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後悔 長谷川side
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長谷川は、指示通りに手配を済ませた移送車の影から、薄暗い倉庫の小さな出入口をじっと見つめていた。
如月の言いつけどおり「安全圏」に移すだけだ。
そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥の重さは消えない。
静かに扉が開き、二人組の男が担いで連れてきたのは一一想像していたよりもずっと小さな存在だった。
薄汚れた毛布に包まれ、体は縮こまり、顔にはかすかな血の筋と紫がかったものが点在している。
頬は赤く腫れ、口の端から血を垂れ流していた。
右脚は不自然な角度に膝から下が折れたかのように見え、歩かせることなど到底できないほどにぐったりしている。
長谷川の胸がギュッと掴まれるように締め付けられた。
(.....こんなに、ひどくなるなんて)
足が一歩出せない。指先が冷たく震える。
彼は目を逸らしたかったが、目をそらせば、自分がしてきたことの重みを見ないフリすることになる。
それはもう、できない。
「ここに置け」
隣にいる監視役の男が、無機質に指示を飛ばす。
長谷川は黙ってうなずき、男たちに合図をした。
毛布の隙間から覗いた薄い顔に、奏多の小さな肩がかすかに上下する。
吐息が浅い。
ゆっくりと長谷川は近づく。
足音がコンクリートに吸い込まれていく。
近くで見ると、傷のディテールが生々しい。
頬の腫れ、鼻血の乾き、左手首に残る結紮の痕。首筋には擦り傷。唇は裂け、声を出すことすらつらそうに見える。
長谷川「.....奏多」
低く、しかし震えるような声で名前を呼んでしまう。
自分でも驚くほどだった。
呼んだ瞬間、
奏多の薄い瞼がかすかに動いた。
奏多「あ.....っり、っやっさ......?」
長谷川「‥…ッッ」
その声は生ぬるく、出血でかすれていた。
瞳は不安と困惑で揺れている。
長谷川は咄嗟に目を背け、唇を噤んだ。
長谷川『ここまでするつもりじゃなかった、。
ただ、少し怖い思いをさせてやろうと‥』
言い訳の言葉が口の中で渦巻くが、どれも薄っぺらく響くだけだ。
「運ぶぞ。協力しろ」
命令の声に、長谷川は無言で毛布ごと奏多の体を抱え上げる。
本当に18の男か疑うほどの軽さだった。
だが、本当に辛いのは、肉体の重さ以上に彼の胸の中にある重荷だ。
奏多の細い背中を受け止めながら、長谷川は自分がしてしまったことの輪郭を、改めて思い知る。
奏多はかすかに目を閉じ、口の端をかすかに震わせる。
長谷川の腕に伝わる奏多の体温は、冷たく、しかし確かに人間のものだった。
抱えたままの視線の先で、監視役の男が指示を出す。
移送車の後部座席に優しく載せられ、毛布の端が引かれてドアが閉じられる。
暗がりに包まれるその瞬間、奏多の吐息が長谷川の手首に触れた。
奏多「......ごめん.....なさ.」
ほんの囁きのような言葉が耳をかすめる。
長谷川は呻くように息を吐き、目の奥が熱くなるのを感じた。
謝罪が誰に向けられているのか、その言葉の受け手が自分であることも、自分がその理由であることも一一すべてが鋭く刺さる。
移送車の中で、長谷川は布越しに奏多の顔を見下ろす。
目の裏に浮かぶ問いかけに、答えはない。
ただ、自分がしなければならない最低限のことをするしかない。
彼はハンカチを取り出し、震える手で奏多の唇の血を拭った。
皮膚が触れると、わずかに反応があり、奏多は薄く目を開ける。
長谷川「痛いか?」
長谷川の声は粗く、無理に強く響かせた。
答えはない。
代わりに、奏多はゆっくりと首を振ったように見えた。
見えないほど、力がない。
(如月の言葉どおりにやれば、俺は助かる。で
も一一)
胸の中の答えと、現実の命令がぶつかる。
長谷川は小さく歯を噛み締めると、短く息をついた。
そのため息には、迷いと共に意が混じっていた。
だが、せめて一一自分がやったことの結果だけは、最後まで見届けようという最低限の責任感が働いたのだ。
移送車は無音に近い速度で走り出し、ライトが夜の道路を走り抜ける。
長谷川は運転席の後ろに片膝をつき、奏多の顔を何度も見つめた。
時折、奏多は眠りに落ちるように薄くまぶたを閉じる。
すると、長谷川の手はやけに速く動いて、もう一度だけ血を拭い、毛布を少し引き直した。
長谷川「すまなかった。本当に、すまない」
耳元で誰に向けているのか分からない独り言を漏らす。
自分を正当化するためではなく、吐き出すための言葉だった。胸の奥の石が、少しだけ動いた気がした。
やがて車は指定された廃工場の小さな出入り口に到着する。
男たちが待ち構えており、その手際のよさはプロのそれだった。
長谷川は最後にもう一度奏多の顔を覗き込み、低く囁いた。
長谷川「すぐに移す。ちゃんと若にも報告する…。だから、耐えて待っててくれ、頼む」
奏多の唇がわずかに震え、毛布の下で小さく頷くように見えた。
長谷川はその仕草を、救いの兆候とじたかった。
毛布ごと抱えて車外に出ると、冷たい夜風が頬を刺した。
男たちの腕は確実に息を合わせ、奏多を抱えたまま薄暗い通路を進む。
長谷川は後ろを振り返らない。
振り返ることは、自分の中の罪を直視することになる。
それでも、ふと後ろを振り返りたくなる瞬間が訪れた。
そのとき、奏多の小さな手が、毛布の下でかすかに動いた。
長谷川は思わず立ち止まり、毛布をめくろうとしたが、監視役の一喝で手を引っ込める。
無言で、ただ先へ進むしかない。その無力さが、彼をさらに追い詰める。
廃工場の奥に辿り着くと、男たちは素早く奏多を安置し、椅子に奏多を縛りつけた。
長谷川は目の前の光景に手を差し伸べることしかできない。
如月の指示どおり「安全圏」に移したーーそれは事実だ。
だが、それが奏多にとって「安全」であるかどうかは別の問題だ。
長谷川はふと、窓の外の闇の向こうに見える夜空を見上げた。
ここには冷たい星が瞬いているだけで、誰も助けてはくれない。
長谷川は自分が招いた現状に後悔のため息を吐き、外にでて誰もいないことを確認し、ポケットからスマホを取り出す。
スマホの画面にはーーーーー若。
長谷川「はぁー、俺は何がしたかったんだろーなぁ」
プルルルル プルルルルー
長谷川「若、すみません。
お話ししたいことがあります。」
如月の言いつけどおり「安全圏」に移すだけだ。
そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥の重さは消えない。
静かに扉が開き、二人組の男が担いで連れてきたのは一一想像していたよりもずっと小さな存在だった。
薄汚れた毛布に包まれ、体は縮こまり、顔にはかすかな血の筋と紫がかったものが点在している。
頬は赤く腫れ、口の端から血を垂れ流していた。
右脚は不自然な角度に膝から下が折れたかのように見え、歩かせることなど到底できないほどにぐったりしている。
長谷川の胸がギュッと掴まれるように締め付けられた。
(.....こんなに、ひどくなるなんて)
足が一歩出せない。指先が冷たく震える。
彼は目を逸らしたかったが、目をそらせば、自分がしてきたことの重みを見ないフリすることになる。
それはもう、できない。
「ここに置け」
隣にいる監視役の男が、無機質に指示を飛ばす。
長谷川は黙ってうなずき、男たちに合図をした。
毛布の隙間から覗いた薄い顔に、奏多の小さな肩がかすかに上下する。
吐息が浅い。
ゆっくりと長谷川は近づく。
足音がコンクリートに吸い込まれていく。
近くで見ると、傷のディテールが生々しい。
頬の腫れ、鼻血の乾き、左手首に残る結紮の痕。首筋には擦り傷。唇は裂け、声を出すことすらつらそうに見える。
長谷川「.....奏多」
低く、しかし震えるような声で名前を呼んでしまう。
自分でも驚くほどだった。
呼んだ瞬間、
奏多の薄い瞼がかすかに動いた。
奏多「あ.....っり、っやっさ......?」
長谷川「‥…ッッ」
その声は生ぬるく、出血でかすれていた。
瞳は不安と困惑で揺れている。
長谷川は咄嗟に目を背け、唇を噤んだ。
長谷川『ここまでするつもりじゃなかった、。
ただ、少し怖い思いをさせてやろうと‥』
言い訳の言葉が口の中で渦巻くが、どれも薄っぺらく響くだけだ。
「運ぶぞ。協力しろ」
命令の声に、長谷川は無言で毛布ごと奏多の体を抱え上げる。
本当に18の男か疑うほどの軽さだった。
だが、本当に辛いのは、肉体の重さ以上に彼の胸の中にある重荷だ。
奏多の細い背中を受け止めながら、長谷川は自分がしてしまったことの輪郭を、改めて思い知る。
奏多はかすかに目を閉じ、口の端をかすかに震わせる。
長谷川の腕に伝わる奏多の体温は、冷たく、しかし確かに人間のものだった。
抱えたままの視線の先で、監視役の男が指示を出す。
移送車の後部座席に優しく載せられ、毛布の端が引かれてドアが閉じられる。
暗がりに包まれるその瞬間、奏多の吐息が長谷川の手首に触れた。
奏多「......ごめん.....なさ.」
ほんの囁きのような言葉が耳をかすめる。
長谷川は呻くように息を吐き、目の奥が熱くなるのを感じた。
謝罪が誰に向けられているのか、その言葉の受け手が自分であることも、自分がその理由であることも一一すべてが鋭く刺さる。
移送車の中で、長谷川は布越しに奏多の顔を見下ろす。
目の裏に浮かぶ問いかけに、答えはない。
ただ、自分がしなければならない最低限のことをするしかない。
彼はハンカチを取り出し、震える手で奏多の唇の血を拭った。
皮膚が触れると、わずかに反応があり、奏多は薄く目を開ける。
長谷川「痛いか?」
長谷川の声は粗く、無理に強く響かせた。
答えはない。
代わりに、奏多はゆっくりと首を振ったように見えた。
見えないほど、力がない。
(如月の言葉どおりにやれば、俺は助かる。で
も一一)
胸の中の答えと、現実の命令がぶつかる。
長谷川は小さく歯を噛み締めると、短く息をついた。
そのため息には、迷いと共に意が混じっていた。
だが、せめて一一自分がやったことの結果だけは、最後まで見届けようという最低限の責任感が働いたのだ。
移送車は無音に近い速度で走り出し、ライトが夜の道路を走り抜ける。
長谷川は運転席の後ろに片膝をつき、奏多の顔を何度も見つめた。
時折、奏多は眠りに落ちるように薄くまぶたを閉じる。
すると、長谷川の手はやけに速く動いて、もう一度だけ血を拭い、毛布を少し引き直した。
長谷川「すまなかった。本当に、すまない」
耳元で誰に向けているのか分からない独り言を漏らす。
自分を正当化するためではなく、吐き出すための言葉だった。胸の奥の石が、少しだけ動いた気がした。
やがて車は指定された廃工場の小さな出入り口に到着する。
男たちが待ち構えており、その手際のよさはプロのそれだった。
長谷川は最後にもう一度奏多の顔を覗き込み、低く囁いた。
長谷川「すぐに移す。ちゃんと若にも報告する…。だから、耐えて待っててくれ、頼む」
奏多の唇がわずかに震え、毛布の下で小さく頷くように見えた。
長谷川はその仕草を、救いの兆候とじたかった。
毛布ごと抱えて車外に出ると、冷たい夜風が頬を刺した。
男たちの腕は確実に息を合わせ、奏多を抱えたまま薄暗い通路を進む。
長谷川は後ろを振り返らない。
振り返ることは、自分の中の罪を直視することになる。
それでも、ふと後ろを振り返りたくなる瞬間が訪れた。
そのとき、奏多の小さな手が、毛布の下でかすかに動いた。
長谷川は思わず立ち止まり、毛布をめくろうとしたが、監視役の一喝で手を引っ込める。
無言で、ただ先へ進むしかない。その無力さが、彼をさらに追い詰める。
廃工場の奥に辿り着くと、男たちは素早く奏多を安置し、椅子に奏多を縛りつけた。
長谷川は目の前の光景に手を差し伸べることしかできない。
如月の指示どおり「安全圏」に移したーーそれは事実だ。
だが、それが奏多にとって「安全」であるかどうかは別の問題だ。
長谷川はふと、窓の外の闇の向こうに見える夜空を見上げた。
ここには冷たい星が瞬いているだけで、誰も助けてはくれない。
長谷川は自分が招いた現状に後悔のため息を吐き、外にでて誰もいないことを確認し、ポケットからスマホを取り出す。
スマホの画面にはーーーーー若。
長谷川「はぁー、俺は何がしたかったんだろーなぁ」
プルルルル プルルルルー
長谷川「若、すみません。
お話ししたいことがあります。」
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