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「ヤンキーDKの献身」番外編
Neighbor’s Monologue
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「ヤンキーDKの献身」の空乃の隣人(ニート)視点です。
***
ちゃりんちゃりん。
畳に散らばる小銭を人差し指で数える。638円。と、千円札が一枚。
バイトの給料日まであと1週間。
「ぎりぎりだな」
田中一太は蒸すような暑さの部屋で絶望的な気分になる。
9月も下旬になるのに酷暑は厳しいが、田中の財力ではクーラーどころかペットボトル一本の贅沢も出来ない。
着古したTシャツの裾で汗をぬぐい、台所の戸棚を確かめる。夏の非常食である100均の素麺が3袋。なんとか凌げそうだ。
昼過ぎまでの飲食店のバイトを終えたばかりで、夜は清掃員のバイトを入れている。
昼寝でもしたいところだが、窓を開け放しても湿度を帯びた不愉快な風が吹き込んでくるだけの部屋では眠れそうもない。
「図書館で涼むか」
ひとりごちてから、一人暮らしは独り言が増えるって本当なんだなと独りで笑う。
28歳。
そこそこ名の知れた私立大に滑り込めたので調子に乗って、何かに打ち込むこともなくフラフラ遊んで過ごした。
就職活動もまともに取り組まなかったから、正社員での就職は叶わなかった。
同じようにフラフラしているように見えた同級生達が内定を取り始めて、あ、俺、まずいんじゃね?と気づいたころには遅かった。
派遣で数年働いたけれど、どこの会社でも同い年や年下の正社員に偉そうに指示されるのに耐えられず、止めてしまった。
今はバイトを転々としている。良く言えばフリーター。
両親もとうに諦めているだろう。
思えば子供の頃から運が無かった。
宝くじどころかビンゴも当たったことがないし、担任の先生もクラスメイトも気の会わない人ばかりだった。
運の無さは今も続いている。
派遣時代は築10年家賃7万円のマンションに住んでいたが、払いがきつくなって、家賃激安のオンボロアパートに引っ越した。
コーポアマノ201号室。
立地は良いし角部屋だと喜んでいたら、隣人は怖そうなヤンキーだった。
遠目に見ただけだが、長身で眼光するどく、髪の毛は輝くような金髪だった。
田中の平凡な人生ではお目にかかることのなかった人種だ。
引越しの挨拶をするのも怖く、少しでも音を出したら怒られるんじゃないかと、日々恐る恐る暮らしている。
田中は色褪せたハーフパンツとTシャツ姿のままビーサンを突っかけた。
無駄遣いしないように財布は置いていく。図書館の貸し出しカードだけポケットに入れた。
玄関を出ると、室内より外の方が涼しいくらいだった。鍵を閉めていると、隣の扉ががちゃりと開いた。
田中は反射的に身をすくめる。
部屋に戻りたかったが、不自然過ぎる。
俯いたままやり過ごそうとしたが、隣室から出てきたヤンキーはびっくりしたように田中を見て、
「あれ、人住んでたんだ」
と言った。
「えと、先週、越してきました」
ぼそりと答える。
挨拶もねえのかとシメられるのだろうか。脚がすくんでしまう。
「隣の三沢空乃と言います。よろしく」
思いがけぬ礼儀正しさでヤンキーが名乗ったので、田中は顔を上げる。
なんだか、眩しい。
怖いし金髪だけど、男から見てもカッコいい男の子だった。
白シャツに黒ズボンという制服姿で、白シャツの胸元には校章が縫い込まれている。
祥英高校。都内有数の進学校だ。
田中は舌打ちをしたくなる。
イケメンでヤンキーで頭いいとか。2次元のスペックか。
「あ、田中一太です。よろしくお願いします」
そんで、イケメンは名前までカッコいい。
田中など、幼い頃は「ピン太、ピン太」とからかわれたというのに。
おまけに部屋からは、美味そうな匂いが漂ってくる。料理が上手くて可愛い彼女がメシを作ってるんだろう。
羨ましい。羨ましすぎる。
しかし、腹、減ったな…。
田中の心中など知らないヤンキーは、田中さん、と名前を呼んでから続けた。
「ダチ来てる時とか、うるさかったらすみません」
最後の「すみません」は「さーせん」に近い。
本当は壁越しの楽しそうな声を疎ましく感じこともあったが。
田中は慌てて顔の前で手を振った。
「いや、滅相もございません」
途端にヤンキーが噴き出す。
「ぶっ、なに、江戸時代の人?」
「あ、いや、すみません」
「謝んなくていーけど」
もうさっさと行ってしまおう。じゃあこれで、と言おうとした時。
ぐうううっ、きゅるるーっ。
美味そうな匂いに刺激されていた腹の虫が盛大に鳴った。
誤魔化しようもないほど大きな音だった。
「えと、じゃあ、俺はこれで」
逃げようとする田中をヤンキーの声が止める。
「田中さん、ポトフ、好きですか?」
ポトフ? ってなんだ?
それ何、って聞き返していいのだろうか。
知らないことが恥ずかしいような常識だったら。馬鹿と思われるのは嫌だ。
「あ、えーっと、どちらかと言えば好きなような、そうでもないような」
「なんだそれ。ま、いっか。ちょっと待って」
大人しく待っていると、ヤンキーは大ぶりのタッパーを手に戻ってきた。
「どうぞ」
手渡された容器には、ごろりとした野菜や肉が透けて見える。
肉! 塊の肉を最後に食べたのはいつだっただろう。
「お裾分けです。多めに作ったんで。手作りとか大丈夫っすか?」
彼女の手料理をお裾分けとは余裕なことだ。
受け取るのにはプライドが邪魔したが、食欲が勝った。
「いいんですか」
「どうぞ。レンジでチンしてから食ってください。タッパーは、ドアにでもかけといてもらえば」
「あ」
気づいて、田中は暗い気持ちになる。肩を落とした田中にヤンキーは不審そうな顔をしている。
「どうしたんっすか?」
「うち、レンジ、ないです」
バイト代が入ったら欲しい物リストの2番目だ。
恥ずかしくて言うつもりはなかったのに、食べられないショックの方が大きくて漏らしてしまった。温めなくても食べられるのだろうか。
ヤンキーは驚いた様子も引いた素振りも見せず、「鍋とコンロは?」
と聞いた。
「あります」
なんで高校生相手に敬語なんだ、俺。
「だったら、鍋で温めて下さい。レンジより美味いんで。ダシがしっかりしてるんで、マスタードつけなくても美味いっすよ」
ヤンキーがシェフのように語っていると、今度は二軒隣の扉が開いた。
「空乃? どうかしたか?」
203号室から顔をのぞかせたのは、田中と同年代の男だ。初対面だが、多分、近間氏だ。
最古参の住人だからと大家から名前は聞いていた。
休日のラフな服装だが、生真面目そうで、すごく真っ当な感じの人だ。
「田中さん、ですよね。初めまして、近間です」
近間氏は会釈をしてくれる。笑うと雰囲気が柔らかくて、少し幼い。
「ユキ、なんで名前知ってんの」
「大家さんから、新しい入居者が来るって聞いてたから」
ヤンキーと近間氏は親し気に話している。
都会のアパートなんて隣は何をする人ぞと思っていたが、この2人はご近所付き合いがあるらしい。
「そういうことは早く言えよ」
「ごめん、忘れてて。それよりお前、外で何してたの。俺、今からそっち行くとこだったけど」
「メシ作ってたら、岩塩なくてさ。この前、ユキちゃん家に忘れてったよな」
「ああ、あのピンクの石みたいなやつか」
「石って。ヒマラヤの岩塩、結構いいヤツなんだけど」
「日本酒のアテにしたら美味かった」
「あんた、マジ酒好きな」
近間氏のとぼけた回答に、ヤンキーは笑っている。
田中と話していた時とは違う、楽しくて仕方がないといった笑顔だ。漫画なら花が飛んでいるだろう。
というか、この2人、パーソナルスペースが狭くないか?
汗ばむ季節なのに、腕が触れ合うくらいの距離で話している。
すっかり蚊帳の外となった田中は、鳴りっぱなしの腹を宥めるべく、退散することにする。
「あの、では、私はこれで。これ、ありがとうございました。いただきます」
ぺこりと頭を下げると、ヤンキーが言った。
「良かったら今度、感想聞かせて。料理、修行中なんで」
見た目怖いけど、礼儀正しい。いい子なのだ。怖いけど。
あれ、そういえば「多めに作った」とか「修行中」とか、彼女じゃなく自分で作ったのか。
え、男子高校生が家事なんてするのか。
混乱する田中の横で、近間氏が腹を押さえた。
服越しにも分かる薄い腹だ。この人は、女の人みたいに首も腰も細い。
「俺も腹減った。岩塩持って、すぐそっち行くから」
「りょーかい。あ、けど」
応じかけたヤンキーが、近間氏の首と腰に走らせていた田中の目つきを捉え、途端に顔つきを険しくする。
視線を遮るように、近間氏の前に立ちはだかる。
「田中サン、あんま見んなよ」
先程までと違って、人を瞬殺しそうな低い声音だった。
危機に慣れていない田中はびくりと怯えて、
「すみませんすみません」
と連発する。
「次、変な目で見たら殺すから」
変な目ってなんだよ。大体、おまえは近間氏のなんなんだ。
などと言えるはずもなく、田中はもう一度すみませんと詫びた。
「空乃、馬鹿なこと言ってないで、メシだ。田中さん、何かごめんなさい。気にしなくていいので」
礼儀正しく取りなしてくれる近間氏だが、どことなく嬉しそうだ。
「メシ、ユキちゃんとこで食おうぜ」
「なんで。鍋ごと持ってくるの手間だろ」
「メシはいいけど、その後。ユキ、結構声でかいから」
ヤンキーはボリュームを落としたが、この距離では普通に聞こえる。
そして近間氏は何故か耳まで真っ赤になった。
「っ、ふざけんな! 今日はしないからな!」
捨て台詞のように叫んで、自室へ戻っていく。
取り残されたヤンキーは、怒鳴られたというののニマニマしている。
なんなんだ、この2人。
なんとなく分かるような気もするが、分かりたくないし深入りするとヤンキーが怖そうなので、考えることを放棄して、田中は部屋に戻る。
とりあえず、鍋を出してポトフとやらを温めよう。
***
ちゃりんちゃりん。
畳に散らばる小銭を人差し指で数える。638円。と、千円札が一枚。
バイトの給料日まであと1週間。
「ぎりぎりだな」
田中一太は蒸すような暑さの部屋で絶望的な気分になる。
9月も下旬になるのに酷暑は厳しいが、田中の財力ではクーラーどころかペットボトル一本の贅沢も出来ない。
着古したTシャツの裾で汗をぬぐい、台所の戸棚を確かめる。夏の非常食である100均の素麺が3袋。なんとか凌げそうだ。
昼過ぎまでの飲食店のバイトを終えたばかりで、夜は清掃員のバイトを入れている。
昼寝でもしたいところだが、窓を開け放しても湿度を帯びた不愉快な風が吹き込んでくるだけの部屋では眠れそうもない。
「図書館で涼むか」
ひとりごちてから、一人暮らしは独り言が増えるって本当なんだなと独りで笑う。
28歳。
そこそこ名の知れた私立大に滑り込めたので調子に乗って、何かに打ち込むこともなくフラフラ遊んで過ごした。
就職活動もまともに取り組まなかったから、正社員での就職は叶わなかった。
同じようにフラフラしているように見えた同級生達が内定を取り始めて、あ、俺、まずいんじゃね?と気づいたころには遅かった。
派遣で数年働いたけれど、どこの会社でも同い年や年下の正社員に偉そうに指示されるのに耐えられず、止めてしまった。
今はバイトを転々としている。良く言えばフリーター。
両親もとうに諦めているだろう。
思えば子供の頃から運が無かった。
宝くじどころかビンゴも当たったことがないし、担任の先生もクラスメイトも気の会わない人ばかりだった。
運の無さは今も続いている。
派遣時代は築10年家賃7万円のマンションに住んでいたが、払いがきつくなって、家賃激安のオンボロアパートに引っ越した。
コーポアマノ201号室。
立地は良いし角部屋だと喜んでいたら、隣人は怖そうなヤンキーだった。
遠目に見ただけだが、長身で眼光するどく、髪の毛は輝くような金髪だった。
田中の平凡な人生ではお目にかかることのなかった人種だ。
引越しの挨拶をするのも怖く、少しでも音を出したら怒られるんじゃないかと、日々恐る恐る暮らしている。
田中は色褪せたハーフパンツとTシャツ姿のままビーサンを突っかけた。
無駄遣いしないように財布は置いていく。図書館の貸し出しカードだけポケットに入れた。
玄関を出ると、室内より外の方が涼しいくらいだった。鍵を閉めていると、隣の扉ががちゃりと開いた。
田中は反射的に身をすくめる。
部屋に戻りたかったが、不自然過ぎる。
俯いたままやり過ごそうとしたが、隣室から出てきたヤンキーはびっくりしたように田中を見て、
「あれ、人住んでたんだ」
と言った。
「えと、先週、越してきました」
ぼそりと答える。
挨拶もねえのかとシメられるのだろうか。脚がすくんでしまう。
「隣の三沢空乃と言います。よろしく」
思いがけぬ礼儀正しさでヤンキーが名乗ったので、田中は顔を上げる。
なんだか、眩しい。
怖いし金髪だけど、男から見てもカッコいい男の子だった。
白シャツに黒ズボンという制服姿で、白シャツの胸元には校章が縫い込まれている。
祥英高校。都内有数の進学校だ。
田中は舌打ちをしたくなる。
イケメンでヤンキーで頭いいとか。2次元のスペックか。
「あ、田中一太です。よろしくお願いします」
そんで、イケメンは名前までカッコいい。
田中など、幼い頃は「ピン太、ピン太」とからかわれたというのに。
おまけに部屋からは、美味そうな匂いが漂ってくる。料理が上手くて可愛い彼女がメシを作ってるんだろう。
羨ましい。羨ましすぎる。
しかし、腹、減ったな…。
田中の心中など知らないヤンキーは、田中さん、と名前を呼んでから続けた。
「ダチ来てる時とか、うるさかったらすみません」
最後の「すみません」は「さーせん」に近い。
本当は壁越しの楽しそうな声を疎ましく感じこともあったが。
田中は慌てて顔の前で手を振った。
「いや、滅相もございません」
途端にヤンキーが噴き出す。
「ぶっ、なに、江戸時代の人?」
「あ、いや、すみません」
「謝んなくていーけど」
もうさっさと行ってしまおう。じゃあこれで、と言おうとした時。
ぐうううっ、きゅるるーっ。
美味そうな匂いに刺激されていた腹の虫が盛大に鳴った。
誤魔化しようもないほど大きな音だった。
「えと、じゃあ、俺はこれで」
逃げようとする田中をヤンキーの声が止める。
「田中さん、ポトフ、好きですか?」
ポトフ? ってなんだ?
それ何、って聞き返していいのだろうか。
知らないことが恥ずかしいような常識だったら。馬鹿と思われるのは嫌だ。
「あ、えーっと、どちらかと言えば好きなような、そうでもないような」
「なんだそれ。ま、いっか。ちょっと待って」
大人しく待っていると、ヤンキーは大ぶりのタッパーを手に戻ってきた。
「どうぞ」
手渡された容器には、ごろりとした野菜や肉が透けて見える。
肉! 塊の肉を最後に食べたのはいつだっただろう。
「お裾分けです。多めに作ったんで。手作りとか大丈夫っすか?」
彼女の手料理をお裾分けとは余裕なことだ。
受け取るのにはプライドが邪魔したが、食欲が勝った。
「いいんですか」
「どうぞ。レンジでチンしてから食ってください。タッパーは、ドアにでもかけといてもらえば」
「あ」
気づいて、田中は暗い気持ちになる。肩を落とした田中にヤンキーは不審そうな顔をしている。
「どうしたんっすか?」
「うち、レンジ、ないです」
バイト代が入ったら欲しい物リストの2番目だ。
恥ずかしくて言うつもりはなかったのに、食べられないショックの方が大きくて漏らしてしまった。温めなくても食べられるのだろうか。
ヤンキーは驚いた様子も引いた素振りも見せず、「鍋とコンロは?」
と聞いた。
「あります」
なんで高校生相手に敬語なんだ、俺。
「だったら、鍋で温めて下さい。レンジより美味いんで。ダシがしっかりしてるんで、マスタードつけなくても美味いっすよ」
ヤンキーがシェフのように語っていると、今度は二軒隣の扉が開いた。
「空乃? どうかしたか?」
203号室から顔をのぞかせたのは、田中と同年代の男だ。初対面だが、多分、近間氏だ。
最古参の住人だからと大家から名前は聞いていた。
休日のラフな服装だが、生真面目そうで、すごく真っ当な感じの人だ。
「田中さん、ですよね。初めまして、近間です」
近間氏は会釈をしてくれる。笑うと雰囲気が柔らかくて、少し幼い。
「ユキ、なんで名前知ってんの」
「大家さんから、新しい入居者が来るって聞いてたから」
ヤンキーと近間氏は親し気に話している。
都会のアパートなんて隣は何をする人ぞと思っていたが、この2人はご近所付き合いがあるらしい。
「そういうことは早く言えよ」
「ごめん、忘れてて。それよりお前、外で何してたの。俺、今からそっち行くとこだったけど」
「メシ作ってたら、岩塩なくてさ。この前、ユキちゃん家に忘れてったよな」
「ああ、あのピンクの石みたいなやつか」
「石って。ヒマラヤの岩塩、結構いいヤツなんだけど」
「日本酒のアテにしたら美味かった」
「あんた、マジ酒好きな」
近間氏のとぼけた回答に、ヤンキーは笑っている。
田中と話していた時とは違う、楽しくて仕方がないといった笑顔だ。漫画なら花が飛んでいるだろう。
というか、この2人、パーソナルスペースが狭くないか?
汗ばむ季節なのに、腕が触れ合うくらいの距離で話している。
すっかり蚊帳の外となった田中は、鳴りっぱなしの腹を宥めるべく、退散することにする。
「あの、では、私はこれで。これ、ありがとうございました。いただきます」
ぺこりと頭を下げると、ヤンキーが言った。
「良かったら今度、感想聞かせて。料理、修行中なんで」
見た目怖いけど、礼儀正しい。いい子なのだ。怖いけど。
あれ、そういえば「多めに作った」とか「修行中」とか、彼女じゃなく自分で作ったのか。
え、男子高校生が家事なんてするのか。
混乱する田中の横で、近間氏が腹を押さえた。
服越しにも分かる薄い腹だ。この人は、女の人みたいに首も腰も細い。
「俺も腹減った。岩塩持って、すぐそっち行くから」
「りょーかい。あ、けど」
応じかけたヤンキーが、近間氏の首と腰に走らせていた田中の目つきを捉え、途端に顔つきを険しくする。
視線を遮るように、近間氏の前に立ちはだかる。
「田中サン、あんま見んなよ」
先程までと違って、人を瞬殺しそうな低い声音だった。
危機に慣れていない田中はびくりと怯えて、
「すみませんすみません」
と連発する。
「次、変な目で見たら殺すから」
変な目ってなんだよ。大体、おまえは近間氏のなんなんだ。
などと言えるはずもなく、田中はもう一度すみませんと詫びた。
「空乃、馬鹿なこと言ってないで、メシだ。田中さん、何かごめんなさい。気にしなくていいので」
礼儀正しく取りなしてくれる近間氏だが、どことなく嬉しそうだ。
「メシ、ユキちゃんとこで食おうぜ」
「なんで。鍋ごと持ってくるの手間だろ」
「メシはいいけど、その後。ユキ、結構声でかいから」
ヤンキーはボリュームを落としたが、この距離では普通に聞こえる。
そして近間氏は何故か耳まで真っ赤になった。
「っ、ふざけんな! 今日はしないからな!」
捨て台詞のように叫んで、自室へ戻っていく。
取り残されたヤンキーは、怒鳴られたというののニマニマしている。
なんなんだ、この2人。
なんとなく分かるような気もするが、分かりたくないし深入りするとヤンキーが怖そうなので、考えることを放棄して、田中は部屋に戻る。
とりあえず、鍋を出してポトフとやらを温めよう。
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