戦闘機乗りの劣情

ナムラケイ

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こういうの憧れでした@深夜のコタツ

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 息子が同性の恋人を連れてきた。
 親御さんはさぞかし自慢だろうと思うような男だった。
 長身で男らしい顔立ち、有名私立を出て、一流総合商社勤務でシンガポール駐在員。
 でかいのにどことなく愛嬌があって、礼儀正しくて気のいい奴だ。
 可愛らしい良家のお嬢さんから引く手数多だろうに、我が息子と言えど、何を好き好んで野郎を選んだのか。

 調子に乗って日本酒を過ごしたせいか、喉の渇きで目が覚めた。
 藤次郎は布団を抜け出して階下へ向かう。
 居間はまだぼんやりと電気が点いていて、話し声が聞こえてきた。
 秘蔵の古酒を出してやるよう母さんに頼んでいたから、それを呑んでいるのだろう。

「俺、こういうの憧れでした」
「こういうのって?」
「こたつで脚が当たったりするの」
「なんだそれ」
 恵介がくつくつと笑っている。

「ポッケの中で手を繋いだり、コンビニで肉まん買って歩きながら食べたり、マフラー巻き合ったり」
「あー、冬ならではってことな。よし、明日、全部しようぜ」
「あと、近間さんのダッフルコート姿が見たいです」
「持ってねーよ。おまえ、本当、そういうコスプレちっくなの好きだよな」
 ゆったりと、じゃれあうようにお喋りしている。
 若い頃、よく母さんと炬燵で脚を絡ませながら話をしたことを思い出した。

 ああ、なんだ。男女の恋人同士と変わらないじゃないか。

 どうにも出て行くタイミングを失って、障子の陰から居間を覗く。
 恵介は背を丸めて左頬をぺたりと卓につけていた。
 そういえば、恵介のだらしない姿はあまり見たことがない。
 相変わらず猫っ毛なその髪を、梶君が梳くように撫でている。
 恵介は瞼を閉じていて、唇は柔らかく弧を描いている。
 満ち足りたその微笑みを見て、藤次郎は思わず涙ぐんだ。

 自慢の息子だった。
 我が儘も言わず、成績も運動もいつも上位で。
 容姿に恵まれすぎたせいで、周囲との折り合いの付け方を幼い頃から学んでいた。
 口さがない人は、それを人たらしと呼んでいた。
 いつも笑みを絶やさずに、優しく、柔らかく人に接する子供だった。大人になってからは、それにもっと拍車がかかった。

 ああ、でも。それの半分は作り笑いだったんだなと知る。
 あまりにも完璧で自然な擬態すぎて、親でも気付かなかった。
 今の恵介の、幼い子供のような、安心しきった顔。
 こんな顔は見たことがない。
 ふにゃふにゃと溶けたような恵介を見る梶君の眼差しも、それはそれは優しくて。
 
 藤次郎はなんだか神聖なものを見ている気持ちになる。
 喉の渇きを癒すのは諦めて、踵を返した。
 縁側のガラス戸の向こうの闇は深く、写り込む藤次郎の頭上には星が瞬いている。
 
 神様。
 不意に祈りたくなった。
 神様。俺の息子に、最愛の人を与えてくださり、ありがとうございます。
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