龍の檻と青年

はる

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桐谷が病室に来なくなった日から、奏多の時間は鈍く、重く、まるで止まったかのように流れていった。

面会時間になっても黒い背中は現れず、ナースステーションの声や薬の時間の規則的な音も、胸の奥のぽっかり空いた穴を埋めることはできなかった。

ベッドに横たわり、震える唇で小さく呟く。奏多「……ごめんなさい…」
心の奥では、桐谷の姿を求める衝動が止まらない。

目を開けても、見えるのは白い壁と淡い光だけ。

世界は遠く、冷たく感じられた。

胸の奥の黒い空洞は日ごとに深くなり、息をするだけで痛みを感じるほどだった。

胸の奥の痛みを確かめるように、奏多は無意識に腕や胸を掻き、布団に押し付ける。

痛みだけが、今ここに存在していることを教えてくれる。

涙は頬を伝い、布団を濡らす。

胸の奥の孤独と絶望は、痛みに置き換えるしか方法がなかった。

看護師がその異変に気づき、奏多の腕をやさしく抱き、声をかける。

看護師「奏多くん、大丈夫だよ」

だが奏多の意識は半分遠くにあり、桐谷の声だけを求めて漂っていた。

痛みで現実を確認しようとしても、胸の奥の空洞は埋まらず、涙は止まらなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

医師「んー、奏多さん。今のままでは治療を進めるのは奏多さんにとって危ないと思うんです。精神病棟に移ってまずは心の傷から治しませんか?」

その言葉をききてから、自分がどう言う発言をしたか覚えてない。

ただ、目の前がずっとグルグルとしていた。

そして、いつの間にか車椅子に乗せられ、廊下を進む奏多。

白い壁と淡い照明が視界に広がる。身体はここにあるのに、心は別の場所に置き去りにされたようだった。

そして、着いたのか、ベッドに横たわり、ブランケットをかけられても、胸の奥の空洞は消えない。

桐谷の不在は変わらず、孤独は静かに、しかし確実に奏多を蝕み続けた。

奏多「桐谷さん……」
小さく名前を呟く。返事は返ってこない。それでも、この声だけが奏多を現実に残すわずかな光のように感じられた。


夜になり、病棟は静まり返る。と思っていた。

けれど、そこは誰かの叫び声が響き、苦痛でしかない場所だった。

窓から差し込む月の光が、奏多の顔を淡く照らす。

身体はベッドにあるのに、心はまだ宙を漂い、現実と夢の境界は曖昧だ。

呼吸は浅く、手はわずかに震え、視界はぼんやりとしている。

遠くの廊下の足音や、ナースステーションの声が聞こえるたび、心はざわつく。

胸の奥にある空洞は深く、涙は勝手に頬を伝って落ちる。

小さく「桐谷さん……」と呟き、涙を枕に落とす。

その声だけが、奏多にとって唯一の希望であり、心を繋ぐ細い糸だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

多分一週間が経った頃だろうか。

分かってる。もう僕を避けてることが。

この前看護師が話しているのをたまたまきいてしまった。

看護師「橋本さんのところ、付き添いの方来られなくなりましたね、」

看護師「結構色々あったらしくて、怒って出て行ったままそのきりだと、、」
「一応、面会時間もお伝えしてるんだけど、出もせずに切られちゃうのよね、、」

看護師「こんなこと言ったらあれだけど、精神病もちの患者さんはあるあるだわよね、、
可哀想だけど、理解してもらえない部分もあるからね、」

看護師「そうね、、でもこのまま避けられると
橋本さんの容態がね、、心配だわ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あれからと言うもの、すべてのことに対してなんの感情も湧かなくなった。

生きてても喜んでくれる人がもういない。

身体は無意識に傷つけてしまいボロボロ。

この前なんて、また解離症がで始めたらしい。

ただ勝手に身体動いてるだけなのに僕のせいにされるんだ。

ここまでして生きてなんになるんだろう。

今思えば、僕は生きることに執着し続けている。

毎回いつも生き延びてしまう。

ーーーー桐谷さんがいたから。

けど、もう楽になっても許してもらえるんじゃないだろうか。

ずっとこの檻の中で過ごすなんて嫌だ。

でも、最期くらいは桐谷さんに会いたかった。

そして、もっと景色が綺麗なところがよかった。

またあの桜みたいな。

でも多分これも罰。

人を傷つけてきすぎたから。


誰かを想いながら死ぬのくらいはいいよね。


そして、腕にささっていた点滴の針を無理やり抜く。

こんなんで死ねるかは分からないけど、部屋にはこれしかない。

自殺未遂なんて嫌だなー。

ころっといける薬なんてあればいいのに、
などと思いながら、針先を首の上に持ち上げる。




ーーーーー桐谷さん、愛してます。


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