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その1週間後。
天女の里セレス。
ルキアーノは勇者カイのパーティに属している。他のメンバーは武闘家ルシオ、弓使いマルタ、黒魔術師トーラで、計5人のパーティだ。
アクアイル王国から西方へ向かい、カナキパ族の村、黒の森、青の洞窟を経て、カイのパーティ一行はようやく天女の里セレスへたどり着いた。
到着した夜、セレスのクエスト案内人であるマヤに案内された宿屋では、クエスト参加パーティ合同懇親会が開催された。
隣り合わせた笑わせ士ロニーの往年のギャグに爆笑しながら盛大に飲み食いしたあと、ルキアーノは席を立った。
「ルキアーノさん、どちらへ?」
美人の召喚士と盛り上がっていた黒魔術師トーラが、話を中断してルキアーノに訊く。
「酔い覚まし。飲みすぎたみたいだ」
「気をつけてくださいね」
「大丈夫だよ、里からは出ない」
男子禁制の天女の里だ。
男性は出歩くのを自粛するようマヤに注意されているが、夜も更けて人の姿も見当たらない。
少しくらいならいいだろう。
ランプを片手に、竹林の中を歩いていく。
空に向かってまっすぐに伸びる竹は、しなやかで見ていて気持ちがいい。
空気は王宮都市アクアイルよりも澄んでいて甘い。
空には細い月がかかっている。新月は3日後だ。
不意に音楽が聞こえてきた。
泣き声のような悲しい旋律だ。
ルキアーノは音源を辿って足を進める。
竹林を抜けた先に小さな池があった。古い時代の遺跡なのか、崩れ落ちた石材があちらこちらに散らばっている。
そのうちのひとつに腰かけ、吟遊詩人がリュートを奏でていた。
白のロングスカートに鶯色のマント。
ほっそりとした体形に、金色の巻き毛が眩しい。
白い肌に、歌詞を紡ぐ唇だけが赤い。
一瞬、天女かと思ったが、体つきも歌声も男のものだ。
風が吹く 砂が舞う 月は隠れる
空から舞い降りた天女は翼をもぎ取られ
暗い水の底に沈んでゆく
空が鳴る 雲が駆る 星は見えない
狂い猛った狼はその牙で翼を加え
汚れた土に帰ってゆく
雨が降る 花が散る 夜明けは来ない
招かれざる命は光を失い夜風に震え
行き場をなくして海に漂う
歌詞もメロディも暗い低調の曲だ。
聞いているだけで気が滅入るような歌だが、その声の美しさにルキアーノは聞きほれてしまう。
「誰?」
音楽が止み、吟遊詩人がこちらを見た。
ルキアーノはぞくりとする。
改めて見ると、異形の者のような美形だった。妙な色気があるが、顔立ちは十代に見える。
「ガラド族か?」
思わず聞いてしまう。
砂漠の帝国デザイアの少数民族ガラド族は、金髪碧眼の人とは思えぬほどの美形の民族として有名だった。
デザイアの民族浄化政策により虐殺されたが、各地に生き残りがいると聞いたことがある。
「いきなり失礼な人だな」
吟遊詩人は薄く笑ってから、続けた。
「ガラドではないよ。僕の目は青いのか?」
妙な質問の仕方だったが、ルキアーノは答えた。
「いや、紫だ」
少年の目は透き通るすみれ色で、ルキアーノを見据えているのに、どこか違う世界を見ているような危うさがある。
ルキアーノは少年の隣の石材に腰かけ、空のリュートケースに千ギルを入れた。
「酒場で歌えば、もっと客が来るだろう」
「酒場は好きじゃない」
少年は礼を言って札を受けとると、楽器をしまった。
「普段はどこで歌ってるんだ?」
「さあ、このあたりで適当にかな」
少年は答えをはぐらかした。
吟遊詩人にはワケありの者が多い。
詮索は無礼だと承知していたが、ルキアーノはこの少年のことが知りたくなった。
「それで食っていけるのか」
「まあね」
「その顔と腕なら、王宮のお抱え楽師にもなれそうだがな」
少年は立ち上がると、ルキアーノの前に跪いた。
ルキアーノの膝に両手を置き、至近距離で見上げてくる。
「好みだった? この顔」
気持ち悪いほど整った顔に勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
慌てて顔を逸らした。
「バーカ。ガキには興味ねえよ」
俺の好みは、正統派二枚目の男っぽい硬派だっつうの。
こんな男だか女だか分からないようなヤツ。
そう思うが、顔が赤くなっているのが自分でも分かった。
「へえ」
少年は面白そうに唇を歪めた。
化け物か妖精のような美しさに色香が漂う。
やばい。
飲まれる。
ルキアーノはごくりと喉を鳴らした。
「でも俺には興味あるんだろ」
美しい声が歌うように誘う。
蠱惑的な目で見つめられ、理性が飛んだ。
天女の里セレス。
ルキアーノは勇者カイのパーティに属している。他のメンバーは武闘家ルシオ、弓使いマルタ、黒魔術師トーラで、計5人のパーティだ。
アクアイル王国から西方へ向かい、カナキパ族の村、黒の森、青の洞窟を経て、カイのパーティ一行はようやく天女の里セレスへたどり着いた。
到着した夜、セレスのクエスト案内人であるマヤに案内された宿屋では、クエスト参加パーティ合同懇親会が開催された。
隣り合わせた笑わせ士ロニーの往年のギャグに爆笑しながら盛大に飲み食いしたあと、ルキアーノは席を立った。
「ルキアーノさん、どちらへ?」
美人の召喚士と盛り上がっていた黒魔術師トーラが、話を中断してルキアーノに訊く。
「酔い覚まし。飲みすぎたみたいだ」
「気をつけてくださいね」
「大丈夫だよ、里からは出ない」
男子禁制の天女の里だ。
男性は出歩くのを自粛するようマヤに注意されているが、夜も更けて人の姿も見当たらない。
少しくらいならいいだろう。
ランプを片手に、竹林の中を歩いていく。
空に向かってまっすぐに伸びる竹は、しなやかで見ていて気持ちがいい。
空気は王宮都市アクアイルよりも澄んでいて甘い。
空には細い月がかかっている。新月は3日後だ。
不意に音楽が聞こえてきた。
泣き声のような悲しい旋律だ。
ルキアーノは音源を辿って足を進める。
竹林を抜けた先に小さな池があった。古い時代の遺跡なのか、崩れ落ちた石材があちらこちらに散らばっている。
そのうちのひとつに腰かけ、吟遊詩人がリュートを奏でていた。
白のロングスカートに鶯色のマント。
ほっそりとした体形に、金色の巻き毛が眩しい。
白い肌に、歌詞を紡ぐ唇だけが赤い。
一瞬、天女かと思ったが、体つきも歌声も男のものだ。
風が吹く 砂が舞う 月は隠れる
空から舞い降りた天女は翼をもぎ取られ
暗い水の底に沈んでゆく
空が鳴る 雲が駆る 星は見えない
狂い猛った狼はその牙で翼を加え
汚れた土に帰ってゆく
雨が降る 花が散る 夜明けは来ない
招かれざる命は光を失い夜風に震え
行き場をなくして海に漂う
歌詞もメロディも暗い低調の曲だ。
聞いているだけで気が滅入るような歌だが、その声の美しさにルキアーノは聞きほれてしまう。
「誰?」
音楽が止み、吟遊詩人がこちらを見た。
ルキアーノはぞくりとする。
改めて見ると、異形の者のような美形だった。妙な色気があるが、顔立ちは十代に見える。
「ガラド族か?」
思わず聞いてしまう。
砂漠の帝国デザイアの少数民族ガラド族は、金髪碧眼の人とは思えぬほどの美形の民族として有名だった。
デザイアの民族浄化政策により虐殺されたが、各地に生き残りがいると聞いたことがある。
「いきなり失礼な人だな」
吟遊詩人は薄く笑ってから、続けた。
「ガラドではないよ。僕の目は青いのか?」
妙な質問の仕方だったが、ルキアーノは答えた。
「いや、紫だ」
少年の目は透き通るすみれ色で、ルキアーノを見据えているのに、どこか違う世界を見ているような危うさがある。
ルキアーノは少年の隣の石材に腰かけ、空のリュートケースに千ギルを入れた。
「酒場で歌えば、もっと客が来るだろう」
「酒場は好きじゃない」
少年は礼を言って札を受けとると、楽器をしまった。
「普段はどこで歌ってるんだ?」
「さあ、このあたりで適当にかな」
少年は答えをはぐらかした。
吟遊詩人にはワケありの者が多い。
詮索は無礼だと承知していたが、ルキアーノはこの少年のことが知りたくなった。
「それで食っていけるのか」
「まあね」
「その顔と腕なら、王宮のお抱え楽師にもなれそうだがな」
少年は立ち上がると、ルキアーノの前に跪いた。
ルキアーノの膝に両手を置き、至近距離で見上げてくる。
「好みだった? この顔」
気持ち悪いほど整った顔に勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
慌てて顔を逸らした。
「バーカ。ガキには興味ねえよ」
俺の好みは、正統派二枚目の男っぽい硬派だっつうの。
こんな男だか女だか分からないようなヤツ。
そう思うが、顔が赤くなっているのが自分でも分かった。
「へえ」
少年は面白そうに唇を歪めた。
化け物か妖精のような美しさに色香が漂う。
やばい。
飲まれる。
ルキアーノはごくりと喉を鳴らした。
「でも俺には興味あるんだろ」
美しい声が歌うように誘う。
蠱惑的な目で見つめられ、理性が飛んだ。
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