ペンと羅針盤

ナムラケイ

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32:初夜 ★

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 防衛大臣一行と同じホテルとあって、有馬の宿はダナン市随一の高級ホテルだった。
 部屋に入るなり、扉が閉まるのも待たずに抱き寄せられた。
 はずみで、鞄と制帽が手から滑り落ちる。
 有馬の首筋からは嗅ぎ慣れたいい匂いがして、安心と愛おしさと興奮が同時に襲ってくる。
 力強いハグの後、有馬が吐息をついた。
 航平の匂いを確かめるように、耳元ですんすんしている。

「あー、航平だ」
「何言ってんだよ」

 そう返したが、航平も全く同じ気持ちだった。
 ああ、有馬だ。

 視線が合い、そのままキスをした。
 唇の感触を確認するように何度も唇を合わせる。
 有馬とのキスが、好きだ。
 どんなに悪態をついていても嫌がって見せても、唇を合わせた瞬間にどうでもよくなって、その気持ちよさと甘さに浸ってしまう。
 触れるだけのキスをたくさん交わしてから、有馬は航平を部屋の中に導いた。

 広いダブルルームの壁は爽やかなターコイズブルーで、モノクロームの写真が飾られている。
 ホテルだから当たり前なのだが、部屋の中央には大きなベッドがでんっと陣取っていて、なんだか生々しい。
 テーブルにはラップトップやボイスレコーダー、デジカメに資料の束といった仕事道具が出しっぱなしになっている。

「仕事、終わってないのか?」
「いや、これは次の記事に向けた調べ物」
「大スクープとか?」

 冗談めかして言うと、有馬は一瞬だけ真面目な顔になって、それから誤魔化すように笑った。

「ただの解説記事だよ」

 有馬はテーブルの資料を手早くまとめると、ファイルごとスーツケースにしまい込んだ。
 冷蔵庫から、ベトナムのローカルビール「333」の缶を二本取り出し、一本を航平に差し出した。向かい合って椅子に座り、プルタブを開ける。
 冷え切っていない軽いビールは暑い国の気候に良く合う。
 久しぶりの再会はなんとなく面はゆく、二人ともほとんど無言で1本を空にした。

「航平。写真、たくさんありがとう」
「クジラもイルカも見られなかったけどな」
「魚で十分だよ。それに、海の写真もとても面白かった。朝はピンクで、昼はぎらぎらに青くて、夕方はオレンジで、夜は真っ黒。海って、綺麗で怖いよね」
「実物は、写真よりもっと綺麗だぞ。特に夕焼けは怖いくらい迫力がある」
「一緒に見たかったなあ」
「って、俺も思ってたよ」

 そう受け答えて、航平は有馬と目を合わせた。

「有馬。俺、日本に帰国したらすぐにあんたに会いに行って、準備できたって言おうとしてたんだ」

 有馬はその意味を推し量るように数度瞬いた。束の間の沈黙を越えて、窓の外からバイクのクラクションが聞こえてくる。
 有馬の目は知的で思慮に満ちていて、航平を見る時はいつもやわらかく揺れている。
 その眼差しに期待と情欲が差し込んだ。
 有馬が身を乗り出す。膝の上に置いた航平の手を握った。

「航平。それ、今じゃ駄目かな」
「…駄目じゃない」

 言い終わった瞬間に手を引かれ、ベッドに押し倒された。

 玄関でしたのとは全然違う、深くて濃いキスを交わす。
 舌で互いの口の中を探り合って、相手のいいところを舌で刺激する。
 混ざりあった唾液で口元がべたべたになるが、構わずにキスを続ける。
 キスだけなのに、下半身は今にも達しそうなほど昂ぶっている。太ももに当たる有馬のものも同じ状態だった。
 航平の肩には、黒字に金の刺繍が入った階級章がついている。太さの異なる三本線と桜のマーク。
 有馬は指先でそれをなぞり、名残惜しそうに言った。

「制服着せたままするのもいいけど、まずはお風呂入ろうか」

 文明の利器、インターネットで羞恥極まる検索を繰り返したので、航平にもその意味は分かる。

「ひとりで入る」
「どうして。やり方、分からないでしょ」
「調べたから知ってる。あんなハズいこと、あんたの前で出来るか」
「別に恥ずかしいことじゃないでしょ。僕は航平の全部を見たい」
「頼むから、俺の尊厳を優先してくれ」

 のしかかる有馬を見上げて、きっぱりと言った。
 有馬は思い切り不服そうに頬を膨らませたが、しぶしぶ譲ってくれた。


 身体を清めるのには思いのほか手間取った。
 やるせない気持ちで制服をハンガーに吊るし、ボクサーパンツだけ身につけて部屋に戻ると、有馬は何をするでもなく、椅子に座って外を眺めていた。

「ちゃんとできたと、思う」
「うん。ありがとう」

 こちらを見る有馬は何故かもじもじしている。

「どした?」
「なんだか、緊張と興奮でどきどきしてきた」

 有馬があまりに深刻な顔をしているので、航平の緊張の方がほどけてしまった。

「童貞かよ」

 からかうと、有馬は真面目に言った。

「違うけど、こんなに誰かを好きになったのは初めてなんだ。その人を抱くんだから、そりゃあ緊張も興奮もするよ」

 きゅんときた。
 航平は有馬の首に両腕を回す。つむじに口づけると、有馬はくすぐったそうに息を吐いた。

 その日の有馬は最上級に丁寧だった。
 これまで手や口でしてきた時と比べものにならないほどに。
 優しく細やかな指使いで航平を攻め上げた。動きのひとつひとつごとに航平の反応を確かめ、念入りに身体を開いていく。
 熱くて甘くて苦しくて、身体がゆっくりほどかれて、ばらばらの糸になっていく感覚。

「…っあ」

 三本入っていた指をそろりと引き抜かれ、その抜かれる感触に航平は声を漏らした。
 埋められていたものが無くなった後孔が、ひくりと震えているのが自分でも分かる。
 挿れられたい。足らないものを埋めて、奥まで満たしてほしい。
 経験のない欲望におののきながら、航平は有馬を見上げた。

「ありま、欲しい」
「うん」

 有馬は微笑んで航平の額にキスを落とす。

「航平、後ろ向いて」
「なん、で」
「後ろからの方が楽だから」
「いい。顔見えないの、やだ」
「可愛いこと言うなあ。…力、抜いててね」

 有馬は位置を確かめると、慎重に航平のナカに入ってきた。
 予測していたよりも大きな圧迫感に、ひゅっと息が上がった。
 一番太いカリの部分が、粘膜をこじ開けながらゆっくりと入ってくる。
 予想以上の圧迫感。目を閉じるのが怖くて、有馬の顔ばかり見ていた。
 くるしい。あつい。多分まだ先っぽしか入ってないのに。
 これ以上無理、かも。
 息を詰めて、思わず有馬の腕に爪を立てた。
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