龍の檻と青年

はる

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悲しみの深淵で

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ガラガラガラーーー

病室の扉が静かに開く音に、桐谷は慌てて顔を上げた。

そこに立っていた医師の表情は厳しく、重い空気が部屋に満ちていた。

医師「橋本奏多さんの手術は成功しました。危機的状況は脱しましたが……」

医師の声は穏やかだが、続く言葉はまるで冷たい波のように桐谷の胸を打った。

医師「ただ、今後も気を抜けません。意識が戻るかどうかは…まだ分かりません。」

桐谷はその言葉を飲み込みながら、内側から押し寄せる恐怖を必死に押さえ込んだ。

心臓が締めつけられるような痛み。

冷たい汗が背筋を流れ落ちる。

医師「さらに右足の状態ですが……残念ながら、少しでも歩けるようになる可能性は非常に低くなりました。骨折や肉離れによる神経の損傷が深刻でして……。感覚すら戻るか微妙なところです。」

その宣告は、奏多の未来に暗い影を落とした。

そして医師は、言葉を選びながらさらに続けた。

医師「また、暴行の影響と、薬物の使用が重なったことで、脳にダメージが残る可能性も高いです。記憶障害や認知機能の低下が現れるかもしれません。」

桐谷はその重さに息を詰まらせ、目の前が霞んだ。

彼の心の中に、奏多の笑顔、儚くも強い意志、そして二人で交わした約束が浮かんだ。

桐谷「……俺は、俺はどうすればいいんだ……」

壊れそうな声が漏れる。

医師は優しく桐谷の肩に手を置いた。

医師「今は焦らず、奏多さんの回復を見守ってください。そして、彼のためにできることを、一歩ずつ進んでいくしかありません。」

桐谷は深く息を吸い込み、握りしめていた拳をほどいた。

桐谷「…はい。奏多を、どんな形でも。離さないと誓いましたから。」

その言葉には、切実な覚悟と揺るぎない愛情が込められていた。

瞬間、胸の中の不安がわずかに和らぎ、代わりに強い決意が満ちていった。

どんな未来が待っていようとも、桐谷は奏多のそばにいる。

それが、彼の絶対の誓いだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

病室の扉がゆっくりと閉まる。

桐谷は静かにベッドのそばへ歩み寄った。

そこには、まだ深い眠りの中にある奏多がいた。

顔色は少しだけ白くなっているが、確かに生きている。

右足は不自然な角度で横たわり、薄く包帯が巻かれている。

桐谷はベッドの端に腰を下ろし、そっと奏多の手を取った。

その手は傷ついて、冷たくなっていた。

桐谷「奏多……」

その名前を囁く声は、震えと優しさが入り混じっていた。

桐谷「戻ってきてくれ……頼むから、俺のそばにいてくれ……」

目を閉じたままの奏多の表情は、どこか安らぎを感じさせるものの、どこか遠くを彷徨っているようでもあった。

桐谷はその手を強く握り、過去の痛みも、未来への不安もすべて胸にしまい込んだ。

桐谷「……俺は、ずっとここにいる」

声は低く、しかし揺るがない決意に満ちていた。

時が止まったかのような静寂の中、ただ二人の呼吸だけが穏やかに響く。

桐谷は奏多の髪にそっと触れ、目を閉じて祈るように願った。

桐谷「どうか、もう一度、目を開けてくれ……」

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