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3章
44話 モブ令嬢、言いがかりをつけられる
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暇のできた、とある休日。
私は、王都の街並みを、ある目的をもって歩いていた。
手には日記帳とスケッチブック、さらにはペンを握り、時に立ち止まってメモを取る。
目的はもちろん、ファンタジーな世界を舞台としたシナリオ作品を書くための情報収集だ。
一般的なファンタジー世界とはいえ、画面の外から見ているのと中から見ているのとではその受け取り方は大きく異なる。
ありふれた場所一つとっても、そうだ。
たとえば八百屋やアイテム交換所なんてありがちな場所でも、よくよく観察すれば新たな発見が必ずある。
置いてある小物などまで細かく描写することにより、世界にリアリティを持たせることができるわけだ。
さて、次はどこへ行こうか。そう思ったとき、それは私の行く手を阻んだ。
なんだか人だかりができているなぁ、と思えば、その中心にいるのは仇敵、ジュリア・エルミーニの姿だ。
まるで選挙演説をするかのような調子であった。わざわざ設えたひな壇の上に立ち、大衆を煽りながら言うには……
「みなさま、よろしくって? アニータ・デムーロという卑賎な女がエリゼオ王子をたぶらかしているのは間違いないわ!」
あろうことか、またしても私の悪口を吹き込もうとしていた。
本当懲りないなぁ、この人。あまりに粘着がすごすぎる。ここまできたら一周回って、逆にその懲りない力がうらやましくなる。
「げ、またあの我がまま令嬢はこんなことをしてるの……」
私は思わず呟いて、とりあえず無視をきめることにする。
今ならまだジュリアに存在を気づかれていないだろうし、この人の数だ。地味でモブな男爵令嬢一人見つかるわけ――
「そこにいるのは分かっていましてよ、アニータ・デムーロ!!」
そうだった、この人、なぜか私を見抜くのめちゃくちゃ早いんだった。
このままでは、また面倒なことになる。また失言を漏らして、彼女の怒りに火をつけてしまうやもしれない。
私はその指摘もスルーして、どこだどこだ、と私を探し始める大衆の間を抜けていく。
「アニータ・デムーロは、浮気をする不貞行為をしたうえで、この子爵令息・ディエゴとの婚約を破棄された過去があるのよ! しかも、そのすぐ後に別の男と付き合っているのを、ディエゴは目撃しています」
……さすがに足がとまったよね。
まさか元婚約者、ディエゴ・オルシーと、ジュリアが手を組んでいるとは思いもしなかった。
私からしてみれば、面倒な馬鹿二人が手を組む、という最低の状況だ。
ジュリアに呼ばれたディエゴが、壇上へと上がってくる。
その絶妙に整っておらず、生意気な面は久しぶりに見ても、いらっとする。
「アニータ、ふざけるなよ!? 俺というものがありながら、他の男と屋敷で親密にふるまったうえ、エリゼオ王子とも恋仲になるなんて。君だけいい思いをしすぎじゃないか!」
いやいや、言うに事欠いてなにを言うのよ、あなた。
浮気行為を繰り返していたのは、むしろディエゴのほうだ。アニータを飾り妻だと断じて、街で女を引っかけて遊び惚けていたではないか。
それに、私が複数の男をたらしこんで遊んでいたというのも、もちろん幻想だ。
彼の言う「私と親密にしていた男」は、エリゼオのことに違いない。
婚約破棄されて傷心だろう私をからかうため、アイテムショップを訪れたディエゴを、エリゼオが撃退してくれたあの一幕の出来事を、彼は別の男だと勘違いしているのだ。
あの時のエリゼオは身分を隠していたから、別人だと思い込んでいるらしい。
まったく毎度、妙な言いがかりをつけてくるものだ。
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