戦闘機乗りの劣情

ナムラケイ

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その気持ちの名は独占欲@ガーデンウィング

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 近間からタクシーを呼ぶよう頼まれていたが、直樹はタクシーコールではなくフロントへ向かった。
 しばらくすると、クロークで受け取ったのだろう制帽とビジネスバッグを持って、近間が戻ってきた。

「直樹、タクシー来たか?」
 それには答えずに、直樹は近間の腕を掴んだ。
 引きずるようにエレベーターホールへ向かう。
「おい、どこ行くんだよ」
「部屋取りました」
「は? なんで」
 困惑する近間に構わずに、直樹は部屋を目指す。
 予約したのは、シャングリラホテルのガーデンウィングにあるプールビューの部屋だ。
 
 部屋に入るなり内鍵をかけて、二人分のビジネスバッグをそのへんに放り投げた。
「おい、直樹! 腕痛いって」
 抵抗する近間の腕は離さず、クイーンサイズのベッドに力任せに押し倒す。
 近間に馬乗りになったまま、靴を脱ぎ、ブラックスーツのジャケットを投げ捨て、ネクタイを緩めた。
「どうしたんだよ」
 近間の顔が流石に険しくなる。
 直樹は答えようと口を開くが、言葉が出てこない。
 
 言いたいことは沢山あるはずだ。
 アルベールが近間にキスしたのを見た時から、黒くてどろどろしたもので胸が詰まりそうだ。
 この暗い感情を表す言葉が見つからない。
 嫉妬とは違う。怒りでもない。
 この人は俺のものなのに。
 どうすればそれを確信できるのだろうか。

 近間の両手首を押さえつけ、深く口づけた。
「……っ!」
 閉じようとする唇をこじ開け、舌をねじ込む。
 無理矢理のキスに全身で抵抗していた近間だったが、不意にその身体から力が抜けた。
 どうしたのだろうと目を開けると、間近にある近間の頬が濡れている。
 泣かせてしまった。
 そう思ったが、近間の瞳に水気はなく、ただ辛そうに直樹を映している。
 それで、泣いているのは自分の方なのだと気付いた。
 そういえば、視界が滲んでいる。
 瞬きをすると、ぱたぱたと近間の頬に雫が零れ落ちた。
 近間は両手を拘束されたまま、腹筋で上体を起こすと、直樹の目に溜まる涙を舐めとった。
 そして、慈愛に満ちた微笑みを見せた。
「好きにしろよ」


 防衛駐在官の証である金色のモールを腕から抜き、ジャケットを脱がせる。
 蝶ネクタイを乱暴に外し、ドレスシャツのボタンは外すのがもどかしく、力まかせに生地を引き裂いた。
 ぶちぶちとボタンが飛んだが、近間は大人しくされるままになっている。
 靴と靴下を取り去り、ベルトを抜き、スラックスをボクサーパンツごと脱がせた。
 すべらかな肢体が間接照明に浮かび上がる。
 
 同じ男とは思えないほど綺麗な身体だ。
 近間の股間は力なく萎えたままだ。
 直樹のものは、スラックスを押し上げるように張りつめているのに。
 近間の腕を掴んで引き起こすと、ベッドの上で四つん這いの姿勢を取らせた。
 両脚の間隔を広げ、頭と背を押さえつけると、近間は立てていた腕を折り、シーツに顔をつけた。
 尻を高くつき出す格好になり、秘部が丸見えになる。
 滑らかで小さな尻を撫でまわし、その中心にある蕾に指先で触れる。
 ふちがひくりと震えた。
 ローション代わりになるものがないので、直樹は自分の指にたっぷりと唾液を垂らしてから、中指を後孔に差し込んだ。
 いきなり指を突っ込んだそこは、指1本でも狭くてきつい。
 いつもは、全身にキスを降らせて愛撫して、前も十分に可愛がってから、自然に柔らかくなった後ろをほぐすようにしているのに。
 そんな余裕、今はない。早くこの人に突っ込みたくて仕方がない。
 圧迫感を逃がすように、近間は何度も息を吐いている。
 直樹は左手で近間のペニスを掴むと、強めに扱いた。
 次第に芯を持ってくるのは、快感ではなくて生理現象だ。近間が好きな先端を刺激する。

「……っ! あ、あ……」
 先走りを塗り付けるようにカリを擦ると、近間は声を漏らした。
 顔を伏せているので、くぐもった声はシーツに溶けていく。
 前からの快楽に呼応して、アナルがようやくほどけてきた。
 直樹は2本、3本と指を増やし、中でばらばらに動かした。伸びきったフチがめくれ、内側の濃い赤色が誘うように見え隠れする。
 指をぎりぎりまで引き抜き、じらすように浅い所を掻きまわした。
 その間も、前をゆるゆると擦ってやる。先走りは止まらなくなり、シーツにシミを作り続けている。

「っ、ん……あ……」
 もどかしいのだろう。近間は自ら求めるように腰を揺らめかせた。
「なお、き。も、やだ、それ……。もっと、奥のとこ……」
 甘く掠れた声で近間がねだる。

 近間さん、そんなふうにねだるのは、俺だけですよね。
 俺だけが、あんたのこんなとこ、知ってるんですよね。
 何度も問い質して答えを求めたいのに、言葉が出てこなかった。
 代わりに、直樹は近間の望みに応えてやる。
 二本の指で挟むように前立腺を刺激すると、近間の腰がびくんと跳ねた。

「んっ! ふ、うんっ……!」
 そう、ここがいいんですよね。
 近間さんのイイとこを知ってるのは、俺だけですよね。
 ペニスを扱いていた左手を伸ばし、近間の胸元に触れる。
 乳首は触ってもいないのに固くなっている。爪で引っ掻くようにすると、近間の背中がふるりと震えた。
 右手で前立腺を擦り、左手で左の乳首をこねくり回す。

「も……や、いく……」
 休まずに両手を動かしていると、近間の腰が激しく動き出した。
 茶色と白で統一された上品なホテルの部屋で、近間の肢体が艶めかしく揺らめく。
「っ、ん、んーーーっ!」
 近間は下腹部をびくびくと震えさせると、白濁をシーツに撒き散らした。
「はあ、はあ、はあっ」
 快感の余韻で大きく息をつく近間の背中を撫でる。
 
 ねえ、近間さん。
 中と乳首だけであんたをイカせられるのなんて、俺だけですよね。
 ほかの誰も、こんなやらしくてエロいあんたを、知らないですよね。
 直樹は近間の腰を掴むと、上体を起こさせた。そのまま、ベッドボードまで身体を押しやり、膝立ちで壁に向き合う姿勢を取らせた。
 近間は直樹の誘導に従順に従っている。

「直樹、なんでなにも喋らないんだ」
 不安げに振り向く近間には答えず、後ろから覆いかぶさった。
 心臓が早鐘のように鳴って血液を送り出し、腰は熱が溜まって重い。
 劣情でこめかみが痛み、目眩がしそうだ。
 亀頭がぷっくりと膨らみ、猛ったままの自身を、近間の後孔にあてがう。
 ぐっと腰を押し付けると、柔らかく溶けている穴は抵抗なく直樹を飲み込んでゆく。
「んっ…」
 近間が鼻にかかった声を上げる。
 濡れた腸壁が絡みつく。
 その熱さと気持ちよさに、思わず息が漏れた。
 目の前に、近間の白い首と背中が見える。
 南国のシンガポールに来て半年以上。野外を出歩くことも多いのに、この人はほとんど日焼けをしていない。
 直樹は両手で近間の手を絡み取ると、壁に押しつけた。
 壁と直樹の身体に挟まれ、近間はほとんど身動きができない状態だ。
 首筋に噛みつきながら、激しく腰を振った。

「ふ、うんっ……ん、ん、んっ……!」
 近間が喘ぐ度に、その色っぽさに脳が痺れる。
 理性なんてとっくに飛んでる。
 ただこの人を自分のものにしたくて。
 何回イかせても、どれほど抱き潰しても、セックスだけではこの人を縛れないことなんて分かっている。
 頭では分かっているけれど、オスの本能が、この人を征服したいと叫んでいる。
 セックスの間中、一言も話さなかったのは初めてだった。
 ベッドが軋む音、肌がぶつかる音、結合部の水音、二人の息遣い、近間の喘ぎ。それだけ。
 やり場のない直樹の焦燥を包みこむように、近間の中はうねって絡みついてくる。
 コンマ数ミリの壁もなく、性器が生で触れ合っている。
 その快楽にすぐに達しそうだ。
 普段は余程のことがない限りゴムはつけているし、例え近間にねだられても、中に出すのは控えるようにしている。
 けれど、今日はどうしても近間の中に注ぎ込みたかった。
 直樹は黙ったままだったが、近間はその限界が近いことに気づいたのだろう。

「いいから、そのまま出せよ」
 絶頂に向けて、ピストンを速める。
 頭も胸の中も空っぽになり、びゅるびゅると容赦なく奥に注ぎ込んだ。気の遠くなるような射精だった。
「……近間さんっ」
 無意識に口から出た恋人の名は、ひどく掠れていた。


 寝落ちてしまったらしい。
 目覚めると、部屋は薄暗くて、腕の中に近間がいた。
 互いの両手両脚を絡ませるようにして、抱きしめ合っている。
 視線を巡らすと、枕元の時計は午前2時を指している。
「起きたか?」
 直樹の身じろぎに気づいたのか、近間が腕の中で囁いた。
「寝てました?」
「うん。寝息もしないから、死んでんのかと思った」
 近間はくつくつと笑っている。その首筋に散る赤い噛み跡に、直樹は自分がしたことを思い知る。
「近間さん、ごめんなさい。ごめんなさい」
 必死に謝りながら、抱きしめる腕に力を込めた。
「謝らなきゃいけないのは俺の方だ。みすみすあんな真似されたのは、俺が警戒していなかったからだ」
「近間さんは悪くありません。俺が、勝手にぐちゃぐちゃな気持ちになって、近間さんに酷いことしました」
「うん」
「あの男が近間さんに触った時、腹立ったっていうか、悔しいっていうか、悲しいっていうかよく分からない気持ちで一杯一杯になって。
 近間さんのこと、あんなふうに自分勝手に抱きたかったんじゃないんです。でも、近間さんが俺だけの恋人で、近間さんの可愛いとこ知ってるのは俺だけだって確かめたくて」
「うん。ちゃんと分かってるから、いいよ」
「分かってません。自分でも、このどろどろした気持ちが何なのか整理できないのに」
 近間はやわらかく微笑むと、直樹の胸に額をこつんとぶつけた。
「だから分かってるって。その気持ちの名は、独占欲って言うんだよ」
 それから、近間はははっと思い出し笑いをした。
 この人の笑いは、いつも空気を溶かしてくれる。息が胸元に吹きかかってくすぐったい。
「どうしたんですか?」
「いや、あいつの間抜け面思い出した」
「あいつ?」
「アルベール。腹にフックかましたら、涎垂らしてのたうち回ってた」
 直樹は腕の中の近間をまじまじと見る。
「え? フックって、殴ったってことですか、いつ?」
「クローク寄ったついでに。手加減しなかったから、しばらくアザ消えねーよ。ざまあ」
 ほんとに、この人は。
 直樹は近間の頭を両手で抱き込んだ。
 誰よりも、男らしくて、カッコいい、俺の恋人だ。
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