龍の檻と青年

はる

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「……なあ、奏多」

声をかけられたのは、組の建物の一階だった。
昼下がりで、人の出入りも落ち着いている時間帯。

振り向くと、蓮が壁にもたれかかるように立っていた。
いつも通りの軽い表情で、片手にスマートフォンを持っている。

「このまま中にこもってると、息詰まるだろ」

奏多は一瞬、言葉に詰まった。
断る理由は特にない。ただ、桐谷さん以外と外に出ること自体が、まだ少しだけ怖い。

それを察したのか、蓮は肩をすくめた。

「大した用じゃない。
コンビニまで付き合え。荷物持ち要員な」

冗談めいた言い方だった。
無理に引っ張るわけでも、気を遣いすぎるわけでもない。

奏多は、小さく息を吸ってから頷いた。

「……それなら」

「決まり」

「若におこられっかな、笑
秘密な笑」

蓮は即座に歩き出した。
振り返らないが、歩幅は自然と奏多に合わせている。

外に出ると、空気が少し冷たかった。
日差しはあるのに、風が肌を撫でていく。

「外、久しぶりか」

「……そうかも」

奏多の答えに、蓮はちらりと横を見る。

「別に、無理に慣れろとは言わない。
でも、こういうのは少しずつでいい」

奏多は驚いたように蓮を見るが、
本人は特に深刻な顔をしていない。

「俺も昔、同じような時期あったし」

さらっと言って、話題を変える。

「何飲む?」

コンビニに入ると、明るい照明と機械音が耳に入る。
棚に並ぶ商品を眺めるだけで、少し現実に戻される感覚があった。

「……カフェオレがいいです。」

「相変わらずだな」

そう言いながらも、蓮はきちんと甘い方のカフェオレを取った。
自分用にはコーヒーと、甘い菓子パン。

レジを済ませ、店の前で立ち止まる。

「ここで飲んでくか」

ベンチに腰掛けると、蓮は先にコーヒーを一口飲んだ。

「なあ」

何気ない声。

「お前さ、ちゃんと生きてる顔になったな」

奏多は、思わず手に持ったペットボトルを見下ろす。

「……それ、褒めてます?笑」

「一応」

蓮は笑った。

「前は、目がずっと遠く見てた。
今は……ここにいる感じがする」

奏多は、少し考えてから答える。

「まだ、全部戻ったわけじゃないけど」

「それでいい」

即答だった。

「全部戻る必要もない。
変わったなら、それはそれで今のお前だ」

風が吹き、紙袋が小さく揺れる。
その音が、妙に心地よかった。

「若も、余計なこと言わないようにしてるだろ」

「……はい」

「多分な、あの人なりに必死なんだ」

奏多は黙って頷いた。

「まあ、俺はそこまで気遣えないからさ」

蓮は立ち上がり、伸びをする。

「だから今日はこれで終わり。
散歩レベルで十分」

奏多も立ち上がる。

「……ありがとうございます。」

小さな声だったが、蓮は聞き逃さなかった。

「どういたしまして」

軽く手を振る。

「また気が向いたら連れ出す。
拒否権は一応認める」

そう言って歩き出す背中を見ながら、
奏多はもう一度、空を見上げた。

「今日は星が綺麗だ。」


***

帰り際に、ふと奏多が蓮に話を持ちかけた。

「そういえば、蓮さん奥さんいらっしゃるんですか?」

「…え?笑笑」
「あぁ、これね…」

そう言って、左薬指に嵌められた指輪に触れる。



蓮は一瞬、歩みを緩めたが、立ち止まらなかった。

「昔のものだ」

それ以上は言わないつもりだった。
だが、奏多は続きを待つように、黙って隣を歩く。

「大切だった人の」

その一言だけで、胸の奥が少しだけ痛んだ。

奏多はそれ以上、聞かなかった。
ただ、ゆっくりと頷く。

「……そうなんですね」

その反応が、妙に救いだった。

詮索しない。
同情もしない。
ただ、受け取る。

「んー、俺の話きいちゃう?」
「まあ、奏多になら話してもいいかー」

そう言ってどこか淋しそうな顔をしながら、けれど笑顔を貼り付けながら自分の過去を語り出した。


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