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第二部 第四章 カスガイくんは、旅行の準備を一緒にしたい
4-3 ゼリーの金魚鉢が降ってきて世界が終わっちゃうかもー!
遠目からなので顔の造作がはっきりとはわからないものの、雰囲気でなんとなくそう思った。おそらく髪型が同じだからだろう。二人とも、真っ白な髪を腰まで伸ばしている。それ自体は清楚で神秘的だと思ったが、一部に大胆にメッシュが入っているせいか、奇抜で派手という真逆な印象も受けた。ひとりは赤を基調とした暖色系。もうひとりは青を基調とした寒色系。それが二人を見分ける最大の特徴となっているのは間違いない。
(すごくインパクトのある人たちだ)
ただそこに立っているだけで、一般人とは異なる空気をまとっているのがわかった。それこそ、マオやユラに近いものを感じる。しばらくぼんやりと眺めていると、分厚い人垣に笑顔を振りまいていた暖色系メッシュの青年が、突如として弾かれたようにこちらへ首をめぐらせた。
視線が強い。見られている、めちゃくちゃ見られている!
イリスが慌てて目を逸らすより早く、暖色系メッシュ青年が動いた。「ごめん、ちょっとお友達見つけちゃった! また今度っ! きょうの生放送で会おうぞ!」と、取り巻きたちに言い残すと、寒色系メッシュ青年の腕を掴んでイリスたちのほうへやってくる。速い速い速い速い。足がとんでもなく長い。
「えっ、えっ」と、イリスがうろたえながらマオとユラを交互に見上げている間に、双子はすぐ目の前まで迫ってきた。マオほどではないが、二人とも海外モデル並みに背が高い。漫画のキャラのような細身で抜群のスタイルを、ぴっちりとしたジャンプスーツで包んでいる。レザーに似た光沢を放つ滑らかな素材とサイケデリックな柄という、一歩間違えば下品にもなりそうな服を上品に着こなしているあたり、あきらかに只者ではない。
「うっそ、ちょー奇遇じゃーん! やっほー、お元気―? マオくんとユラくんが仲良く一緒にお買い物なんて珍しっ! ゼリーでできた金魚鉢が降ってきて世界が終わっちゃうかもー!」
「大変大変! グレイちゃんの言ってたことってホントだったんだー! このぱっちりおめめで見るまでは信じられないと思ってたけど、そっかそっかすごいねー! こんなことってあるんだねー!」
「じゃあやっぱりあのイベントに二人を招待したのは大大大正解だったってことじゃん! やったよ、ソワレ!」
「やったね、マチネ! やっぱり面白いと思ったことは、積極的にやっていくべきだよね! そうすれば世界はきっと楽しいことばっかりだね!」
キャッキャと両手を合わせて笑い合う双子。笑顔も仕草も、まるで鏡合わせのようにそっくりだ。そんな二人の間に「はいはい、ストーップ」と、ユラの呆れた声が差し挟まれる。
「こっちを置いてけぼりにしてそっちだけで盛り上がるのはやめてって、いつも言ってるよね? それに……そうそうそうだよ、あのイベントの件。通話でははぐらかされたけど、あれ、ホントいったいどういうつもりで――」
「まーまーまーまー! その話はあとでゆっくりしようよ! それより子どもちゃん! ぼく、子どもちゃんにご挨拶したいでーす!」
『子どもちゃん』とは、ひょっとしなくても自分のことだろうか。スピーディーな展開についていけず混乱しているイリスの前に、暖色系メッシュ青年が滑るようにしゃがみ込んでくる。その目線の低さといったら、ちょっとした小型犬だ。関節がないのかと思うくらい、身体が柔らかすぎる。
「こんにちは! はじめまして、ぼくはマチネです! ユラくんと同じ、勇者をやってます! 子どもちゃんのお名前を聞いてもいいですかっ?」
「あっ、はい! はじめまして、マチネさん! ぼくはイリスです! よろしくお願いします!」
「わあっ、元気なご挨拶をありがとう! うれしいな、とってもうれしいな! こちらこそ、よろしくお願いしまーす!」
ぺこりと頭を下げたら、ぺこりと頭を下げられた。マチネと名乗った青年は艶やかな長い白髪が床をずるずる引きずることもお構いなしで、全開の笑顔を向けてくる。
「はいはい、ボクもボクも! はじめまして、ソワレです! マオくんと同じ、魔王をやってます! とっても仲良しなお仕事仲間です! イリスくんは、どういうご関係ですか?」
「はっ、はじめまして、ソワレさん! あーっと、えっと、あのですねっ」
寒色系メッシュ青年が、マチネと同じような姿勢で同じように顔を覗き込んでくる。そちらにも慌てて挨拶を返してから、イリスは質問に対する答えを必死に考え始めた。
(二人がパパとママだとは絶対に言えない!)
そう。マオとユラとイリスの不思議な親子関係は、迂闊に口に出してはならない。なぜなら事前にセンリと約束したからだ。最強のアンバーサスをこれから表舞台で売り出すつもりなら、イリスの存在は隠したほうがいい。企画展示のイベントの後で、そう自分から提案した。
だって推しに子どもがいるなんてわかったら、落ち込む人もいるかもしれない。せっかくマオとユラに興味を持ってくれた人が、それをきっかけに離れてしまうかもしれない。そんなさみしい思いを、二人にはさせたくなかった。イリスが力説すると、センリは渋い表情を浮かべながらも、「イリスさんがそう言うなら」と、ひとまず了承してくれた。なので、その約束を自分から反故にするわけにはいかないのである。
(でも、どうしよう! 言わないことは決めてたけど、聞かれたときにどう答えるかは決めてなかった!)
慌てて必死に頭をめぐらす。今までの情報をまとめて、それっぽい答えを導き出すのだ。
でも待って、そもそも自分は人間なの? 魔物なの? 秘宝でいいの? 秘宝ってなに? 分類、器物?
「マ、ユラさんの親戚……は、いないので、パ、マオさんの――」
うっかりパパママと言いかけながらも、そういえば、マオのほうの事情はあまりよく知らなかったなと、ぼんやり考える。両親は、兄妹はいるんだろうか。そもそも魔物に家族はいるのか。ブレンゼルの両親は、やっぱりメンダコなのだろうか。
「いえ、あの、マオさんのほうとはあまり関係がなくて、やっぱりユラさんのほうの――」
「そう。イリスは俺のばあちゃんのカフェの人間の常連客の親戚の近所の子どもで、きょうはたまたま俺と魔王さまと一緒に遊びに来たんだよ」
ユラの助け舟に便乗して「そうなんです!」と、イリスは全力で首を縦に振り続ける。
「ほえーん、すっごく遠いお知り合い! わかった、そういうことにしておくよ! ね、ね、ツインテールかわいいね! ぼくもやってみたい! やってもいい? ソワレ! ソワレ!」
「はいはーい」と、ご指名を受けたソワレが素早く立ち上がり、慣れた手つきでマチネの髪の毛を結い上げていく。目の前の青年が、瞬く間にツインテールにされていく姿を眺めながら、イリスは「ほえー」と、感心の声を上げた。ユラもそうだが、この世界の美形はみんな髪結いのスキルを習得しているのだろうか。
「ありがと、ソワレ! はい、イリスくんとお揃いです! どう? かわいい?」
「はい、とってもかわいいです! すっごく似合ってます!」
お世辞でもなんでもなく、心の底からそう思う。成人男性のツインテール姿を見る機会は今まで全くといっていいほどなかったが、どんな髪型でも似合う人は似合ってしまうらしい。イリスがぴょんぴょん跳ねながらストレートに褒め称えれば、マチネの笑顔がふにゃりととろけた。「わあぁい! うれしいなっ! ありがとう!」
「さて。ファースコンタクトはそのくらいでいい? さすがに衆目を集めすぎたから、ひとまず場所を変えて仕切り直したいんだけど」
「あ」
(すごくインパクトのある人たちだ)
ただそこに立っているだけで、一般人とは異なる空気をまとっているのがわかった。それこそ、マオやユラに近いものを感じる。しばらくぼんやりと眺めていると、分厚い人垣に笑顔を振りまいていた暖色系メッシュの青年が、突如として弾かれたようにこちらへ首をめぐらせた。
視線が強い。見られている、めちゃくちゃ見られている!
イリスが慌てて目を逸らすより早く、暖色系メッシュ青年が動いた。「ごめん、ちょっとお友達見つけちゃった! また今度っ! きょうの生放送で会おうぞ!」と、取り巻きたちに言い残すと、寒色系メッシュ青年の腕を掴んでイリスたちのほうへやってくる。速い速い速い速い。足がとんでもなく長い。
「えっ、えっ」と、イリスがうろたえながらマオとユラを交互に見上げている間に、双子はすぐ目の前まで迫ってきた。マオほどではないが、二人とも海外モデル並みに背が高い。漫画のキャラのような細身で抜群のスタイルを、ぴっちりとしたジャンプスーツで包んでいる。レザーに似た光沢を放つ滑らかな素材とサイケデリックな柄という、一歩間違えば下品にもなりそうな服を上品に着こなしているあたり、あきらかに只者ではない。
「うっそ、ちょー奇遇じゃーん! やっほー、お元気―? マオくんとユラくんが仲良く一緒にお買い物なんて珍しっ! ゼリーでできた金魚鉢が降ってきて世界が終わっちゃうかもー!」
「大変大変! グレイちゃんの言ってたことってホントだったんだー! このぱっちりおめめで見るまでは信じられないと思ってたけど、そっかそっかすごいねー! こんなことってあるんだねー!」
「じゃあやっぱりあのイベントに二人を招待したのは大大大正解だったってことじゃん! やったよ、ソワレ!」
「やったね、マチネ! やっぱり面白いと思ったことは、積極的にやっていくべきだよね! そうすれば世界はきっと楽しいことばっかりだね!」
キャッキャと両手を合わせて笑い合う双子。笑顔も仕草も、まるで鏡合わせのようにそっくりだ。そんな二人の間に「はいはい、ストーップ」と、ユラの呆れた声が差し挟まれる。
「こっちを置いてけぼりにしてそっちだけで盛り上がるのはやめてって、いつも言ってるよね? それに……そうそうそうだよ、あのイベントの件。通話でははぐらかされたけど、あれ、ホントいったいどういうつもりで――」
「まーまーまーまー! その話はあとでゆっくりしようよ! それより子どもちゃん! ぼく、子どもちゃんにご挨拶したいでーす!」
『子どもちゃん』とは、ひょっとしなくても自分のことだろうか。スピーディーな展開についていけず混乱しているイリスの前に、暖色系メッシュ青年が滑るようにしゃがみ込んでくる。その目線の低さといったら、ちょっとした小型犬だ。関節がないのかと思うくらい、身体が柔らかすぎる。
「こんにちは! はじめまして、ぼくはマチネです! ユラくんと同じ、勇者をやってます! 子どもちゃんのお名前を聞いてもいいですかっ?」
「あっ、はい! はじめまして、マチネさん! ぼくはイリスです! よろしくお願いします!」
「わあっ、元気なご挨拶をありがとう! うれしいな、とってもうれしいな! こちらこそ、よろしくお願いしまーす!」
ぺこりと頭を下げたら、ぺこりと頭を下げられた。マチネと名乗った青年は艶やかな長い白髪が床をずるずる引きずることもお構いなしで、全開の笑顔を向けてくる。
「はいはい、ボクもボクも! はじめまして、ソワレです! マオくんと同じ、魔王をやってます! とっても仲良しなお仕事仲間です! イリスくんは、どういうご関係ですか?」
「はっ、はじめまして、ソワレさん! あーっと、えっと、あのですねっ」
寒色系メッシュ青年が、マチネと同じような姿勢で同じように顔を覗き込んでくる。そちらにも慌てて挨拶を返してから、イリスは質問に対する答えを必死に考え始めた。
(二人がパパとママだとは絶対に言えない!)
そう。マオとユラとイリスの不思議な親子関係は、迂闊に口に出してはならない。なぜなら事前にセンリと約束したからだ。最強のアンバーサスをこれから表舞台で売り出すつもりなら、イリスの存在は隠したほうがいい。企画展示のイベントの後で、そう自分から提案した。
だって推しに子どもがいるなんてわかったら、落ち込む人もいるかもしれない。せっかくマオとユラに興味を持ってくれた人が、それをきっかけに離れてしまうかもしれない。そんなさみしい思いを、二人にはさせたくなかった。イリスが力説すると、センリは渋い表情を浮かべながらも、「イリスさんがそう言うなら」と、ひとまず了承してくれた。なので、その約束を自分から反故にするわけにはいかないのである。
(でも、どうしよう! 言わないことは決めてたけど、聞かれたときにどう答えるかは決めてなかった!)
慌てて必死に頭をめぐらす。今までの情報をまとめて、それっぽい答えを導き出すのだ。
でも待って、そもそも自分は人間なの? 魔物なの? 秘宝でいいの? 秘宝ってなに? 分類、器物?
「マ、ユラさんの親戚……は、いないので、パ、マオさんの――」
うっかりパパママと言いかけながらも、そういえば、マオのほうの事情はあまりよく知らなかったなと、ぼんやり考える。両親は、兄妹はいるんだろうか。そもそも魔物に家族はいるのか。ブレンゼルの両親は、やっぱりメンダコなのだろうか。
「いえ、あの、マオさんのほうとはあまり関係がなくて、やっぱりユラさんのほうの――」
「そう。イリスは俺のばあちゃんのカフェの人間の常連客の親戚の近所の子どもで、きょうはたまたま俺と魔王さまと一緒に遊びに来たんだよ」
ユラの助け舟に便乗して「そうなんです!」と、イリスは全力で首を縦に振り続ける。
「ほえーん、すっごく遠いお知り合い! わかった、そういうことにしておくよ! ね、ね、ツインテールかわいいね! ぼくもやってみたい! やってもいい? ソワレ! ソワレ!」
「はいはーい」と、ご指名を受けたソワレが素早く立ち上がり、慣れた手つきでマチネの髪の毛を結い上げていく。目の前の青年が、瞬く間にツインテールにされていく姿を眺めながら、イリスは「ほえー」と、感心の声を上げた。ユラもそうだが、この世界の美形はみんな髪結いのスキルを習得しているのだろうか。
「ありがと、ソワレ! はい、イリスくんとお揃いです! どう? かわいい?」
「はい、とってもかわいいです! すっごく似合ってます!」
お世辞でもなんでもなく、心の底からそう思う。成人男性のツインテール姿を見る機会は今まで全くといっていいほどなかったが、どんな髪型でも似合う人は似合ってしまうらしい。イリスがぴょんぴょん跳ねながらストレートに褒め称えれば、マチネの笑顔がふにゃりととろけた。「わあぁい! うれしいなっ! ありがとう!」
「さて。ファースコンタクトはそのくらいでいい? さすがに衆目を集めすぎたから、ひとまず場所を変えて仕切り直したいんだけど」
「あ」
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