44 / 48
3章

44話 モブ令嬢、言いがかりをつけられる

しおりを挟む




暇のできた、とある休日。

私は、王都の街並みを、ある目的をもって歩いていた。
手には日記帳とスケッチブック、さらにはペンを握り、時に立ち止まってメモを取る。

目的はもちろん、ファンタジーな世界を舞台としたシナリオ作品を書くための情報収集だ。

一般的なファンタジー世界とはいえ、画面の外から見ているのと中から見ているのとではその受け取り方は大きく異なる。

ありふれた場所一つとっても、そうだ。

たとえば八百屋やアイテム交換所なんてありがちな場所でも、よくよく観察すれば新たな発見が必ずある。

置いてある小物などまで細かく描写することにより、世界にリアリティを持たせることができるわけだ。

さて、次はどこへ行こうか。そう思ったとき、それは私の行く手を阻んだ。

なんだか人だかりができているなぁ、と思えば、その中心にいるのは仇敵、ジュリア・エルミーニの姿だ。
まるで選挙演説をするかのような調子であった。わざわざ設えたひな壇の上に立ち、大衆を煽りながら言うには……

「みなさま、よろしくって? アニータ・デムーロという卑賎な女がエリゼオ王子をたぶらかしているのは間違いないわ!」

あろうことか、またしても私の悪口を吹き込もうとしていた。
本当懲りないなぁ、この人。あまりに粘着がすごすぎる。ここまできたら一周回って、逆にその懲りない力がうらやましくなる。

「げ、またあの我がまま令嬢はこんなことをしてるの……」

私は思わず呟いて、とりあえず無視をきめることにする。
今ならまだジュリアに存在を気づかれていないだろうし、この人の数だ。地味でモブな男爵令嬢一人見つかるわけ――

「そこにいるのは分かっていましてよ、アニータ・デムーロ!!」

そうだった、この人、なぜか私を見抜くのめちゃくちゃ早いんだった。

このままでは、また面倒なことになる。また失言を漏らして、彼女の怒りに火をつけてしまうやもしれない。
私はその指摘もスルーして、どこだどこだ、と私を探し始める大衆の間を抜けていく。

「アニータ・デムーロは、浮気をする不貞行為をしたうえで、この子爵令息・ディエゴとの婚約を破棄された過去があるのよ! しかも、そのすぐ後に別の男と付き合っているのを、ディエゴは目撃しています」

……さすがに足がとまったよね。

まさか元婚約者、ディエゴ・オルシーと、ジュリアが手を組んでいるとは思いもしなかった。

私からしてみれば、面倒な馬鹿二人が手を組む、という最低の状況だ。

ジュリアに呼ばれたディエゴが、壇上へと上がってくる。

その絶妙に整っておらず、生意気な面は久しぶりに見ても、いらっとする。

「アニータ、ふざけるなよ!? 俺というものがありながら、他の男と屋敷で親密にふるまったうえ、エリゼオ王子とも恋仲になるなんて。君だけいい思いをしすぎじゃないか!」

いやいや、言うに事欠いてなにを言うのよ、あなた。

浮気行為を繰り返していたのは、むしろディエゴのほうだ。アニータを飾り妻だと断じて、街で女を引っかけて遊び惚けていたではないか。


それに、私が複数の男をたらしこんで遊んでいたというのも、もちろん幻想だ。

彼の言う「私と親密にしていた男」は、エリゼオのことに違いない。
婚約破棄されて傷心だろう私をからかうため、アイテムショップを訪れたディエゴを、エリゼオが撃退してくれたあの一幕の出来事を、彼は別の男だと勘違いしているのだ。

あの時のエリゼオは身分を隠していたから、別人だと思い込んでいるらしい。

まったく毎度、妙な言いがかりをつけてくるものだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

転生したら没落寸前だったので、お弁当屋さんになろうと思います。

皐月めい
恋愛
「婚約を破棄してほしい」 そう言われた瞬間、前世の記憶を思い出した私。 前世社畜だった私は伯爵令嬢に生まれ変わったラッキーガール……と思いきや。 父が亡くなり、母は倒れて、我が伯爵家にはとんでもない借金が残され、一年後には爵位も取り消し、七年婚約していた婚約者から婚約まで破棄された。最悪だよ。 使用人は解雇し、平民になる準備を始めようとしたのだけれど。 え、塊肉を切るところから料理が始まるとか正気ですか……? その上デリバリーとテイクアウトがない世界で生きていける自信がないんだけど……この国のズボラはどうしてるの……? あ、お弁当屋さんを作ればいいんだ! 能天気な転生令嬢が、自分の騎士とお弁当屋さんを立ち上げて幸せになるまでの話です。

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処理中です...