戦闘機乗りの劣情

ナムラケイ

文字の大きさ
23 / 90

人前に出せません@玄関ロビー

しおりを挟む
「それ、何回目だよ。いい加減飽きるだろ」
 うつぶせの姿勢で腕に頬を預けながら、近間は、隣で寝そべっている直樹に抗議した。
 当の直樹は、上半身をベッドボードに預け、熱心にスマホに見入っている。
 イヤホンをしていないので、音声が丸聞こえだ。
 聞き慣れない自分の声が漏れてきて、近間は居心地が悪いことこの上ない。
「飽きません。だって、近間さんですよ」
 直樹は視線を画面に留めたまま、真顔で答えている。
 繰り返し見ているのは、飛行訓練中の近間の画像だ。
 訓練中にシンガポール空軍の仲間に撮影してもらった動画である。

 今は土曜日の午前8時過ぎ。
 昨夜は直樹が近間の部屋に泊まった。
 朝起きて、ベッドの中でじゃれ合いながら話しているうちに、訓練映像の話になり、見たい見たいと騒ぐ直樹にスマホを貸してやると、食いつくように動画に夢中になってしまった。
 もう10回以上は見てるよな、それ。
 放置されて少々退屈な近間である。 

「そんな面白いか?」
「面白いっていうか、パイロットの近間さんがカッコいいです」
 こちらを見ようともしない。
 夢中になっている対象は自分とはいえ、何となく面白くない。
 朝食でも作ろうと思うが、下半身はじんわりと痺れていて、立つのが億劫だ。
 それで、悪戯心が芽生えた。
 近間はタオルケットの下でそっと脚を伸ばし、直樹のくるぶしを爪先で撫でた。
「ちょっと近間さん、悪戯禁止ですよ」
 くすぐったいのか、直樹は身をよじるが、変わらず動画を見続けている。
「んー。だって、直樹が相手してくれないからさ」
「構ってほしいんですか?」
 爪先を動かしながら、直樹の方を見て肘枕をし、肩までかぶっていたタオルケットを少し捲った。
 胸元が露わになる。
「そんなの見てなくても、本物が横にいるだろ」
 情事の時にしか出さないかすれ声を作ると、ようやく直樹はこっちを見た。
 その視線が、近間の顔から首筋、胸元にあからさまに移動する。
 胸には、昨夜の名残りが花びらのように散っているはずだ。
 直樹の喉がごくりと動くのが見えた。
 その喉元に唇を近づけ、とびきりの甘え声で囁いた。
「な、構ってよ」
「……あー、もう。煽ったのそっちですからね!」
 直樹はスマホをサイドボードに置くと、近間の身体に腕を伸ばした。

 
 昨日は飛行訓練の最終日で、近間は夕方にアパートに帰宅した。
 制服プレイは脇に置いておいて、焼肉でも食べに行こうと直樹の会社の近くで待ち合わせたのだが。
 久しぶりに顔を合わせたら、早く二人きりでいちゃいちゃしたくなってしまい、結局夕食は中華をテイクアウトして、足早に近間の部屋に向かうことになった。
 1週間の禁欲と2週間の飛行訓練の後だ。
 食事もそこそこに、二人は3週間ぶりのセックスに耽溺した。

 ついばむようなキスが肩に降ってきて、指で後孔をなぞられる。
 近間はぴくりと身体を震わせた。
 昨夜散々いじられた入口はふっくりと赤みを帯びていて、いつもより敏感になっている。
 中指の先がつぷりと入ってきた。
 何度も直樹を受け入れたそこは、まだやわらかく溶けていて、誘うように指を飲み込んでいく。
「すごい、近間さんの中、絡みついてきますよ」
 すぐに指を二本に増やし、直樹が囁く。
「……っ、言うなよ、そういうこと」
 近間は枕に顔をうずめた。
 二本の指が、中の壁を揉むように擦っていく。
 気持ちいい。気持ちいいのに、足りなくてもどかしい。
 触って欲しいのは、もっとお腹側の、違うところだ。
 近間は腰を揺らめかせる。
 固くなったペニスがシーツに擦れて、声が漏れそうになる。
「なおっき……中の、いつものとこ、触って……」
「いつものとこって?」
 触れそうで触れないぎりぎりのところを掠めながら、直樹が訊く。
 分かっているのに、わざとだ。
 セックスの時、こいつは時々意地悪になる。
「………っ」
「言わないと触ってあげませんよ?」
 三本に増やされた指がばらばらに動かされ、くちゅくちゅと音を立てる。
 かと思えば、一気に指が抜かれ、また奥まで突き立てられる。
「やあっ……ああんっ」
「ほら、どこ触ってほしいの?」
「…んっ……ぜんりつ、せんっ」
 顔は見えないのに直樹が微笑むのが空気の震えで分かった。
「すげえ可愛い」
 頭を撫でられると同時に、望んでいた部分をピンポイントで強く押された。
 そのまま、指で揉むように刺激される。
「……あっ、あっ、やだっ。も、いきそ……」
「いいよ、イって」
 くにくにと何度も前立腺を擦られ、押し寄せる射精感から逃げられない。
「……あ、あ、……あああっ!」
 ペニスがどくどくと震え、腹とシーツの間が濡れていく。
 昨夜、もう何も出なくなるほど何度もイったのに、まだ出るものがあるのか。
 朦朧とする頭で不思議に思う。
「気持ちよかった?」
 聞かれて、こくりと頷いた。
 気持ちいい。身体にまったく力が入らず、雲の上にいるみたいだ。
 そのまままどろみそうになっていると、直樹に耳たぶを噛まれた。
「寝ちゃだめですよ、近間さん」
「でも、ねむい」
「煽ったのそっちなんだから、最後まで付き合ってください」
 言うなり、直樹は近間の身体に覆いかぶさってくる。
 うつぶせのまま股を広げられ、その間に直樹の両脚が入ってくる。
 腕立て伏せするような姿勢で、直樹は性器を近間のアナルに触れさせた。
 先っぽの感触だけで、完全に勃起しているのが分かる。これから侵入してくる大きさと熱さを想像し、唾を飲み込んだ。
 近間のナカは直樹の形を覚えていて、一番太いカリの部分もぬるりと飲み込んだ。
「ふうっん……」
 足りないものを満たされるような充足感に、吐息が漏れた。
 直樹の下生えが尻に触れるまで腰が進んできた。全部挿れてしまうと、近間の中を味わうように、動かずにじっとしている。
 その指先が、触れるか触れないかの距離で近間の背筋をつうっと撫でた。
 予想していなかった愛撫に腰が揺らめいた。
「近間さん、こんなとこも気持ちいーんだ。ほんと、敏感」
 直樹が含み笑いをし、調子に乗って何度も背筋をなぞる。その度に、腰が魚のように跳ねた。
「……誰のせいだよ」
「うん、俺のせいだよね」
 直樹は近間の身体を上から抱き込むように覆い被さった。
 乗っかられているのに重さを感じないのは、鍛えた体幹で自重を支えてくれているからだ。
 身体の後ろ側全部に直樹の体温が伝わってきて、心地いい。
 動かないまま挿れられていると、内壁はすこしの動きも拾おうとして敏感になる。
 耳を甘く食まれたり、首筋にキスをされたり、それだけで直樹のモノをきゅうきゅうと締め付けてしまう。
「なおき、俺、なんか、また、イきそ……」
「まだ動いてないですよ」
「……でも、も、気持ちよくて」
「挿れただけでイっちゃうとか、どんだけ感じやすいんですか」
 責めるような口調だが、どこか嬉しそうでもある。
「だからっ、おまえのせいだろ……あっううんっ」
「やらしい近間さん、本当可愛い」
「……っるさい…………ああっ!」
 視界がちかちかとスパークした。反射で爪先がぴんと伸びる。
 ものすごい快感が頭のてっぺんまで突き抜けて、それから、突き落とされるような開放感に襲われた。
 その浮遊感は、操縦中のマイナスGとどこか似ている。
 ナカがぎゅうっとしまるのが自分でも分かった。
「うわ、締めすぎ……」
 背後で直樹が呻く。
 気持ちいい。気持ちよくてどうにかなりそうだ。
 なのに、射精感がない。
「はあっ、はあっ……ん」
 シーツに股間をすりつけると、まだ勃ったままだ。新たな精が吐き出された感触もない。
 絶頂感は変わらず続いていて、身体が痙攣するように震えている。
 戸惑っている近間の髪に、直樹はキスを落とした。
「近間さん、また、ドライでイった?」
「……ドライ? んだよそれ」
「射精しないでイくこと」
「……うそだろ」
 なんだよそれ。
 男なのに、そんなことあるのか。
 恥ずかしいような情けないような気分だが、絶え間ない快感にそれ以上の思考が停止する。
「嘘じゃないですよ。近間さん、昨日もそうでしたよ。5回目した時、ずっとドライでイきっぱなしみたいになってて、最後気絶してました。覚えてない?」
 言いながら、直樹がゆるゆると腰を動かしだす。
 イったばかりの敏感な身体は、すぐに反応してしまう。
 爪先まで電流が走るような感覚。
「………覚えてない……あ、やっ、やだあっ」
 生理的な涙が滲む。口がうまく閉じられなくて、飲み込めない唾液が枕にシミを作った。
「すっげえ、しまる……」
 直樹の声にも余裕がない。
 そのことが嬉しい。
 ピストンが速度を増し、一番奥までぐちゃぐちゃに掻きまわされる。
「はあんっ、ああっ、ん、も、むりっ……」
「……ゴムしてないから、直前に、抜きますね」
 頭がくらくらする。
 なんで、抜くなんて言うんだ。
 達する時の直樹の熱と震えを感じたいのに。
 近間は背後を振り返って、直樹を見た。視界が涙で滲んでいる。
 カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しい。
「……そのまま、出して、いいから」
「こら。そういう可愛い顔でねだらないでください」
「でも、ほんと、いいから」
「そういうわけにいかないでしょ」
 直樹は苦しそうに顔を歪めると、数回腰を激しく振った。
 直後、ずるりと抜ける感覚がして、近間はその刺激でまたイってしまう。
 背中にぱたぱたと温かいものが降り注ぐ。
 その感触すら気持ちよくて、近間はうっとりと目を閉じた。

 
 ようやくベッドから起き出せたのは、昼過ぎだった。
 シャワーを浴びて、服を着る。
 休日によく来ているポロシャツでは首元のキスマークが隠れず、3回も着替える羽目になった。
 いい社会人が何をやっているんだかと自分でも呆れるが、心はむずがゆいほどに幸福感に満たされている。無数のキスのせいで、唇は熱を持っていて変な感じだ。
 部屋を出て、エレベーターに乗る。
「何食べたいです?」
 直樹に訊かれ、
「バクテー」
 と即答した。運動したからか、なんだか塩気があるものが食べたい。
「じゃあ、松發肉骨茶(ソンファ・バクテー)にしましょうか。すぐそこのセンター・ポイントに店入ってましたよね」
「土曜だから、混んでるだろうけど」
「待ってればいいですよ」
 エレベーターを降りると、玄関ロビーには大西勇馬がいた。トートバッグを肩から下げていて、出かけるところのようだ。
「こんにちは」
 礼儀正しく挨拶をする男子中学生に、二人も「こんにちは」と返す。
「この前、すごくカッコよかったです!」
 勇馬は両手を握りしめると、興奮した表情で近間を見上げてきた。
 近間が操縦する戦闘機を、直樹と一緒に見に来てくれたのだ。
 中学生の男の子に喜んでもらえるなんて、有り難いことだ。パイロット冥利に尽きる。
「サンキュ」
 近間が微笑むと、途端に勇馬は真っ赤になった。
 ぺこりと頭を下げると、足早にエントランスを出ていく。首の後ろまで赤い。
「何赤くなってんだろ」
 首を傾げていると、直樹に腕を掴まれた。そのまま、エレベーターに引きずり込まれる。
「なに。忘れ物?」
「やっぱ外出禁止。昼飯は俺が作ります」
 直樹が階数ボタンを押し、エレベーターは上昇し始める。
「え、なんで。今、めっちゃバクテーの胃になってるんだけど」
 胡椒たっぷりのスープで白飯をかき込みたい。あの店は茶もうまい。
「近間さん、今ものすごいエロい顔してます。色気が半端ないです」
 大真面目に断言する直樹に、近間は呆れるしかない。
「はあ? 何言ってんの、おまえ」
「ついさっきまでエッチしてましたって顔してるんですよ、あんた。俺にしか分からないだろうから、外出ても大丈夫かなって思ったんですけど。  男子中学生まで誘惑してるようじゃ、人前に出せません」
「おまえ、本当、俺のことになるとどうかしてるよな」
「近間さんが自覚なさすぎなんです」
 こういう時の直樹は言い出したら聞かないのだ。
 近間は諦めて、直樹に従うことにする。
 まあ、バクテーは家でも作れるし。
 過保護にされて、それを嬉しいと思ってしまっているんだから、俺だって大概どうかしてるか。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...