7 / 48
1章

7話 嫌いなゲームのシナリオくらい変えてみせます!

しおりを挟む
声をかけてしまったあとに、あーあと思ったが、それはもう後の祭りだった。

遅れてしまった初稿シナリオの締め切りぐらい、どうしようもない。

「だ、誰だ、君は! 葉っぱの怪人かなにかか」

……必死で隠れたせい、せっかくの純白ドレスがミノムシみたく葉だらけになったのも、もうどうしようもなさそうだった。

慌てて取り繕うのも煩わしくなった私は、そのまま王子の前へと出て行く。

近くに寄れば寄るほど、その美貌の解像度は上がっていった。
銀色の髪も、その白磁のような肌も、その光沢を増すばかり。

私の身体から舞い上がる木の葉が、彼の近くを通るときだけ、まるで桜の花になったかのような錯覚さえ覚える。


戸惑うような表情を見せていても、奥二重のまぶたに収まる碧眼はあせない輝きを放っていた。
一方で、長いまつげや目尻の下にあるほくろは、どこかつかめない儚さもたたえているから不思議だ。

「あなたはたしか……茶会でいつか見たことがあるような」

低く穏やかな声は、耳元で囁かれているよう。

これは、令嬢らが虜にされるわけだ。けれどあいにく私はその一人ではない。

「アニータ・デムーロです。葉っぱの怪人ではなくて申し訳ありません」

皮肉を交えて返す。彼は細く笑うと、こめかみを少し伸びた爪で掻いた。
繊細かつ白すぎる肌は、それくらいでも赤くなる。

「申し訳ありません。年頃の女性になんて失礼なことを。とても驚いてしまったんだ、許してほしい。それより、……聞いていたと言うと、どこからどこまでを?」
「もううんざりなんだよ、というところからです」
「つまり最初から?」
「別に聞きたくて聞いたわけじゃありませんよ、あしからず」

 
ここ大切! である。
私は事故に巻き込まれた側であって、決して盗み聞きしたかったわけじゃない。

主張は通ったようで、彼は柔和に何度か頷く。

「どちらにせよ、恥ずかしいところをお見せしたね。どうかこのことはご内密にいただきたい」

まず口止めから入るとは、よっぽど知られたくなかったことらしかった。

作られた笑顔は余裕そうだが、実は内心アップアップなのかもしれない。

ならば、攻め入る好機だ。どうせ私に退却の道はない。

「内密にすることはできますけど……。エリゼオ王子はそれでいいんですか?」
「なにを言っておられるのです、アニータさん」

「このままじゃこの先、いやいや半年以上は、あなたは王家のお道具扱いですよ。
 お茶会だけじゃ飽き足らず、舞踏会やジュリアの家にお呼ばれして一生べたべたされます。
 挙句は隣国の気性が荒いお姫様と婚約させられそうになったりもします。
 その結果、『たぶらかし』王子だなんて悪口言われたりして」

「…‥まるで僕がジュリアのことを苦手に思っているかのような口ぶりはーー」
「だって事実でしょう? きれいごとは聞きませんよ」

ぴしゃり切り返すと、エリゼオは一瞬口をつぐむ。
図星だったようで、身振りが大きくなった。

「よ、予言や占いのような世迷いごとならば、よしてくれないかな。そういったものには傾倒しないよう言われているんだ」
「そうだと思うなら、思っていても構いません。でも、このままじゃそうなりますよ、きっと」

確信のある私に、いっさいの迷いはない。

たかだか男爵令嬢ごとき身分の女が突然出てきて、王子に意見するなんて本来あってはならないのだろう。
もしかすると。エリゼオにしたら私は、怪しい預言者として映っているかもしれない。

けれど、これは予言でなく、決められたシナリオなのだ。
胡散臭い点は一つもない。

意識して抗おうとしない限りは、そうなってしまう。

「………はは、なんだか確信めいた言葉だね。そう言われると、そんな気がしてくるから怖いな」

エリゼオ王子は、取ってつけたように目元だけで微笑む。
ここは私も、社交的に笑顔を返しておいた。

「そりゃあ確信してますから。信じるかそうでないかは、エリゼオ王子次第でございますよ」

長い沈黙が訪れる。
彼と私の間を、西日に温められたぬるい春風が通り抜けていった。

長いまつ毛の間から、青の瞳が少しのぞく。

どうやら私の発言は値踏みされているらしい。


その結果どちらに判断するかは私の管轄外だ。
信じないと言うなら、それはそれだろう。
優柔不断な彼ならば、その選択も十分にあり得る。

と、彼は口を開いた。

「仮に信じたとして、どうにもならないなら僕はそれを聞かなかったことにしたい。下手な希望は持ちたくないんだ。
 どうすればその未来は変わるのか、君にはそれも分かるのかい?」
「いいえ、残念ながらそこまでは」

だって占いは専門外だ。
けれど。

「ただ、どうにか変える方法ならないこともありませんよ」

シナリオを変えるには、新たな筋を作ればいい。

それならば、専門中の専門だ。こっちの世界に来るまでは、これで生計を立てていたくらいである。

「……僕の負けみたいだ」

彼は手首の裏で頭を打つと、薄く鮮やかな血色をした唇の端をほんの少しだけ吊り上がる。

溢れたのは、ふっという短い吐息だった。

「あなたのその自信に満ちた声を、表情を信じてみたくなった。今を変えられるというなら、ぜひに賭けてみたい」

なんだ、意外と言えるじゃない。

嫌いなキャラだからと散々なイメージを持っていたが、ひっそり彼を見直す。

「教えてくれないかな、その方法。…………いや、待ってくれ。やはりもう少し考えてもいいかな」

まだ、ほんの少しだけれど。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

追放された令嬢ですが、隣国公爵と白い結婚したら溺愛が止まりませんでした ~元婚約者? 今さら返り咲きは無理ですわ~

ふわふわ
恋愛
婚約破棄――そして追放。 完璧すぎると嘲られ、役立たず呼ばわりされた令嬢エテルナは、 家族にも見放され、王国を追われるように国境へと辿り着く。 そこで彼女を救ったのは、隣国の若き公爵アイオン。 「君を保護する名目が必要だ。干渉しない“白い結婚”をしよう」 契約だけの夫婦のはずだった。 お互いに心を乱さず、ただ穏やかに日々を過ごす――はずだったのに。 静かで優しさを隠した公爵。 無能と決めつけられていたエテルナに眠る、古代聖女の力。 二人の距離は、ゆっくり、けれど確実に近づき始める。 しかしその噂は王国へ戻り、 「エテルナを取り戻せ」という王太子の暴走が始まった。 「彼女はもうこちらの人間だ。二度と渡さない」 契約結婚は終わりを告げ、 守りたい想いはやがて恋に変わる──。 追放令嬢×隣国公爵×白い結婚から溺愛へ。 そして元婚約者ざまぁまで爽快に描く、 “追い出された令嬢が真の幸せを掴む物語”が、いま始まる。 ---

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

処理中です...