ヤンキーDKの献身

ナムラケイ

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Sorano: 色々食べさせたい。

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 7月に入り期末テストが終わると、教室はもう夏休みモードだ。
「あっちー」
 校内冷涼ポイントのひとつである体育館裏の木陰で、空乃、敦、弥彦の3人は昼食を広げた。空乃と敦は弁当、弥彦は購買のパンだ。
 ここは一日中陽が射さないので、コンクリートがひんやりと心地好い。
「あっちゃんは夏休みどうすんの?」
 揚げクリームパンを齧りながら、弥彦が訊いた。敦は箸箱をちゃらりと鳴らす。
「あっちゃんは止めろ。基本塾。あとはバイトとツーリングでちょい遠出すっかな。弥彦は?」
「うーん、街中適当にぷらぷらかな」
「それ、おまえが言うとなんか怖いな」
 空乃が突っ込むと、弥彦は可愛らしく小首を傾げるが、その目は笑っていない。
 大方、ゲーセンや繁華街に繰り出して、わざと絡まれては相手をボコる気に違いない。
「ひどいなー、三沢っち。僕だって最近は喧嘩の数減らしてるんだからね。あ、あと、彼女と海行くよ」
 弥彦の彼女は上智大学の1年生だ。そのデートをおまけのように言う弥彦に、空乃と敦は苦笑する。
「そっちの方先に言えよ」
「裏山。彼女の水着姿プリーズ」
「送らないし。三沢っちは、お隣さんと遊びに行ったりしないの?」
「社会人は休みじゃねえ」
 行人はお盆に合わせて1週間の休みを取り、うち半分は金沢の実家に帰省すると言っていた。
「そっかー。じゃあ僕と一緒に街歩きする?」
「しねえし。もう喧嘩はしないっつっだろ」
「ざんねーん」
 弥彦は全く残念ではなさそうに、二個目の揚げクリームパンをイチゴミルクで流し込んでいる。胸焼けがしそうだ。

「三沢、夏期講習も行かないんだろ?  バイト三昧か?」
 敦がばくばくと弁当を平らげながら訊いてくる。
 敦の弁当は米、卵焼き、鶏の空揚げ、青菜と定番だ。おかずに凝ってしまう空乃は、ユキちゃんはこういうシンプルな方が好きなんだよな、などと考えてしまう。
「バイトと、あと料理教室」
 空乃が答えると、旺盛な食欲を見せていた2人の咀嚼がはたと止まった。
「…は?」
「え、料理教室って、おまえが習うわけ?」
「そーだけど、なんか変かよ」
「変っつーか、なに、おまえ嫁にでも行くのか?」
「ちげえよ。最近料理すんの楽しいっつーか。あの人ベジだから、もっとレパートリー増やして、色々食べさせたいっつうか」
 空乃はもごもごと答える。
 別に恥ずかしいことを言っているわけでもないのに、妙に照れるのはなんでだ。
 どうせ面白がっているのだろうと悪友の顔を見ると、二人は何故か優しげな表情になっている。
「なんだよ、その反応」
「三沢っち、変わったよね。僕は前のギラギラつんつんな三沢っちも好きだったけど、今も悪くないんじゃない? ね、あっちゃん」
「別に。どっちも三沢だろ」
 敦の返事は素っ気ないが、こいつは誰よりも情に厚いしダチ思いだ。
 高校に入っても喧嘩三昧の日々を送る空乃を随分心配していたし、初めて行人のことを打ち明けた時も、驚いた素振りを見せずに、普通に接してくれた。
 浮いた話のない奴だが、敦が悩んだり困ったりした時には、全力で味方をしようと空乃は決めている。
「今度、なんか作ってくるわ」
 感謝の言葉を口にするのも変なので、代わりにそう言うと、弥彦が勢いよく手を挙げた。
「はい! じゃあ、僕は甘いものがいいな。シュー系のやつ。ベニエとかクロッカンブッシュ、あ、ブラバンダー・シュニッテンもいいなあ」
「何の呪文だよ。ケーキとか作ったことねえし」
「お隣さんは甘いもの食べないのか?」
 敦に訊かれて、空乃は首を傾げる。
「いや、あの人酒飲みだからな。あ、でもカフェ行った時甘いもん飲んでたな」
 帰ったら訊いてみようと空乃は心にメモする。

 けどユキちゃん。
 空乃は弁当を食べ終え、蝉の声が響き渡る空を見上げた。
 最近、なんかぼーっとしてること多いんだよな。
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