【完結保証】ダックダイニング店舗円滑化推進部 ~料理は厨房だけでするものじゃない!~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】

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四章 スーパーバイザーとして

64話 あらぬ勘違い?

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  四

長旅の果てに、家がすぐそこまで近づいていた。

もう三年間戻っていない街のことだ。ナビに表示される地図の上に、自分がいる実感が沸いてこない。

夕暮れ時だった。母校の後輩たちが帰路につく横を抜けて、阪神電車の踏切を渡る。

駅前の店群から少し離れたところで、ナビの案内が終了を告げた。もう、すぐそこまできたのだ。

「後輩、店に駐車場はあるか?」
「はい。小さいですけど、この時間ならたぶん大丈夫です」

希美は胃がきゅるっと縮む感じを覚えながら、最後の道案内をする。『近畿一うまい』と掲げられた和風の建物が見え、空いたスペースに車が止められた。

地面が掴めない感じがして、一歩ごと確かめるように扉の前へ。そこで、希美は一度立ち止まった。

「緊張するよな、分かるよ」
「鴨志田さんもこの間実家に行った時はこんな感じに?」
「実は、な。安心しろよ。今度なにかあったら俺が助けてやる」

頼もしい申し出だった。それを受けて、希美は深呼吸をする。

懐かしい、『木原食堂』の香りがした。ここで作られてきた料理の全てが混ざって、浸みた匂いだ。

よしと希美は一度、お土産を提げた右の手首を握った。引き戸を開ける。

ちょうど営業外の時間で、店に客はいなかった。

変わらない間取り、変わらない空気感。
希美が浸っていると、厨房の奥から「すいません、五時オープンで」とよく知った声がする。

「……って、お姉ちゃん?」

エプロン姿で出てきたのは、妹の美菜だった。一番会いづらいと思っていたら、最初に遭遇してしまった。

希美がきまり悪くしていると、両肩が揺すられる。

「帰ってきたの!? なんでこんなタイミングで! お正月もゴールデンウィークも帰ってこなかったのに。心配してたで、みんな。お店のお客さんだって! ……というか、この人は誰!」

疑りの目が、鴨志田へと向けられた。

久しぶりに帰ったと思ったら、男を連れている妙齢の姉。どんな勘違いが起きるかは、推してはかれた。
美菜は、希美のお腹をベタベタと触る。

「も、も、もしかして……!?」
「何ヶ月目でもないわっ!! あほ言ってんちゃうで、美菜!」

希美は、妹のしていたコック帽をはたいた。鴨志田は、似た者姉妹だな、と苦笑する。

お土産一式を渡し、一度彼女を落ち着かせてから、鴨志田との関係を伝えた。思い込みが激しいのが、希美との大きな違いだ。苦労して納得させると、

「今お母さんとお父さん呼んでくるから! 帰っちゃだめやからね!」

彼女は家と繋がっている通用口へ駆けて行った。あの分だと伝言ゲームに失敗しそうでならない。

「後輩、意外に平気そうじゃないか」
「あのトーンでこられると思ってなかったんですもん。なんか脱力しちゃいました」
「ちょうどいいジャブだったんじゃないの。それにしても、いい店だな、ここ。人に愛されてるのが伝わってくるよ」

鴨志田が、店全体を見回して言う。昔と変わらず、メニュー名の記載された札が張り出されていた。

風変わりなメニューの説明をしていると、裏口から足音が聞こえてくる。希美は、居ずまいを正した。四年ぶりの再会を果たす。

おろおろと見るだけで、かける言葉に迷っていたら、希美は母に抱き寄せられていた。

「……お母さん?」

うんともすんとも返事はなく、肩の上で、鼻がすすられる。父も黙るだけだったが、その目は真っ赤になっていた。希美も希美で泣きそうになりながら、母の背中に手を回す。

そうして感動を分かち合うことしばし、

「ちゃんと一人暮らしできてるの? もしかして同棲?」「この方とはどういう関係なんだ」

質問攻めが始まった。やはり美菜は伝えきれていなかったようだ。
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