龍の檻と青年

はる

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散った再会

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あれから、如月の機嫌の悪い日にはあの古びた扉の奥で痛めつけられ、逆に機嫌のいい日には
道具のように快楽の玩具とされた。

身体も精神的にもボロボロだった。

右目には切り込まれた跡だけが生々しく残り、
左胸には、所有物と表しているような如月家の紋様が焼印されていた。

ガチャーーー

如月「おい、今日お前を会合に連れて行ってやるよ笑 風の噂で他の組の連中も騒がしくなってきたから事情を説明しないとだろ??」

如月「もう出るからこれ着て準備おけ。」

ただその命令に対してコクリと頷くを

如月「あ、あと、お前何があっても俺に反抗するなよ?桐谷を守りたいだろ?笑」

そしてまた、淡々とコクリと頷く。

如月が部屋をでると、重い身体を起こして
そのスーツに身を通す。

多分傷や痣を見られないように露出を避けているのだろう。

首は黒いネックで隠れており、顔には黒マスク、右に目には黒い眼帯が用意されていた。

如月「おい、できたかー?」
「ほぼ、誰かわかんねぇーな笑桐谷も気づかないんじゃないか?」

桐谷という言葉にハッと顔をあげる。

奏多「桐谷、さん??」

如月「そりゃ、会合なんだからアイツもくるだろう。だからこそ、余計なことするんじゃねーぞ?何かしてみろ、これまで比じゃないくらの仕置きとアイツ殺すぞ?」

奏多はまた淡々と頷く。

ただ、奏多の中に少しだけ、桐谷の顔を見れることの嬉しさがあった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

如月「ほら、ついたぞ。」

奏多 コクリ

奏多は松葉杖を着きながら部屋の奥へと進む。

ガラガラガラーーー

如月「すまない、また待たせたか?」

低く響く声と、重厚な足音が部屋の空気を震わせた。

奏多は、無理やり立たされるようにして広い会合室の奥へと連れてこられた。

眩しいライトが容赦なく照らし出すその空間――
そこには、見覚えのある背中があった。

桐谷さんー。

息が止まった。

視界の端がじんわりと滲む。

けれど、声を出すことができなかった。

桐谷もすぐに気づいた。

わずかに目を見開き、眉を寄せる。

その表情には驚きと、信じがたいものを見るような痛みが混じっていた。

桐谷「……奏多?」

その名を呼ばれただけで、胸が締めつけられる。

懐かしい響き。

それなのに、今は苦しくてたまらない。

如月がゆっくりと前に出る。

口元には、あの独特な笑みが浮かんでいた。

如月「おや、感動の再会はここではやめてくれ笑だが、桐谷。お前もずいぶんと面倒なモノを飼ってたようだ。」

桐谷の目が細くなる。

桐谷「どういう意味だ」

如月は肩をすくめて笑った。

奏多「言葉通りさ。こいつ――奏多。お前の情報を流してた。楠本組にだー。
俺のところに来る前から、裏で手を引いてたんだよ」

ざわり、とその場の空気が動く。

周囲にいた男たちがざわめき、視線が一斉に奏多へと向けられる。

奏多「嘘だ……!」

桐谷組と楠本組が対立してることは一般人の中でも有名な話だ。

奏多の声は震えていた。
膝が崩れそうになるのを、必死でこらえる。

奏多「俺、そんなこと――」

如月が冷たく笑う。

如月「言い訳か?なら証拠を見せてやろう」

テーブルに一枚の写真が投げ出された。

そこには、見覚えのない場所にいる自分、見覚えのない書類、――
だが、確かに自分だった。

奏多「これは……」

喉の奥から音が出ない。

如月「前に神崎組との対立があっただろ?
あれは楠本組が関わってたんだよ。
桐谷、お前の部下がどこまで信用できるか、今、確かめてみろ」

如月の声は静かで、冷たい。

まるで刃物のように、ゆっくりと胸の奥に突き刺さる。

桐谷は黙ったまま、奏多を見つめていた。

目の奥に揺れる光――疑念か、それとも痛みか。

奏多にはもう、判断がつかなかった。

奏多「……桐谷さん、違う、俺じゃ……!」
声が震え、涙が滲む。

如月「奏多…」

そう、前から囁かれ見ると今までにないくらい冷たい目で奏多を見ていた。

多分、警告なんだろう。

行く前の如月の言葉が脳裏を泳ぐ。

その時は桐谷を殺すぞーー。

奏多「ヒュッッ、、、」

前を向き直し、顔を上げれないまま下を見る。  

奏多「ごめんなさい、、。」

空気が張り詰めていた。

静寂の中、桐谷がゆっくりと一歩、前に出る。

その視線が、まっすぐ奏多を射抜いた。

その瞳の奥に宿る光を、奏多は恐る恐る見上げた。

――桐谷さんなら信じてくれる。そう思いたかった。

でも、桐谷の目はいつもの優しさを失っていた。

その冷たさが、胸の奥を鋭く貫く。

桐谷「……そうか。」

桐谷の低い声が、部屋の隅まで響く。

桐谷「如月、あんたの話は分かった。だが、今ここで処理を決める気はない。」

如月が口角を上げる。

如月「ほう、まだ庇うのか?」

桐谷「庇ってなんかいねぇ。」

桐谷の声がぴしゃりと空気を裂いた。

桐谷「けど、ウチの人間の始末は、俺がつける。」

その言葉に、奏多の胸が締めつけられる。

庇ってくれている――そう感じたのに、言葉は冷たく、突き放すようだった。

奏多「……桐谷さん、俺……本当に……」

かすれた声で言葉を紡ぐ奏多。

けれど、桐谷は視線を合わせようとはしなかった。

誰もそれを信じてはくれなかった。

如月の口元が、勝ち誇ったように歪む。

桐谷「如月、とりあえず奏多を返せ。」

如月「それはまだここでする話じゃないだろ?
周りの組が変な噂を流してうるさいから状況を説明しただけだ。
また、それは場を儲けよう。」


如月「さて、すまない。少し遅れたが会合を始めましょう。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

奏多は会合の間何も音が耳に入ってこなかった。

ただ、キーンとずっと耳鳴りがなっている。

時々桐谷の方から視線を感じるが顔を見せられない。

ただ、ごめんなさいと心の中で呟くだけだった。

如月「おい!おいっって!奏多!」

奏多「!!す、すみません、」

如月「何ボーとしてんだ。片付け手伝ってこい。」

奏多「はい。」

部屋を見渡すと、もう桐谷はおらず内心悲しんでいる自分に嫌気がさした。


片付けを終わらせ、部屋に戻ろうとしていた時だった。

奥に桐谷がいたのが見えた。

奏多『今しか、ない…ちゃんと言わないと…』

勝手に出て行ってしまったこと、誤解のこと、
謝りたいーーーその一心で思うよう動かない足を進める。 

心の中では、何度も「ごめんなさい」と繰り返していた。

でも、桐谷の隣にある“自分の場所”を見た瞬間、足が止まった。

そこには、華奢で若い男が隣にいた。

自分がいたはずの場所。

いつも隣にいた距離感。

それが、今は――自分ではない誰かで満たされている。

胸の奥が、何か締め付けられるように痛んだ。

頭の中で、理屈と感情がぐちゃぐちゃに絡み合う。
――桐谷さんの隣は俺だった……のに、隣には……

すると、桐谷が振り返り視線がぶつかった。

その一瞬、世界が止まったように感じられた。

でも、桐谷の瞳にはいつもの強さも優しさもなく、わずかにハッとしたような驚きが宿る。

「……」

目が合ったその瞬間、桐谷は視線を逸らした。

少し眉をひそめ、息を飲むように肩をすくめる。

そして、無言のままその場を後にして歩き出す。

奏多はその背中を、ただ見送ることしかできなかった。

怒りでも嫉妬でもなく、ただ――心の奥底から湧き上がる、切なさと焦燥。

胸の中で、謝りたい気持ちが、言葉にならないまま震えている。

奏多「……桐谷さん……」

小さく、かすれた声で呼ぶ。

けれど、振り返ることはなかった。

声は届かない。届くはずもない。

その場に立ち尽くし、奏多は自分の無力さを噛みしめる。

何もできない――ただ、心が揺れるだけ。

隣にいるはずだった自分の場所は、もう確かにないのだと、痛いほど実感した。

それと一緒にもう、見放されたのだと、。

胸の奥で、謝罪の言葉が繰り返しこだまする。

奏多「ごめんなさい……ごめんなさい……」

でも、その声は、届かないまま夜の空気に溶けていった。




如月「遅かったな。逃げたのかと思ったぞ笑」

「帰るぞ。」








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