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三章 恋人のフリ?
49話 鴨志田の過去②
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「それから店はどんどん大きくなって、私は引退したけど……。もうその頃には、蓮は大人になってた。頭だけよくなって、捻くれちゃったままね。大学生になったら、あっさり家をでていっちゃった。もう帰ってこないかと思ったわ」
鴨志田は仕送りをも拒んだのだと言う。
だが、会長が「孫が貧乏だと印象が悪い」と無理にでも送りつけたので、大学時代には口座を通してのやりとりだけが続いたそう。
「あれ、でも今は……」
「うん。社会人になる頃に、急に顔を出してね。ダッグダイニングで働くって」
「なんのきっかけもなく、ですか」
「そうなの、意外だったわ。蓮ったら、変に打算的なところがあるから、その方が楽だと思ったのかしらね」
「たしかに、かなり手抜きがちではありますけど……」
「でしょう? それを分かってかはしらないけど、うちの人も一つ返事で認めたの。勝手にすればいいって」
「優しさ、なんでしょうか」
罪滅ぼしかとも思ったが、口にするのは憚られた。
「ううん。経営者として跡取りがいるってところは見せないとダメだから、だそうよ」
実際は、より酷なものだった。
その言い方では、まるで道具扱いだ。
鴨志田が『会長』と呼ぶ理由が分かったかもしれない。彼にとっても、あくまで雇い主でしかないわけだ。
「あの人、昔気質ではあるけど、いい旦那なのよ。でも蓮に対してはいつも厳しいの。経営者と親、二つの道を一緒には歩けなかったのかしらね」
夫人は、物憂げにお猪口をくいっと煽る。
どうもお酒に弱いのは家系のようだ。
少し時間が経つと、目が真っ赤に充血していた。
「ごめんなさいね、あなたが来てくれたのが嬉しくて、つい飲みすぎちゃったわ。ホスト側なのによくないわね」
夫人はまったりと机に伏せる。希美は、その肘が届かないだろう範囲に、お冷やを置いた。
「希美さんが優しい子で安心したわ。蓮は、お金だけはある、いびつな環境で育ってきたから。早く人並みの幸せを掴んで欲しかったの」
母としての愛が零れる。
けれど、希美は本当の彼女ではない。
心が痛んで、白状しようかと思いかけるが、夫人はもう立ち上がっていた。会長のそばまでいくと、二言三言交わして、居間を後にする。部屋で休むつもりなのだろう。
入れ替わりに、鴨志田が希美の元へとやってきた。
「そろそろいくぞ、後輩」
「えーっと……?」
「なんのためにここに来たんだ。会長を説得するためだろ」
そうだった、と希美は手を打った。
代役彼女は、あくまでもついでだった。話が濃かっただけに、てっきり本題だと思いかけていた。
会長は、常に周りを参加者に囲まれていた。彼も、妻と同じくほろ酔い加減のようだ。
大口を開けて笑っている。
「会長は酒が入ると陽気になる。仏頂面の時よかチャンスありそうだろ?」
「……鴨志田さんらしい作戦です」
こすいとも思ったが、さっきの話を思えば、そうとも言い切れなかった。
親子でなく、一社員として経営者と対峙するなら、相手に隙がある方がいい。
結果、門前払いを食らうだけだったのだが。
鴨志田は仕送りをも拒んだのだと言う。
だが、会長が「孫が貧乏だと印象が悪い」と無理にでも送りつけたので、大学時代には口座を通してのやりとりだけが続いたそう。
「あれ、でも今は……」
「うん。社会人になる頃に、急に顔を出してね。ダッグダイニングで働くって」
「なんのきっかけもなく、ですか」
「そうなの、意外だったわ。蓮ったら、変に打算的なところがあるから、その方が楽だと思ったのかしらね」
「たしかに、かなり手抜きがちではありますけど……」
「でしょう? それを分かってかはしらないけど、うちの人も一つ返事で認めたの。勝手にすればいいって」
「優しさ、なんでしょうか」
罪滅ぼしかとも思ったが、口にするのは憚られた。
「ううん。経営者として跡取りがいるってところは見せないとダメだから、だそうよ」
実際は、より酷なものだった。
その言い方では、まるで道具扱いだ。
鴨志田が『会長』と呼ぶ理由が分かったかもしれない。彼にとっても、あくまで雇い主でしかないわけだ。
「あの人、昔気質ではあるけど、いい旦那なのよ。でも蓮に対してはいつも厳しいの。経営者と親、二つの道を一緒には歩けなかったのかしらね」
夫人は、物憂げにお猪口をくいっと煽る。
どうもお酒に弱いのは家系のようだ。
少し時間が経つと、目が真っ赤に充血していた。
「ごめんなさいね、あなたが来てくれたのが嬉しくて、つい飲みすぎちゃったわ。ホスト側なのによくないわね」
夫人はまったりと机に伏せる。希美は、その肘が届かないだろう範囲に、お冷やを置いた。
「希美さんが優しい子で安心したわ。蓮は、お金だけはある、いびつな環境で育ってきたから。早く人並みの幸せを掴んで欲しかったの」
母としての愛が零れる。
けれど、希美は本当の彼女ではない。
心が痛んで、白状しようかと思いかけるが、夫人はもう立ち上がっていた。会長のそばまでいくと、二言三言交わして、居間を後にする。部屋で休むつもりなのだろう。
入れ替わりに、鴨志田が希美の元へとやってきた。
「そろそろいくぞ、後輩」
「えーっと……?」
「なんのためにここに来たんだ。会長を説得するためだろ」
そうだった、と希美は手を打った。
代役彼女は、あくまでもついでだった。話が濃かっただけに、てっきり本題だと思いかけていた。
会長は、常に周りを参加者に囲まれていた。彼も、妻と同じくほろ酔い加減のようだ。
大口を開けて笑っている。
「会長は酒が入ると陽気になる。仏頂面の時よかチャンスありそうだろ?」
「……鴨志田さんらしい作戦です」
こすいとも思ったが、さっきの話を思えば、そうとも言い切れなかった。
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結果、門前払いを食らうだけだったのだが。
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