龍の檻と青年

はる

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眠り続ける君の側で

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桐谷は、今日も病室の白に目を慣らす。

病室の蛍光灯の光はいつも、あの青年の頬を淡く照らしていた。


半年。


それだけの時間を、彼はこの沈黙の中で過ごしている。

モニターの音が一定のリズムで鳴るたび、桐谷の心もその音に縛られているようだった。

息をしている。

それだけで、いまの桐谷には十分なはずだった。
――はずなのに。

右足の包帯は、もう何度取り替えただろう。

医者が言うには、もう杖なしで歩けるようになる見込みはない、と。

もっと悪ければ、歩けるかも分からない、と。

奏多がそれを聞いたら、どんな顔をするだろう。

無表情の奥に、すぐ自己嫌悪を隠そうとするあの癖を、思い出す。

あの目が、また自分を責めるのだろうか。

桐谷「……まだ、戻ってこねぇのか」

誰もいない病室で、桐谷は声を落とす。

答えはない。

ただ、薄いシーツの上の青年が、微かに胸を上下させているだけ。

桐谷は毎晩、組の仕事を終えてからここへ来る。

誰にも知られないように。

若頭の座にいる人間が、ひとりの“部下”にここまで執着しているなど、知られれば笑われるだろう。

だがもう、笑われるかどうかなど、どうでもよかった。

枕元に置かれた、小さな黒い革の手帳。

奏多が使っていたスケジュール帳だ。

震えるような字で「桐谷さん、いつもありがとうございます」と書かれたメモが挟まっている。

たったそれだけの言葉が、桐谷を何度も夜に繋ぎとめた。

桐谷「俺の方こそ、ありがとう、だろうが……」

思わず漏れた声が、空気に溶けて消える。

窓の外では、雨が降り始めていた。

あの日も、こんな雨だった。

自分の手でその身体を抱き上げた時の、あの軽さと熱。

傷だらけで、それでもまだ生きようとしていた。

その小さな息を、忘れられない。

桐谷は椅子に腰を下ろし、眠る奏多の指先に自分の指を触れさせる。

冷たくはない。

けれど、あまりに静かだ。

目を覚まさないその顔は、まるでどこか遠くへ行ってしまったようで、何度も呼び戻したくなる。

桐谷「お前がいないと、どうにもならねぇんだよ」

桐谷「あんなこと言ってすまない…。」

そう呟く声は、誰に聞かせるでもなく。


ただ、やりきれない現実をどうにか言葉にして、桐谷自身を保たせているだけ。

桐谷は事務所での最後に突き放った言葉を
ずっと後悔していた。




そして、組では、如月との抗争が終わった。

血は流れ、組は拡大した。

だが、勝利の報せを受け取っても、桐谷の胸には何の達成感もなかった。

しかも、今回の主格の朔弥を逃してしまった。

この手で守れなかった一人がいる限り、何を得ようと、意味などない。

桐谷「すまない、、。」

夜が更ける。

桐谷は立ち上がり、奏多の髪に触れる。

指先に伝わる、少しだが、確かな温もり。

それが唯一、彼をこの世界に繋ぎとめているものだった。

桐谷「……、帰ってきてくれ」

その願いは、誰にも届かないまま、

ただ白い部屋の中で、息を潜めていた。
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