龍の檻と青年

はる

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すれ違い② 桐谷side

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扉が閉まる音が、やけに遠くで鳴った気がした。
 
それっきり、部屋の中には沈黙だけが残っていた。

桐谷は動けなかった。
 
たった今、自分の口から出た“最低の言葉”が、耳の奥で何度もリピートされている。

 
――“お前のその足と、今の精神状態じゃ、連れていけねぇよ”

わかってた。
 
あんな言い方をすれば、あいつがどう受け取るかなんて、わかってたはずだった。

足が悪いことも、過去に心を壊されかけたことも、全部知ってる。
 
そのうえで、誰よりも真面目に、忠実に、自分のそばに立ち続けてきた――奏多に、あんな言葉をぶつけた。

最初は、ただ守るつもりだった。
 
今夜の密会は、ただの交渉じゃない。下手すれば、裏切りと銃弾の応酬になる。

危険だ。
 

だから“連れていかない”ことは、判断として間違っていなかった。

 けど――

 
桐谷「……言い方ってもんがあるだろ、俺」

 
誰に聞かせるでもなく、独りごちる。

お前のその足じゃ足手まといだ。
お前の精神状態じゃ判断ミスする。
だから来るな――って、そんなふうに聞こえたに決まってる。

実際、口にした。

桐谷「……チッ」

舌打ちして、乱暴にタバコを取り出す。

指先が微かに震えていた。
  

吸っても、苦みしか感じない。

――“それでも、“そこにいるだけでいい”みたいに扱われたら、何のためにここにいるのか、わからなくなる”

奏多のあの言葉が、胸の奥で痛く響く。

自分では優しくしてるつもりだった。
 
傷をえぐらないように、無理をさせないように。
 
けどそれは、「何もさせない」ということだったのか?

“俺の側から離れるな”
 
守るつもりでかけた言葉も、あいつにとってはただの「鎖」だったのかもしれない。

 ――あいつは、ここに“存在する理由”を欲しがってた。

ただ守られてるだけじゃなくて、誰かの力になりたくて、意味がほしくて、
 
それでもがいていたのに。

桐谷 「……何やってんだ、俺は」

 
灰皿に押しつけるように、タバコを消す。

謝ろうか、とふと思った。
 
部屋を出て、今すぐ追いかけて、言葉を選んで――

 
だが、足は動かなかった。

 
プライドか、意地か、戸惑いか。
 
それとも、謝ることで向き合わなきゃいけなくなる、自分の“気持ち”*から逃げているのかもしれない。

桐谷「……チッ」

再び舌打ちする。
 
振り払いたいのは、胸のざらつきなのか、弱さなのか。

そのとき、扉がノックされた。

組員「桐谷さん、時間です。車、用意できました」

 
部下の声が、現実へ引き戻す。
 
桐谷は上着を羽織り、鏡の前でネクタイを直す。
 
濃紺のネクタイ――奏多が選んだものだ。

鏡越しに見えた自分の顔は、どこまでも冷めていた。

桐谷「……行くぞ」

自分に言い聞かせるように呟いて、扉を開けた。

その背中に、痛みのような後悔が、静かにまとわりついていた。
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