龍の檻と青年

はる

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硝子の夜に咲く

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夜の部屋は、静かすぎて心の音が響く。

天井を見つめながら、奏多は目を閉じることができなかった。

如月に触れられたときの嫌悪感と、桐谷の怒る姿が交差して、胸がちくちくと痛んだ。


トントン

ドアのノックは、優しかった。

桐谷「……起きてるか?」

桐谷の声だった。

奏多は返事をしないまま、ドアが静かに開かれるのを感じた。

桐谷「さっきは……悪かった。」

その言葉に、ゆっくりと振り向くと、桐谷が戸口に立っていた。

シャツの第一ボタンを外したラフな格好。

いつもより、ずっと人間味があった。

桐谷「お前にあたるつもりはなかった。
ただ、……怖かったんだ。
お前があいつに奪われるのが。」

ぽつりぽつりとこぼれる言葉に、奏多は少しだけ目を見開いた。

奏多「別に、何もされてません。」

桐谷「でも、何かされそうになった時点で、もう十分だろ。」

一瞬、空気が張り詰めたが、桐谷はそれ以上怒らなかった。

代わりに、ベッドの端に腰を下ろし、低く息をついた。

桐谷「……悪かった。」

それは、本当に不器用な「ごめん」だった。

でも、確かに奏多の胸に届いた。

奏多「……別に、怒ってません。」

ぽつりと呟くと、桐谷の表情が少しだけ和らいだ。

桐谷「眠れないのか?」

奏多 「「‥‥コクリ。」」

桐谷「……じゃあ、俺がいてもいいか。」

奏多は答えずに、小さくうなずいた。

次の瞬間、そっとベッドが沈む音がして、桐谷の腕が胸前に回される。

ぬくもりが、優しく包み込んできた。

桐谷「……最初は、ただの借金の担保だと思ってた。」

奏多「‥‥‥。」

桐谷「でも、今は違う。お前が、ちゃんと生きててほしいって、……そう思ってる。」

その言葉に、奏多の喉がつまった。

泣きたくないのに、涙が勝手に出そうになる。

こらえると、桐谷の手がそっと髪を撫でた。

桐谷の腕が奏多の背中を包み込む。

重く、あたたかく、何よりも確かな温もりだった。


奏多は震えながらも、逃げ場を求めるように振り向き、その胸へ顔を埋める。 

桐谷「おっ‥‥!、、」

息が詰まるほど苦しかったはずなのに、なぜか少しずつ心が緩んでいく。

指先が、無意識のうちに桐谷のシャツの襟を握り締める。

その指に力が込もるたびに、身体の奥から滲み出る感情があふれて止まらなかった。

熱いものが、こぼれ落ちる。

それは涙だった。

ひとしずく、またひとしずく。

奏多の頬を伝って、静かに、長く、滴り落ちる。

声を押し殺し、涙だけが溢れ出す。

誰にも見せたくなかった弱さ。

耐え続けてきた痛み。

全部が今、桐谷のぬくもりの中で解けていく。

桐谷「……泣いていいんだ。」

桐谷の低い囁きが、奏多の耳に優しく響く。

その言葉に背中を撫でる手の動きが、ほんの少し強くなる。

奏多はもう、涙を止めようとしなかった。
 
この瞬間だけは、自分の全てを許されている気がしていた。



やがて、涙は静まる。

けれど胸の痛みは柔らかく変わり、静かな温もりに包まれていった。


桐谷「もう寝ろ。俺がついてる。」


それは命令じゃなかった。

安心していいという、許しのような声だった。

奏多は、目を閉じた。

久しぶりに、少しだけ眠れそうな気がした。
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