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第二話

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そして次の質問である。

『こんなことを聞いても答えが出ないのはわかっているのですが、どうして私はこんな夢ばかり見てしまうのでしょう...』

『さぁな』

殿下は自分も知らないという顔で告げた。

『やっぱり私がいけないんでしょうか...夢はその人の妄想だと聞いたことがあります。こんな邪な想いを抱いてしまうなんて。殿下に知られたら生きていけません... まあ、目の前にいる理想の殿下に言ったって仕方ありませんよね』

わたしは、はぁ、と息をつく。

『理想の殿下?』

殿下は不思議そうな顔でなんだそれはと尋ねてきた。

『えぇ。夢の中以外でも、わたしはたまにこんなふうに考えてしまうことがあるのです。私に甘くて、私の想いを受け止めてくれる優しい殿下。これは紛れもなく私が考えてしまった『理想』なのです。』

私のそんな答えを殿下は顔を歪めて聞いた。

『...』

『すみません。不快でしたよね。こんなことを聞いて...』

『いや。情け無いな、と思ったのだ』

『え?』

『現実の俺は、お前に何もしてやれない。あのな、婚約者であればお前のその理想とやらは当たり前のことなんだ...当たり前のことすらもお前に与えてやれず、それを理想だなんて言わせるなんて...どこまでもクズだ。最低だな』

理想の殿下はしゅんと、眉を下げて自分を酷く言った。

『...違いますよ。貴方は決して当たり前なんかじゃありません。私の求める答えをくれるのです。それに、現実の殿下あの方を悪く言わないでください。妄想の中の貴方殿下も、現実の殿下も、どちらも私は愛しているのです。私が愛した人を悪く言わないでください』

『...あぁ。そうだったな』

そのあとに私の理想の殿下は、君はそういう人だったな、と、笑って言った。



空っぽだったような殿下のいない生活も、夢によって満たされた。

交わる前に雑談を交わしたりすることも多くなり、妄想の殿下に私はいつしか学校のことまでもを話すようになっていた。

おかしい...よね。

夢の人物に現実のことを話すなんて。

ましてや、その夢の人物だけのために学校を頑張るなんて。

でも、おかしいとは思えど、それが虚しいとは自然と全く思わなかった。


そしてもはや日常になってきているこのみだらな夢。

今日、夢の中の殿下はついに特殊なプレイを始めようとしてきたのだった。

夢の中の殿下はメイド服を持っている...

『そ、それって...』

『あぁ。たまにはこんなプレイもいいかなって。嫌じゃなかったら...着て欲しい』

殿下の真剣そうな視線に負け、私はメイド服を着ることになった。

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