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3章
45話 主人公さんとエンカ?
しおりを挟む「というか、そもそも私エリゼオと恋仲じゃないんですけど……。しかも、男遊びなんてしてないし。もうちょっとちゃんと下調べしてからにしてくれます?」
悪い癖が出てしまい、またしてもつい反論してしまった。
対決の雰囲気が醸し出されていき、場がだんだん騒然としていく。
またこんな事態になってしまった。エリゼオやヴィオラに知られたら怒られるだろうなぁ、と遠い目をしていたら、なぜか騒ぎが勝手に収束していく。
集っていた民衆、貴族の者たちも次から次にはけはじめたのだ。
しかも、騒動を起こした張本人であるはずのジュリアやディエゴまで、去っていくではないか。
なにごとかと思って一人、立ち尽くしていると、
「お、お、おい! あの黒髪の女が出たぞ!! もしかして、災厄を連れてくるって噂の……」
「出たな、悪霊女! あの目に見られたら、たしか魔物になっちまうとかなんとか…………ひいっ!?」
集まっていた人々の口にした言葉で、なにが起きているのかは大体わかった。
待ちわびた、わけでは当然ない。けれど、いつかは来るだろうと思っていたイベントが発生したのだ。
私はついに、エンカウントしてしまうらしい。
伯爵令嬢、リーナ・ソッチ。
この世界、乙女ゲーム『黒の少女と白王子』において、主人公である少女が現れたらしい。
さっきまでの混雑が嘘のように、あたりが閑散とする。
残されたのは私とリーナの2人だけだ。
「あ、あなたも逃げたほうがいいんじゃ……?」
彼女はフードの下から控えめにこちらを覗いて言う。
ぶかぶかのローブを着ているから、はっきりと顔はうかがえないが、私はさんざんゲームで見てきた。
その容姿は、タイトルに「黒の少女」とあるとおり、黒色の瞳と髪が特徴だ。
髪型は長めのミディアムボブで、こめかみの横の毛束を小さな白のリボンでまとめてあった。
本物だと感慨を覚えて少し、私は気づく。
どうやら彼女は私の置かれた状況を見て、わざとその姿を見せてくれたらしい。
「逃げませんよ、別に。むしろ助けてくれて、ありがとうございました。ありもしない噂を流されて困惑してたんです」
私がお礼を述べると、彼女はすっかり俯いてしまう。
「あの、本当に私の目を見るのが怖くないんですか……」
だんだんと声量が小さくなり、最終的には完全にミュートになってしまった。
「どうしてですか? お礼は目を見て言うものですよ」
「だって、その……。みんなが言ってます。私と目を合わせたら呪われるんだ、と」
「あぁ、その噂のことですか」
そんなものがただの噂でしかないことは、元プレイヤーである私はもちろん知っている。
ただこの世界の人は、彼女の存在に気付くと揃って逃げてしまうため、リーナは誰とも目を合わせず常に被り物をして生活をしているのだ。
……ゲーム本編のシナリオでは、この辛すぎる日常シーンが鬱々と続いて、まあ長かった。
勧めてきたオタク友達は、そのリアリティや没入感こそが魅力! といっていたが、私にはかなり退屈かつ精神的に重かったと記憶している。
そういう、まどろっこしいのは嫌いなのだ。
私はぐっと彼女との距離を詰めると、そのローブを思い切ってはがしてしまう。
そして自分は真ん前に立って、少しだけ低いところにある彼女の黒目とばっちり視線を合わせた。
「え…………」
リーナにしてみれば、私の行動は突然すぎたらしかった。
彼女はその輪っか状になった黒目をはっきりと見開き、こちらを見返してくる。
「え。どうして。怖いでしょう、普通! 誰だって、この目を見ようともしないで逃げていくのに」
「いいえ、まったく怖くありませんわ。見ただけで呪われるなんて、ありえない話です」
「わ、わ、分かっていますよ、自分では! でも、これまでは誰も信じてくれなくて――」
「これまでは、これまでですよ。私はもうちゃんと見ちゃいましたしね」
完全に後戻りのきかないところまでやってしまってから、私はふと思い出した。
ゲームの本編において、彼女と最初に目を合わせることになるのは、白王子。
つまりはエリゼオだった。
たしか、剣士の大会が催された闘技場にて、リーナがジュリアに転ばされたところをエリゼオ王子が助け、そのときにたまたまフードが外れて目が合ってしまうのだ。
……あれ、もしかして私、今あっさりと致命的なことした?
超大事なイベントつぶしたんじゃ……。
私が重大な事実に気付いて、汗をだらだら垂らしていると、その隣でがさりという音が鳴る。
リーナ嬢が地面に崩れこみ、わんわんと涙を流していた。
「やっと分かってくれた。人が目を合わせてくれた……! ありがとうございます、ありがとうございます!」
やっぱり強制的にでも、目を合わせてよかったかもしれない。
ありもしない事実に、彼女が苦しむ時間を減らすことができたのだ。
物語の展開だとかを犠牲にしてでも、目の前で苦しむ姿を見たくはなかった。これで、窮地を救ってもらった恩返しになっただろうか。
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