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彼と彼女の前前世

-2-彼の馬鹿な前前世

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「麗!麗...頼むから...一生に一度の頼みだから目を開けてくれ...!」

道路の真ん中で冷たくなった彼女の手を握り、必死に叫ぶ。

俺が殺した。

そんな罪悪感が今更に重く積もる。

「愛してるんだ...」

失って初めて気づいた、感情。

俺は数分前の自分を刺し殺してやりたくなった。

まさか、親友との何気ない会話であんなことを聞かれると思ってなかったのだ。

こんなのは言い訳にもならいと思うが、好きなのだと、図星を言われ慌てて気が動転してしまったのだ。

なんでも言うことをいつもそつなくこなしてくれる麗が今だけは何も聞いてくれない。

いや、これからも。

俺はその事実が嫌でも、麗の、息がないことに気付かされ、その場で泣き続けることしかできなかった。



情けない。自分が憎くてしょうがない。

どうして俺に悪口を言われただけで麗があんなにも動揺して、死んでしまったのか。

それは亡くなった麗の日記でわかったことだった。

いや、よく考えれば分かったことだった。

4月4日

今日も社長はカッコいい。私なんて目にも止まっていないだろうけど、もしかしたら秘書だから、情くらいはあるのかもしれない。告白して必死に頼んだら一度くらいは食事に行けるかもしれない。まあ、私に告白する勇気なんてないんだけども。

4月5日

今日は部下に押し付けられた仕事を社長が手伝ってくれた。あの子、ちょっと男慣れしている感じでちょっと苦手だから、あまり会話したくなくて受け取ってしまったけど、社長と一緒に残業して仕事できたから感謝しよう。

4月5日

今日は飲み会があった。運良く社長の隣の席になれたけど、次はどうなんだろう。もし社長の隣に可愛い女の子が座っていたら嫉妬してまた社員を怖がらせてしまうかもしれない。だから本当は二人で飲みたかった、なんてことはここだけの秘密である。

4月6日

今日は社長がとてもやる気だ。やっぱり仕事ができる人はいいなと思う。わたしは言われた仕事をこなすのが精一杯で、人の面倒まで見てあげられる社長に憧れる。いつか社長と一緒になれたら...なんて思わないから、社長に少しでも近づければいいな、なんで思った。

...俺は読むのが辛くなってここで日記を閉じてしまった。

読むたびに罪悪感が募り、恋い焦がれる。

自分はなんて馬鹿なことをしたんだろう。俺がもっとこの感情にさえ気づいていれば彼女が死ぬことはなかった。

いくら恋焦がれても彼女がこの世に戻ってくることはない。

2人で飲みたいならいくらでも行ってあげればよかった。

苦手な部下がいるなら、言ってくれればよかった。

なんて後悔も、今になってみればなんの役にもたたない。

なぜなら、彼女はもうここにはいないのだから。

自分に言い聞かせるように放ったその言葉は、何よりも重く心にのしかかっていった。



それから俺は何をするにも気力が起きず、あれだけ色んな人や、麗に褒められた仕事にも手がつかなかった。

病は気から、と言う言葉通り、何も気力が起きない俺はあっという間に病気に蝕まれた。

そして、そのまま蝕まれるまま抵抗せず、俺は麗が亡くなってから半年という時が経とうとしたときに眠くなった。

この眠りが、いつもの睡魔でなく、もう二度と起きれない、抗えない強制的な眠りであることに俺は気付きながらも、もうこんな世界麗のいない世界に用はないと、いつも通り抵抗することなくあっけなく眠りについたのだった。


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