【完結保証】ダックダイニング店舗円滑化推進部 ~料理は厨房だけでするものじゃない!~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】

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三章 恋人のフリ?

56話 陰謀の真実

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残された問題は、本部の中のみだった。

例の二股問題が持ち上がってから二週間。噂はというと週末まではくすぶっていたのだが、

「木原さんも大変だったねぇ。誤解だったんだって?」

月曜日になって出勤すると、すれ違う社員たちに、こんな慰めの声をかけられる。

忘れられたというより、誰かが真実を広めてくれたようだ。仲川や恵子あたりだろうか。

どうであれ、これで仕事がうまく回っていくはずだ。

そんな希望的観測を抱きながら、会社の端っこにある店舗円滑化推進部の執務室へと向かった。

驚いたことに、部員三人全員が先に待機していた。まだ始業の三十分前だ。

「……えっと、おはようございます」

まるでエリート部署に変貌したかのような異様な光景である。
佐野課長の席を中心に固まる彼らに、怖々声をかける。

「ごめんなさい、木原さん。全部私がやったんです」

唐突に、佐野課長に謝罪を受けた。
涙ながらに言うものだから、でろでろに化粧が溶けて、あまり直視できないような面になっている。

「はい? なにがどこまで、なにを……」

希美が首を捻っていると、鴨志田は不快感をあらわにした表情で言う。

「今回の二股騒動全部だとよ。あの妙なラブレターの件からな」
「えっ、あんなところから!?」
「そうらしい。佐野課長の前部署、商品企画だったろ? 店舗上がりとエリートコース、当時から対立してたらしい。その時に散々と叱られた仲川への仕返しと、目立つ後輩への妬みを同時に果たしたかったんだとよ」

そう言われてみると、彼女が犯人なら、理屈は通る。

あのラブレターは商品企画部の意見箱に入れられていた。

基本的に、その部署の人間以外は触れる機会のないものだ。

部員の誰かが出来心でやったのだと思っていたが、店舗円滑化推進部の職員ならば、あの箱を自由に弄っていても誰も不思議に思わない。

「今回のしょうもない噂も、俺たちが商品企画部の話に首突っ込んでるって聞いて、でっち上げたらしい」

鴨志田は、睨みつけるように佐野課長を見下ろす。
役職者相手だが、遠慮する素振りは全くない。

「鴨志田くん、今の問題はそこじゃないよ~。ね? たしかによくないことだけど、あんまり責めないでさぁ。観葉植物の生育にもよくないし……」

争いごとには向かない早川部長が、私欲も交えて、こう鴨志田をなだめる。

攻撃の矛は収めたが、まだまだ機嫌が悪い。

「……なにか別の問題でも起きたんですか」

その態度に、希美は一抹の不安を覚えた。

深刻に俯いた三人に、それが風船のように徐々に膨れ上がっていく。

「ほとんどの部署は間に合うことになったんだけどね……」

部長が伏し目がちに言う。

「どこかの部署がアウトになったんですね」
「どうやら人事部の採用スケジュールが決定的に遅れてるみたいなんだ」

人事部といえば、佐野課長が通っている給茶器のある部署だ。

「人事の人間に吹き込んだのが、噂の発生地点ってわけだな。大方、遅れても責任は後輩にあるとでも言ってたんだろ。……ま、そういうわけで、アルバイトの採用が間に合ってないそうだ」

鴨志田がこわばった顔を崩さぬまま説明をする。
より詳しくと問えば、不足しているのはキッチン要員らしい。

「現段階じゃあ、まともに調理ができるのは研修を終えた店長一人だ。本部直営店は、大型ショッピングセンターのテナントとして入る。『天天』みたいに店の規模は小さくないから、一人では回しようがない」
「でもまだ二週間ありますし」
「あぁ。でも、手順書の作成なんかはデモをやらないとできない話だ。準備の段階を考えたら、もう決まってないといけない」
「それは何人いればいいんですか」

少し空で計算するようにしてから、鴨志田は指を三本立てる。

「最低人数だがな。……でもこれなら」
「うちらで埋められるっ!」

他に方法がないからだろう。
珍しく、希美の意見がストレートに通った。

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