ヤンキーDKの献身

ナムラケイ

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Yukito: そういうんじゃないから。

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 押収した資料の分析をキリがいい所で終え、行人は更衣室へ向かった。
 地味なスーツを脱ぎ、私服に着替える。細身のパンツにアースカラーのシャツと薄手の皮ジャン。前髪はワックスで無造作に上げる。
 繁華街に夜の内偵に出る調査員もいるので、更衣室で変身していても不思議に思われることもない。

 新宿の外れにあるバー「Second Floor」。地下にある扉をくぐると、見知った面子が揃っている。
「やっだー、チカ君、久しぶりじゃない!」
「おー、チカ、ご無沙汰じゃん。忙しかった?」
 一見お断りのゲイバーなので常連客が多いのだ。
 適当に挨拶をして、やり過ごす。
 誰も、行人の本名も職業も知らないので、気が楽だ。そもそも、職業がバレたら出禁確定だ。

 カウンターへ進み、メキシコビールの小瓶をオーダーしてから、店内を見回す。ちょうど、こちらを見ていた男と視線が絡んだ。
 背がひょろりと高く、行人好みの冷たい目をしている。
 前に一度、寝たことがある。器用に動く長い指をしていた。名前は思い出せない。
 今夜は、あいつでいいか。
「こんばんは」
 ビールを持って、男の側に行くと、選ばれたと知った男の口元に笑みが刻まれる。
「こんばんは。何、今日は俺の気分なの?」
「どうだろう」
 小首を傾げながら、ボトルに刺さったライムを指先で落とし入れた。
 暗い店内。黄金色の酒の中に、シュワシュワと泡が立つ。
 綺麗だ。
 ライム果汁で濡れた指先をぺろりと舐め、男を流し目で見た。男の唇が欲情に歪んだ。


 男と連れ立って夜の新宿を歩く。歓声、嬌声、怒声。街は混沌。色んな声と酒気が混じり合う。
「名前、なんだっけ?」
 訊くと、男はひでえなあと肩をすくめ、マサシだと名乗った。
「俺は、おまえがチカだって覚えてるのにさ」
「よく覚えてたな」
「覚えてるよ」
 マサシは声を低め、行人の尻をするりと撫でた。割れ目を人差し指で押すようにされ、肌が泡立つ。
「おまえ、すげー良かったから。いー声で鳴いてくれるしさ」
「おまえが上手かったからだよ」
 どうせするなら、気持ち良い方がいい。
 男の気分を盛り上げるために、わざと喜ばせることを言う。
 案の定、マサシは嬉しそうに笑った。
「それは光栄。どうする? また、おまえの部屋にする?」
 ラブホはなるべく避けている。
 万が一知り合いに遭遇した時、男2人では言い訳のしようもないからだ。
 うん、と答えそうになって、今朝のことを思い出した。前科アリとは言え、高校生に情事を聞かせるわけにはいかない。

「おまえんとこか、ホテルがいい」
 マサシは理由は聞かずに頷いた。
「んじゃ、ホテルな。タクるか」
「先にゴム買っていい?  備え付けの、嫌なんだ」
 行人は、ちょうど目の前にあったマツキヨを指した。
「おう。んじゃ、タクシー捕まえとくわ」
 路上に残るマサシを置いて、明る過ぎる店内に入る。

 行人は肌が強くない。一番身体に合うコンドームのパッケージを手に、レジに向かった時。
 視界を明るい金髪が横切って、思わず目で追った。
「え。君」
 行人の声に、金髪が振り向く。学ラン姿の長身の男の子。やはり、空乃だった。
「え、あれ、ユキ?」
 は?  ユキ?
 なんだその呼び方は。
 抗議しようとしたが、驚きの方が先に勝った。行人の視線と同じ高さにある空乃の唇はざっくり切れて、口元が赤く腫れている。

「おまえ、それ」
 追求を止めるように、空乃は行人の髪に触れた。オールバックにした、朝とは違う髪型に。
「あんた、七変化なのな」
 ははっと笑った空乃は、ついで顔をしかめた。
「…っ痛えー。笑うと響くわ」
 行人に触れた手で、今度は自分の腹のあたりを押さえている。
 もう一方の手には、鎮痛剤と絆創膏の箱。
「誰にやられたんだ?」
「誰にっつーか、ただの喧嘩なんで。勝ったし」
 最後はちょっと得意げだ。
「喧嘩って」
 行人は絶句する。

 確かに、空乃はヤンキーとか不良とかそういう部類なのだろう。けれど。
 そんな、ろくでなしブルースみたいな世界、本当にあるんだな。
 真っ当な社会人生活を送っている行人には想像が出来ない。
 大体、高校生がこんな時間に繁華街で何やってんだ。

 考えるより先に手が動いた。
 空乃の手から品物を奪い、レジで精算する。
「え、ちょっと、ユキ?」
 空乃の手を引いて、店を出た。

 外では、マサシがタクシーを止めて待っている。制服姿の高校生を連れてきた行人を、面白そうに見た。
「なんだよチカ。3Pしたいの?」
「悪い。今日、やっぱ無理だ。埋め合わせはするから」
 早口で言うと、マサシの表情が一変する。大きく舌打ちをされた。
「自分から誘っといて、それは無いんじゃねえの」
 怒るのも当然だ。行人は繰り返した。
「悪い。今日は無理だ」
「ふうん、まあいいけど。こいつ、高校生だろ?  おまえのことちゃんと抱けんの」
「そういうんじゃないから」
 マサシは聞く耳持たずに、値踏みするように空乃を見た。
 その視線が不愉快で、行人は奥歯を噛む。
 空乃は何も言わなかったが、不躾な視線を眼光鋭く跳ね返した。その迫力に、マサシの方が怯む。
「まあいいや。埋め合わせ、楽しみにしてるよ。ああ、このタクシーはお前持ちな」
 マサシは行人の尻を掴むように撫でてから、去っていく。

「お客さん、メーター動かしてるんで。乗らなくても払ってくださいよ」
 タクシーの運転手が迷惑そうに言う。
「乗ります。恵比寿まで」
 行人は空乃を車内に押し込み、コーポアマノの住所を告げた。
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