【二部開始】魔王と勇者のカスガイくん~腐男子が転生して推しカプの子どもになりました~

森原ヘキイ

文字の大きさ
55 / 57
第二部 第四章 カスガイくんは、旅行の準備を一緒にしたい

4-9 だれなんですかそのひとーーーー!!

しおりを挟む
「そういうことだから、マオくん製のスノードームに閉じ込められちゃった君は、もう魔法は使えませーん! このまま第三総括のところに強制送還しまーす!」
『なんでやねん! せっかくここまで来たのに! まだ遊んでへんやんか!』

 水晶くんが、じたじたともがいている。いや、姿は見えないのだが、不思議とそんな気配がした。まるで子どもみたいだと、ぼんやり思ったところで、ある疑問が頭をよぎる。

「そのひとは悪いひとなんですか?」
「ん?」

 久しぶりに会ったマオに気を取られすぎてすっかり放置してしまっていたが、そもそも水晶くんはなぜスノードームに閉じ込められているのだろう。しかも『強制送還』なんて物騒なワードまでついてきている。この情報だけで考えれば、まるで凶悪犯のようだ。けれどイリスには、とてもそんなふうには見えなかった。

「そのひとが何か悪いことをしたから、ソワレさんたちが捕まえに来たんですか?」

 尋ねたソワレだけでなく、その隣のマオや、イリスの両脇に立つ勇者組にも注目されながら、イリスは首を傾げた。

「んんん? そう言われると、そんなこともないような気がしてきちゃった! えっとね、どうしよう。この子はまだ、良いことと悪いことの区別がついてないって言えばいいのかな。なんといっても、生まれたてホヤホヤだから!」
「えっ」
『そんくらいわかっとるわ、ぼけソワレ! ガキ扱いすんなや!』
「つまり魔物の赤ちゃんってことですか?」
『誰が赤ちゃんやねん! ……って、お前のほうがよっぽど赤ちゃんみたいなサイズやないか、おチビ! どついたろか!』
「おチビじゃないですぅ。パパとママがつけてくれた、イリスっていう最高に最強な名前があるんですぅ」

 イリスが両手を腰に当てながらマウント気味に自己紹介すると、ややあってスノードームから、『パパとママ……?』という怪訝な声が上がった。

「そうですよ。水晶くんのパパとママは、どこにいるんですか?」
『誰が水晶くんやねん。そんなもん、おらへんわ』
「え」

 ひょっとしてデリケートな話題だっただろうか。焦ったイリスは、助けを求めるように正面の魔王組を見上げる。しかし、ソワレは相変わらずの笑顔であり、マオもまた、いつもの怜悧な美貌を崩すことなく静かに口を開いた。

「魔物は有性生殖による親子関係を持たない。特定の環境下で自発的に形成される生命体だ」
「えっと? ということは?」

 首を勢いよく横に倒したイリスを見て、ソワレが人差し指を空に向けながらくるくると回す。

「さっき眞素の話をしたでしょ? 実はボクたち魔物も、簡単に言えば眞素から生まれるんだよね。イリスくんは、精霊って知ってるかな?」
「はい、知ってます!」

 ホンキバタンの執事とウサギのぬいぐるみを思い出しながら、イリスはこくこくと頷く。家に帰ったら、きょうの戦利品とユラの勇姿について彼らに事細かく報告しなければ。

「その精霊も眞素と何かの強い思念が合わさって生まれる存在だから、魔物と似ているといえば似ているかもしれないね」
「ほ、ほえー」

 イリスの脳内で、マオとギルモンテの長い影がぴったりと重なる。魔物と精霊が生まれる仕組みがほとんど同じだなんて。あの二人が、ほぼ同じ存在だなんて。

「この世界って、とってもとっても不思議です……!」

 思わず口をついて出たイリスの言葉に、マオをのぞく四人が笑う。水晶くんの声もまざっていたことがうれしくてスノードームに視線を向ければ、『ニヤニヤすんなや、おチビ!』と、威嚇されてしまった。おチビじゃないもん。

「そういうことだから、第三総括がこの子の親代わりみたいなものかな。これから人間と共生するために必要な知識や技術をお勉強しなきゃいけないんだけど、この子はすぐにふらふらいなくなっちゃうんだよね」

 なまじ魔力が強いから逃げるのも上手でさ、とソワレがスノードームを突っつく。

「水晶くんは、なんでいなくなっちゃうんですか?」
『そんなん遊びたいからに決まってるやろ』

(あっ、アウトドア派なひとだ!)

 イリス――というか、春日井亮太は当然のごとくインドア派なので、休みの日に外出する人の気持ちがよくわからなかったりする。わざわざ人込みの中に紛れ込みに行くのって疲れない? 家で映画を観てゲームをして漫画を読んでたほうがよくない?

 そんな考え方を譲る気は全くないが、とりあえず今は目の前の水晶くんに寄り添うことにしよう。なるほど、遊びたいからショッピングモールにまで来てしまったのか。ずっと勉強ばかりしていたら飽きる気持ちは確かに理解できる。
 でも善悪の判断や人間に対しての接し方を知らないうえに魔力まで強いとなると、どこでどんなトラブルを起こすかわからない。だから魔物たちをまとめている第三総括は、双子たちに頼んで水晶くんを連れ戻さざるを得ないのだ。

(うん、それぞれの事情があるんだよね)

 そのうえで、何かいい案はないだろうか。なんかこう、みんながそれぞれちょっとずつハッピーになれるようなアイディアは――。

「あ」

 ぽんっと、両手を打つ。

「じゃあ今度、ぼくたちのおうちや、おばあちゃんのカフェに遊びに来てください!」
「えっ」

 双子と水晶くんの声が、きれいにハモったのがおかしかった。なんやねん、仲良しやないか。

「パパがいれば魔法が使えないから万が一のことがあっても平気ですし、ママだってとっても強くて速いから水晶くんがどんなに暴れたって大丈夫ですし、おばあちゃんも厳しいけど優しいから色んなこと教えてくれますし、ギルモンテさんもタフィーさんもお客さんはきっとオールビッグウェルカムです!」

 途中からユラを見つめながら力説すれば、「イリスとも、きっといい友達になれるね」と、うれしそうに微笑んでくれた。

(お友達!)

 それは気づかなかった。そうか、きっとロキくんみたいないい友達に――いや、ロキくんは天敵だった! ユラは絶対に渡さないから!

『……遊びに行ってもいいの?』
「イリスと第三総括がいいなら、いいんじゃない?」

 なぜか急に殊勝なことを言い出した水晶くんに笑いかけてから、ユラがマオに目配せする。それを受けたマオも、「ああ」と、当たり前のように首を縦に振った。

「ありがとうございます! パパ、ママ!」
「あはは、よかったじゃーん! ぼくたちから必死に逃げ回った甲斐があったねー!」と、興味深げに成り行きを見守っていたマチネが、ツインテールを振りながら笑う。

『……うん』

 おかしい。水晶くんが、やけに素直だ。そして、標準語である。本人もそのことに気づいたのか、『まあ、行ったってもええけどな! お前らがどーしてもっちゅうんならな!』と、慌てて取り繕った。なんだ、ちゃんとかわいいところもあるじゃん。

「うんうん、お勉強する目的ができてよかったねー! 帰って第三総括に許可をもらって、ちゃんと準備をしてから遊びに行こうねー!」

 占い師のように水晶くんを撫で回すソワレを見ながら、イリスはその場で飛び跳ねてしまいたくなった。なんでだろう、すっごくうれしい。
 イリスの最大の関心は、もちろん推しカプであるマオとユラに向けられている。けれど、その二人が存在する世界のことも、もっと知りたいと思う。二人が存在する世界に住んでいるひとたちのことを、もっともっと知りたいと思う。

「パパ!」

 第三総括のお仕事については、とりあえずひと段落ついたようなので、イリスはそのまま勢いよくマオに抱きついた。完全に機会を逸していたが、ようやく触れることができる。マオにずっと会いたいと思っていた気持ちがあふれ出し、大胆にも引き締まった腹筋に頬擦りまでしてしまった。

「買い物は楽しかったか?」
「はい! 今度はパパも一緒にお買い物しましょうね! 絶対ですよ!」
「ああ、わかった」

 イリスの頭を優しくなでるマオの視線が、ふと背中で止まる。「先ほどからずっと気になっていたのだが、その背負っているものは……」
「あ! そうですそうですそうでした! ママがミニゲームでゲットしてくれたんです! おばあちゃんみたいで、とってもかわいいですよね!」

 そういえば、ずっとタコリュックを担いだままだった。せっかく思い出したので、ついでに触手をうねうねと動かしてみる。マチネが簡易模倣具だと言っていたが、どうやらイリスが念じると勝手に動く仕組みになっているらしい。
 イリスの言葉に「ああ」とうなずくマオの隣で、ソワレが「うんうん、やっぱりそれ取れたんだー! じゃあこっちで正解だったね、マオくん!」と笑いながら、近くのベンチにスノードームを置いた。ごとんっという重い音と、ぎゃあっという悲鳴が上がったことも気にせず、あらかじめ置かれていた白い袋を開け始める。大丈夫かな、水晶くん。

「はい、イリスくんにプレゼント!」
「えっ」
「あ」

 イリスと一緒に、ユラも驚きの声を上げる。ソワレから袋から取り出して差し出してきたものは、小さな白い羽がついたピンク色の――そう、なんとあの天使リュックだった。

「え、どうしたんですか!? これって、あのボール投げの景品ですよね?」
「そうそう! 難易度『極楽』とはいうけど、それなりに難しいコースを三回連続で成功させたんだよ! ――マオくんがっ!」
「えっ」

 ボクは途中で失敗しちゃったんだよね、と言いながらソワレがマオに顔を向けたので、イリスも同じようにマオを見上げる。目が合うと、小さく頷いてくれた。

「悪魔のリュックは勇者が手に入れるだろうと思った」
「ふあっ! ありがとうございます! これもすごくかわいいと思っていたので、とってもうれしいです!」

 言いながら、リュックを全力で抱き締める。柔らかすぎる感触を顔面で堪能しながら「日替わりで使います! どっちも大事に使います!」と、もごもご叫んだ。
 両親それぞれからの贈り物に前後を挟まれるなんて、滅多にできない経験だ。イリスの昂る気持ちに反応したのか、天使の羽と悪魔の触手がそれぞれパタパタニョロニョロと忙しく動き始める。
 ――そんなご機嫌なイリスは、気づかなかった。何やらソワレがこそこそと近づいてきて、耳元でそっとささやこうとすることに。

「そういえば、マオくんね。ほかにプレゼントを買ってたよ」
「えっ」
「なんかねなんかね、故郷で帰りを待ってるひとに渡すんだって!」
「えっえっえっ?」

 あまりの衝撃で、ソワレの言葉が左の耳から右の耳に光速で抜けていく。え、なに? なんていったの? プレゼントを? なんで? どうして? っていうか、っていうか!

「だ、だ、だ、だ、だれなんですかそのひとーーーー!!」

 思いっきりのけぞったせいで仰向けに倒れそうになったイリスの背中を、タコリュックの足が地面を押し返しながら支えてくれた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...