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第二部 第四章 カスガイくんは、旅行の準備を一緒にしたい
4-2 これでも絞りに絞ったんだよ!
「イリスは本当になんでも似合うね、すごいね。どうしてこんなにかわいいんだろうね」
ここまでテンションの高いユラは初めて見たかもしれない。いや、最初に会った日もこんな感じだっただろうか。
ブレンゼルのカフェの二階で「三人一緒に川の字になって寝よう」と提案した、あの日。荷物を取りに戻ったマオと別れて、二人だけで当面の着替えを確保するために赴いたブティックでも、終始ユラはこんな状態だった。見ているこちらがへにゃへにゃになるくらい楽しそうだったので、『推しの幸せは世界平和につながる』と、本気で思ってしまったくらいだ。
あきらかに女の子用のデザインであるにも関わらず、次から次へとあてがってくるユラに最初は戸惑ったものの、「似合うんだから別によくない?」と当たり前のように首を傾げられてしまえば、こちらも首を縦に振るしかない。
そうだよね、似合うんだからしょうがないよね。かわいいんだからしかたないよね。
なので、今回も大人しく着せ替え人形になっている。マネキンよろしく、店の中央にある小さなお立ち台の上で両手を広げて待つイリスのもとに、たくさんのハンガーを両手にぶら下げたユラがやってくると、片っ端から服をあてては下げ、あてては下げる。すさまじいヒットアンドアウェイだ。
「はふぅ」
ようやく予選が終わり、ユラが本選に向けての選考タイムに入ったところで、イリスは休憩を取ることにする。おしゃれな長ソファに座ってユラたちのやり取りを無言で眺めていたマオの隣に腰掛けると、すぐに頭を優しく撫でられた。
「疲れたか」
「ぜんぜん大丈夫です、まだまだ余裕です! でも本音を言えば、ぼくよりもパパやママの服を選んでほしいです!」
「おれもか?」
「はい! かっこいいから、きっとなんでも似合っちゃいます! あ、あ、ひょっとしたらかっこよすぎて服がかすんじゃうかもしれないですが、ママならきっとパパにぴったりなすてきな服を選んでくれると思います!」
「勇者が?」
マオは不思議そうに首を傾げると、そのまま視線を前方へ向けた。ユラは魔物と人間、それぞれのスタッフさんたちの意見を聞きながら、イリスの服を楽しそうに選んでいる。そんな勇者の姿を見て、魔王は再び首を横に倒した。『とても想像できない』という文字が、端麗すぎる顔に書いてある。
「パパとママは、今まで二人だけでお買い物に行くことはなかったんですか?」
「ああ、ほとんどないな。現場に向かうまでの過程で、少し寄り道をすることくらいはあったが」
「お仕事で遠くに行ったりすることは?」
「そこまで遠出らしい遠出はしたことがない。アンバーサスはイルメリウムの各地に配属されていて、そこで起きた事象は基本的にその区域の担当が対応する。だから、おれたちがわざわざ遠方まで出向く必要は、ほとんどなかった」
なるほど。つまり、今までは本当にほぼ仕事だけの関係だったのか。イリスが二人の子どもになるというイレギュラーが発生しなければ、こうしてアパレルショップに入ることもなかったわけで――いや、ちょっと待って。そんなことある? そんなことがあっていいわけなくない?
「なんだかとっても不思議です! 八年も一緒にアンバーサスをやっているなら、もっとプライベートな交流があると思っていました」
「中にはそういうアンバーサスもいるが、おれたちは少し違うようだ。――勇者の年相応の姿も、久しぶりに見た気がする」
はしゃぐユラを眺めるマオの横顔が、どこかさみしそうだと思ってしまうのは、イリスの腐男子フィルターのせいだけだろうか。
「どうして今まで、仕事以外でのお付き合いがなかったんですか?」
「ん?」
「だってパパとママは仲良しさんじゃないですか。こんなに仲良しなら、普通は一緒にどこかに遊びに行ったりするものだと思います」
先日、サードで行われた企画展示のイベントで、二人の馴れ初めを聞いたときにも浮かんだ疑問だ。お互いのことを心の底から信頼して理解し合っているにも関わらず、なぜ普通の友達がするような交流をしていないのだろうか。
「……仲良しかどうかは、おれだけの意見では決められないが。確かに、そうだな。普通の友人なら、そうするだろうな」
マオはそれだけ呟くと、考え込むように目を伏せる。なにか、そうできない理由でもあるのだろうか。気になって気になって仕方ないので、イリスがさらに突っ込んだ質問をしようとした、ちょうどそのとき。「お待たせ! これ着てみて、イリス!」と、ユラが大量の服を抱えて戻ってきた。
「ママ、ちょっといっぱいです。日が暮れちゃいます」
「これでも絞りに絞ったんだよ! これだけ! これだけだから! これ着てるところ見たい! 見せて! お願い!」などと必死で懇願してくる推しを断れるはずもなく、そのまま一緒に試着室へ向かう。
中で着替えて外に出て、マオに「よく似合っている」と言われて、また戻る。
また着替えて外に出て、マオに「よく似合っている」と言われて、また戻る。
それを何度か繰り返し、結局「これ全部ください!」と、満足げに精算をするユラ。屋敷への配送も頼むことができたので、三人とも身軽な状態で店を出た。
「ありがとうございます、ママ。とってもうれしいです。でも旅行の準備って、きっともっとほかにも色々あるはずですよね?」
「うん、そうだね。イリスの言うとおりだね。ついついテンションが上がって優先順位を見失っちゃったよ。じゃあこのあとは、イリスのおもちゃとかイリスの本とかイリスの生活用品とか選びに行こっか」
「やっぱりぼくのものばっかりです!」
うれしいけど、そうじゃない。もっとマオやユラ自身の買い物も含めて、トータルでショッピングを楽しみたいのである。ツインテールをぶんぶんと振り回しながら頭を振ったところで、何やら大きなざわめきが耳に飛び込んできた。
やれやれ、またこの最強のアンバーサスにみんなが見とれているな。そう思って周囲を確認したが、その予想は意外にも外れてしまった。なにやら少し離れた店の一角を半円状に囲むように人だかりができている。
なんだろう。即完売の超人気商品の販売、もしくはタイムセールだろうか。気になって目を凝らしていると、人ごみの垣根が割れ、中から二つの人影が現れた。
(――双子?)
ここまでテンションの高いユラは初めて見たかもしれない。いや、最初に会った日もこんな感じだっただろうか。
ブレンゼルのカフェの二階で「三人一緒に川の字になって寝よう」と提案した、あの日。荷物を取りに戻ったマオと別れて、二人だけで当面の着替えを確保するために赴いたブティックでも、終始ユラはこんな状態だった。見ているこちらがへにゃへにゃになるくらい楽しそうだったので、『推しの幸せは世界平和につながる』と、本気で思ってしまったくらいだ。
あきらかに女の子用のデザインであるにも関わらず、次から次へとあてがってくるユラに最初は戸惑ったものの、「似合うんだから別によくない?」と当たり前のように首を傾げられてしまえば、こちらも首を縦に振るしかない。
そうだよね、似合うんだからしょうがないよね。かわいいんだからしかたないよね。
なので、今回も大人しく着せ替え人形になっている。マネキンよろしく、店の中央にある小さなお立ち台の上で両手を広げて待つイリスのもとに、たくさんのハンガーを両手にぶら下げたユラがやってくると、片っ端から服をあてては下げ、あてては下げる。すさまじいヒットアンドアウェイだ。
「はふぅ」
ようやく予選が終わり、ユラが本選に向けての選考タイムに入ったところで、イリスは休憩を取ることにする。おしゃれな長ソファに座ってユラたちのやり取りを無言で眺めていたマオの隣に腰掛けると、すぐに頭を優しく撫でられた。
「疲れたか」
「ぜんぜん大丈夫です、まだまだ余裕です! でも本音を言えば、ぼくよりもパパやママの服を選んでほしいです!」
「おれもか?」
「はい! かっこいいから、きっとなんでも似合っちゃいます! あ、あ、ひょっとしたらかっこよすぎて服がかすんじゃうかもしれないですが、ママならきっとパパにぴったりなすてきな服を選んでくれると思います!」
「勇者が?」
マオは不思議そうに首を傾げると、そのまま視線を前方へ向けた。ユラは魔物と人間、それぞれのスタッフさんたちの意見を聞きながら、イリスの服を楽しそうに選んでいる。そんな勇者の姿を見て、魔王は再び首を横に倒した。『とても想像できない』という文字が、端麗すぎる顔に書いてある。
「パパとママは、今まで二人だけでお買い物に行くことはなかったんですか?」
「ああ、ほとんどないな。現場に向かうまでの過程で、少し寄り道をすることくらいはあったが」
「お仕事で遠くに行ったりすることは?」
「そこまで遠出らしい遠出はしたことがない。アンバーサスはイルメリウムの各地に配属されていて、そこで起きた事象は基本的にその区域の担当が対応する。だから、おれたちがわざわざ遠方まで出向く必要は、ほとんどなかった」
なるほど。つまり、今までは本当にほぼ仕事だけの関係だったのか。イリスが二人の子どもになるというイレギュラーが発生しなければ、こうしてアパレルショップに入ることもなかったわけで――いや、ちょっと待って。そんなことある? そんなことがあっていいわけなくない?
「なんだかとっても不思議です! 八年も一緒にアンバーサスをやっているなら、もっとプライベートな交流があると思っていました」
「中にはそういうアンバーサスもいるが、おれたちは少し違うようだ。――勇者の年相応の姿も、久しぶりに見た気がする」
はしゃぐユラを眺めるマオの横顔が、どこかさみしそうだと思ってしまうのは、イリスの腐男子フィルターのせいだけだろうか。
「どうして今まで、仕事以外でのお付き合いがなかったんですか?」
「ん?」
「だってパパとママは仲良しさんじゃないですか。こんなに仲良しなら、普通は一緒にどこかに遊びに行ったりするものだと思います」
先日、サードで行われた企画展示のイベントで、二人の馴れ初めを聞いたときにも浮かんだ疑問だ。お互いのことを心の底から信頼して理解し合っているにも関わらず、なぜ普通の友達がするような交流をしていないのだろうか。
「……仲良しかどうかは、おれだけの意見では決められないが。確かに、そうだな。普通の友人なら、そうするだろうな」
マオはそれだけ呟くと、考え込むように目を伏せる。なにか、そうできない理由でもあるのだろうか。気になって気になって仕方ないので、イリスがさらに突っ込んだ質問をしようとした、ちょうどそのとき。「お待たせ! これ着てみて、イリス!」と、ユラが大量の服を抱えて戻ってきた。
「ママ、ちょっといっぱいです。日が暮れちゃいます」
「これでも絞りに絞ったんだよ! これだけ! これだけだから! これ着てるところ見たい! 見せて! お願い!」などと必死で懇願してくる推しを断れるはずもなく、そのまま一緒に試着室へ向かう。
中で着替えて外に出て、マオに「よく似合っている」と言われて、また戻る。
また着替えて外に出て、マオに「よく似合っている」と言われて、また戻る。
それを何度か繰り返し、結局「これ全部ください!」と、満足げに精算をするユラ。屋敷への配送も頼むことができたので、三人とも身軽な状態で店を出た。
「ありがとうございます、ママ。とってもうれしいです。でも旅行の準備って、きっともっとほかにも色々あるはずですよね?」
「うん、そうだね。イリスの言うとおりだね。ついついテンションが上がって優先順位を見失っちゃったよ。じゃあこのあとは、イリスのおもちゃとかイリスの本とかイリスの生活用品とか選びに行こっか」
「やっぱりぼくのものばっかりです!」
うれしいけど、そうじゃない。もっとマオやユラ自身の買い物も含めて、トータルでショッピングを楽しみたいのである。ツインテールをぶんぶんと振り回しながら頭を振ったところで、何やら大きなざわめきが耳に飛び込んできた。
やれやれ、またこの最強のアンバーサスにみんなが見とれているな。そう思って周囲を確認したが、その予想は意外にも外れてしまった。なにやら少し離れた店の一角を半円状に囲むように人だかりができている。
なんだろう。即完売の超人気商品の販売、もしくはタイムセールだろうか。気になって目を凝らしていると、人ごみの垣根が割れ、中から二つの人影が現れた。
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