目にだまされるとか、ホントださすぎ」
どうやら、まだ続けるようだ。ひょっとしたら、一度、堰を切ってしまったせいで本当は言うつもりもなかったことまで出てきてしまっているのかもしれない。
そういう経験はイリスにも、いや誰にだってあるだろう。ましてや相手はまだ子どもだ。ということで我慢。我慢よイリス。はい、深呼吸。ひっひっふー。
「どうせ魔力が強いってだけでチヤホヤされてる、ドリョクもザセツも知らない薄っぺらい連中だろ」
ぷっちーん。
少年が自分の真横を通りすぎながら吐き捨てた、その台詞が決定打になった。堪忍袋の緒をぶち切ったイリスは無言で立ち上がり、すたすたと少年の後を追う。呼吸を整え、足を踏み込み――そのまま背中めがけて全力ダッシュ!
「うおー! 仏の顔もサンドバックですよ、こんにゃろー! うおー!」
「うわっ、なんだお前!」と、体当たり寸前でイリスに気づいた少年が、反射的に逃げ出した。廊下に出ても足を止めず、それどころか速度を上げて逃走する彼をすかさず追いかける。絶対に逃がさない! 絶対にだ!
(駄目よいけないわ、イリス! あの狼男の幻獣のことを忘れたの? またマオとユラと、今度はセンリにまで心配をかけてしまうわ!)
頭の中の天使のイリスが必死に制止をかけてくるが、それを悪魔のイリスが「うっせー、黙ってろ!」と、無慈悲に蹴散らす。
(推しを理不尽に侮辱されて黙ってられる腐男子がいるか!? いねぇよなぁ!? わからせてやんねぇとなぁ!?)と、悪魔イリスがゴーサインを送ってきたので、脳内で高々とハイタッチ!
「こら、待てー! そこの少年、止まりなさーい! 今すぐ後悔させてやります!」
「なんなんだよ、怖いって! ついてくんな!」
「ボクのパパとママは世界一かっこよくてきれいで優しくて強いんです!」
「だからなんだよ! お前のパパとママの話なんかしてないだろ!」
「いろんなことができて、だからこそやりきれないこともあって、それでも誰かや何かのために頑張ってるすごい人たちなんです!」
目の前を走る少年の背中に向かって大声を張り上げながら、イリスはまるで先程までいたホールの中心でさけんでいるような錯覚を覚えた。
そうだ、あのとき本当はこう言ってやりたかった。マオとユラを前に沈黙する観客全員の首根っこをつかんで「目ん玉ひんむいてちゃんと見ろ!」と、ゆさゆさしてやりたかった。
「あと表面上は淡白に思える関係性ですけど実際はちゃんと水面下でお互いを信頼しあってるのでやっぱりラブラブなんです!」
「さっきからマジでなに言ってんだよお前っ! しつこいっての!」
等間隔で縦に並びながら、長くて広い廊下をひたすら走る。客はそれなりにいたが、みな驚いたように道を開けてくれるので衝突の心配はなかった。贅沢を言えば少年を捕まえてほしかったが、さすがに無理な相談だろう。もちろん最強の勇者に比べるべくもないが、彼は彼でなかなかすばしっこいのだ。
(は! あれはまさか、ケモ耳――!?)
ふと、少年の頭の上に犬猫のような耳がぴょこんと生えていることに気がついた。とげとげした髪にまぎれ込んでいてよく見えないが、アクセサリーか何かでなければ、ゲームやアニメによく出てくる『獣人』という種族によく似ている。そのまま流れるように視線を下にずらしてみたが、どうやら尻尾はないようだった。ひょっとして、彼も魔物なのだろうか。
「もうそろそろ止まってください! ボクの推しについて徹底的に語り合いましょう!」
「意味わかんないって! ついてくんなって!」
どこをどう走ったかは記憶にないが、階段を登った覚えもないので、おそらくホールと同じ階にあるのだろう。ひたすらまっすぐ走り続けていた少年が唐突に左に折れてどこかの部屋に突入したので、すぐさまイリスも後を追う。
そこは真っ暗だった。入り口の縦長ディスプレイに『残陽の遺跡』と表示されていたので何かの展示室だろう。照明がついていないところをみると、まだ準備中なのかもしれない。
ということは、関係者以外立ち入り禁止なのではないか。少しだけためらうが、すでに少年は中に入ってしまっているので追いかけざるをえない。
意を決して「おーい、どこにいるんですかー? 出てきてくださーい」と、小声で呼びかけながら薄暗い中をゆっくりと奥に進んでいく。
走ったりさけんだりしたので、少年への怒りはだいぶ落ち着いた。むしろ今は、こんな場所まで追い込んだことを謝らなければという気持ちになっている。うん、大人げなかった。反省反省。
「ひゃっ」
しばらく歩くと、暗闇から浮かび上がるように巨大なオブジェが現れた。思わず飛び上がったイリスの目が最初に捉えたものは、白骨化した爬虫類の頭部だ。こちらに向かって、長い首を突き出している。その先につながる二足歩行の巨躯も、太い骨や細い骨を使って精緻に組まれていた。いわゆるティラノサウルのような外見だが、それにしては前脚が異常に大きい。恐竜というよりは、想像上のドラゴンに近いかもしれない。
「ドラゴンの全身骨格……? ――あっ」
まじまじと見上げるイリスの視界に映り込む、ひょこひょこと動く影。まさかと思いながら目を見開いて確認すれば、案の定、それは自分が追っていたケモ耳の少年だった。
「な、なにしてるんですか!」
慌ててドラゴンの足元から天井へ向かって張り上げた声が、広い空間に反響する。
「お前が追ってくるからだろ!」と、イリスに返答する間にも、少年はさらに上へと登ってしまう。まるで猿のように軽やかな動きだ。思わず動物園の檻の外側にいる感覚を覚えたが、すぐにそんな場合ではないことを思い出す。彼は最強の勇者でも何でもない、普通の子どもなのだ。さすがに危険すぎる。
「ほ、ほうら、もう怒ってないですよぉ? もう追いかけたりしませんよぉ? ぜんぜん怖くないから降りてきてくださぁい?」
「急に猫なで声出すなよ! そっちのがこえーよ!」
まずい。完全に裏目に出てしまった。
ユラやマオやセンリなら、きっとすぐに解決してしまうのだろう。けれど、ここには自分しかいない。
なにか、なにかないだろうか。なにか、少年を説得できるような会心の手は――あ、そうだ。
「君が危ない目にあったらエイミーちゃんが悲しみますよー!」
「なっ! おまっ、なんでエイミーちゃんのこと――うおっ」
「あっ」
とうとうドラゴンの頭頂部にまでたどり着いた少年が、動揺からか体勢を崩してずるっと足を滑らせる。とっさに体をひねって鼻先を掴もうとした手もむなしく空を切り、そのまま。
――落ちる。
引率の先生はステージ付近のトラブルに対応中で、少年には気づいていない。イリスも普通ならスルーするところだが、ちょっと聞き捨てならない言葉が耳に入ったということもあって、そのままなんとなく少年の観察を続ける。
元気よくツンツンはねた髪が、いかにもやんちゃそうだ。今はだいぶ不機嫌に歪んでいるものの、それを差し引いても十分すぎるほど将来有望な顔立ちをしている。イリスより少し上くらいの年齢だろうか。シャカシャカと音がなりそうなジャケットのポケットに両手を突っ込み、高い天井を仰ぎながらだらしなく歩いている。
「オレだってエイミーちゃんがカリカリの目玉焼きが好きでも別に変だなんて思ったことないし。なのに、なんだよ。あんな奴にテキトー言われただけで、すげーうれしそうに笑っちゃってさ」
やってらんないよな、と。悪態をつく少年の様子を見て合点がいった。どうやら、あのカリカリの目玉焼きの女の子 (エイミーちゃん) がユラと話してうれしそうだったことが気に入らないらしい。
なるほど、さっきの暴言の理由はそれか。ちょっとイラっとしてしまったけれど、それなら許してあげよう。なにしろ自分は十六歳児なのでありますから。高校生は小学生の言うことに、いちいち腹なんか立てませんから。
イリスが年上の余裕の笑みを浮かべながら視線をステージに戻したところで、ユラが最前列の座席の下からひょっこりと姿を現した。あまりにも行動がすばやすぎて、誰も――おそらくマオ以外は――気づけなかったが、どうやらステージ上から一瞬で移動して、席から落ちた子どもが床に転がる前に抱きとめたらしい。
わーっという観客からの拍手を浴びてちょっと照れくさそうに笑っているユラが、白正装も相まって目に眩しすぎる。はい、僕の推しマジ天使。
「大体なんだよ、マオーとユーシャって。そんなとっくに終わった伝説を引っ張り出してきて、イイオトナたちが『ごっこ遊び』やってるとか、イタすぎるしサムすぎるだろ」
そんな大盛り上がりの光景を背にしながら、再び少年が呟いた。後ろで今まさに感動的なことが起こってるとも知らずに、イリスのほうへどんどん近づいてくる。
そのストレートな罵詈雑言に、とうとうイリスのこめかみがぴくっと音を立てた。
まあ、しかし。気になっている女の子が、とてつもなくかっこよくてかわいくてきれいな勇者と仲良くおしゃべりしているのを見てしまったら、心中穏やかではいられないだろう。少年の気持ちも、わからないでもない。
しかたない、やっぱり許してやろう。だが次はないぞ、少年。
「ユーシャのほうはヘラヘラしてるし、マオーのほうはピリピリしてるし。どいつもこいつも、あんなのの何がいいんだよ。見た目にだまされるとか、ホントださすぎ」
どうやら、まだ続けるようだ。ひょっとしたら、一度、堰を切ってしまったせいで本当は言うつもりもなかったことまで出てきてしまっているのかもしれない。
そういう経験はイリスにも、いや誰にだってあるだろう。ましてや相手はまだ子どもだ。ということで我慢。我慢よイリス。はい、深呼吸。ひっひっふー。
「どうせ魔力が強いってだけでチヤホヤされてる、ドリョクもザセツも知らない薄っぺらい連中だろ」
ぷっちーん。
少年が自分の真横を通りすぎながら吐き捨てた、その台詞が決定打になった。堪忍袋の緒をぶち切ったイリスは無言で立ち上がり、すたすたと少年の後を追う。呼吸を整え、足を踏み込み――そのまま背中めがけて全力ダッシュ!
「うおー! 仏の顔もサンドバックですよ、こんにゃろー! うおー!」
「うわっ、なんだお前!」と、体当たり寸前でイリスに気づいた少年が、反射的に逃げ出した。廊下に出ても足を止めず、それどころか速度を上げて逃走する彼をすかさず追いかける。絶対に逃がさない! 絶対にだ!
(駄目よいけないわ、イリス! あの狼男の幻獣のことを忘れたの? またマオとユラと、今度はセンリにまで心配をかけてしまうわ!)
頭の中の天使のイリスが必死に制止をかけてくるが、それを悪魔のイリスが「うっせー、黙ってろ!」と、無慈悲に蹴散らす。
(推しを理不尽に侮辱されて黙ってられる腐男子がいるか!? いねぇよなぁ!? わからせてやんねぇとなぁ!?)と、悪魔イリスがゴーサインを送ってきたので、脳内で高々とハイタッチ!
「こら、待てー! そこの少年、止まりなさーい! 今すぐ後悔させてやります!」
「なんなんだよ、怖いって! ついてくんな!」
「ボクのパパとママは世界一かっこよくてきれいで優しくて強いんです!」
「だからなんだよ! お前のパパとママの話なんかしてないだろ!」
「いろんなことができて、だからこそやりきれないこともあって、それでも誰かや何かのために頑張ってるすごい人たちなんです!」
目の前を走る少年の背中に向かって大声を張り上げながら、イリスはまるで先程までいたホールの中心でさけんでいるような錯覚を覚えた。
そうだ、あのとき本当はこう言ってやりたかった。マオとユラを前に沈黙する観客全員の首根っこをつかんで「目ん玉ひんむいてちゃんと見ろ!」と、ゆさゆさしてやりたかった。
「あと表面上は淡白に思える関係性ですけど実際はちゃんと水面下でお互いを信頼しあってるのでやっぱりラブラブなんです!」
「さっきからマジでなに言ってんだよお前っ! しつこいっての!」
等間隔で縦に並びながら、長くて広い廊下をひたすら走る。客はそれなりにいたが、みな驚いたように道を開けてくれるので衝突の心配はなかった。贅沢を言えば少年を捕まえてほしかったが、さすがに無理な相談だろう。もちろん最強の勇者に比べるべくもないが、彼は彼でなかなかすばしっこいのだ。
(は! あれはまさか、ケモ耳――!?)
ふと、少年の頭の上に犬猫のような耳がぴょこんと生えていることに気がついた。とげとげした髪にまぎれ込んでいてよく見えないが、アクセサリーか何かでなければ、ゲームやアニメによく出てくる『獣人』という種族によく似ている。そのまま流れるように視線を下にずらしてみたが、どうやら尻尾はないようだった。ひょっとして、彼も魔物なのだろうか。
「もうそろそろ止まってください! ボクの推しについて徹底的に語り合いましょう!」
「意味わかんないって! ついてくんなって!」
どこをどう走ったかは記憶にないが、階段を登った覚えもないので、おそらくホールと同じ階にあるのだろう。ひたすらまっすぐ走り続けていた少年が唐突に左に折れてどこかの部屋に突入したので、すぐさまイリスも後を追う。
そこは真っ暗だった。入り口の縦長ディスプレイに『残陽の遺跡』と表示されていたので何かの展示室だろう。照明がついていないところをみると、まだ準備中なのかもしれない。
ということは、関係者以外立ち入り禁止なのではないか。少しだけためらうが、すでに少年は中に入ってしまっているので追いかけざるをえない。
意を決して「おーい、どこにいるんですかー? 出てきてくださーい」と、小声で呼びかけながら薄暗い中をゆっくりと奥に進んでいく。
走ったりさけんだりしたので、少年への怒りはだいぶ落ち着いた。むしろ今は、こんな場所まで追い込んだことを謝らなければという気持ちになっている。うん、大人げなかった。反省反省。
「ひゃっ」
しばらく歩くと、暗闇から浮かび上がるように巨大なオブジェが現れた。思わず飛び上がったイリスの目が最初に捉えたものは、白骨化した爬虫類の頭部だ。こちらに向かって、長い首を突き出している。その先につながる二足歩行の巨躯も、太い骨や細い骨を使って精緻に組まれていた。いわゆるティラノサウルのような外見だが、それにしては前脚が異常に大きい。恐竜というよりは、想像上のドラゴンに近いかもしれない。
「ドラゴンの全身骨格……? ――あっ」
まじまじと見上げるイリスの視界に映り込む、ひょこひょこと動く影。まさかと思いながら目を見開いて確認すれば、案の定、それは自分が追っていたケモ耳の少年だった。
「な、なにしてるんですか!」
慌ててドラゴンの足元から天井へ向かって張り上げた声が、広い空間に反響する。
「お前が追ってくるからだろ!」と、イリスに返答する間にも、少年はさらに上へと登ってしまう。まるで猿のように軽やかな動きだ。思わず動物園の檻の外側にいる感覚を覚えたが、すぐにそんな場合ではないことを思い出す。彼は最強の勇者でも何でもない、普通の子どもなのだ。さすがに危険すぎる。
「ほ、ほうら、もう怒ってないですよぉ? もう追いかけたりしませんよぉ? ぜんぜん怖くないから降りてきてくださぁい?」
「急に猫なで声出すなよ! そっちのがこえーよ!」
まずい。完全に裏目に出てしまった。
ユラやマオやセンリなら、きっとすぐに解決してしまうのだろう。けれど、ここには自分しかいない。
なにか、なにかないだろうか。なにか、少年を説得できるような会心の手は――あ、そうだ。
「君が危ない目にあったらエイミーちゃんが悲しみますよー!」
「なっ! おまっ、なんでエイミーちゃんのこと――うおっ」
「あっ」
とうとうドラゴンの頭頂部にまでたどり着いた少年が、動揺からか体勢を崩してずるっと足を滑らせる。とっさに体をひねって鼻先を掴もうとした手もむなしく空を切り、そのまま。
――落ちる。
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