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三章 サキュバスが帰ると言い出して。
第28話 クラス会!
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五
クラス会の直前になっても、僕はなんとなく釈然としないままでいた。
それでも結愛の主導で、告白へ向けた作戦は立てられていく。つい受け身になっていたら、結愛がしょうがなさそうに問う。
「もう。ご主人様、告白したくないんですか?」
そう聞かれると返事は、
「そんなわけがないよ」になる。
「なら真剣に聞いてください。今日で決めるんですよ」
「うん、そうだね」
イエスかノーかなら、イエス。でも、どうもモヤモヤとして頭は晴れきらなかった。それとは好対照に、結愛はハツラツと僕に作戦を指示する。
「とにかく澄鈴さんにくっついててください。まずはそこからです!」
それは、これまでで一番単純と言っていい、「張り付き作戦」だった。
「雰囲気をよくしておいて、帰り道に告白しましょう。自然と二人きりになれますから」
細かい作戦を詰めて仕込んで、放課後を迎える。
クラスの大勢が塊になって、徒歩で会場となる宝塚駅近くのボーリング場へ向かった。僕は澄鈴の左側を、きっちりとキープする。
「なんなん、二人ともウチの周り固めて。人見知りでもしてるん?」
右側には、なずながいた。
「みっちゃんはそうだろうけど、私は違うよ。私は、すみちゃんが好きだから」
「なっ、なず、そういうこと平気で言うもんやないよ!」
「えー、言っていこう。ハートフルに行こうよ」
女子会じみた雰囲気に尻込みしかけるのだが、
『「僕は澄鈴とハートフルになりたいんだ!」そう言ってください!』
結愛が少し離れたところから念を送ってくるので、
「僕は澄鈴と話がしたかっただけだよ」
なんとか割って入った。
『もう~、なに改変してるんですか! そのまま言えばいいのに!』
さすがに、使えた台詞じゃない。
「そ、そっか、あはは。変わり者やね、光男は。もう毎日話してるやんか!」
澄鈴はなぜか顔を真っ赤にして、冗談言いなや、と僕の頭を数回叩く。力加減に容赦がなく、鈍痛がしたが、それでも僕は彼女の側を離れなかった。
ボウリング場に着くと、まずくじ引きでの、レーンごと四人一組への振り分けがあった。三十人以上の参加者がいたから、澄鈴と一緒になる確率は限りなく低い。
「……あ、光男。ウチと一緒やん」
「えっ、ほんとに?」
半ば無理だと諦めていたら、当たりを引いた。
不幸体質の僕には珍しい幸運だ。もしかして結愛が仕組んだのだろうか、彼女を探すが、たまたま見つからない。
「私も同じ班だよ、二人とも! 元気に玉投げしていこうね!」
あとの二人のうち、なんの偶然か一人はなずなだった。
もう一つは空席で、三人でレーンに入る。僕は先回りして、澄鈴の横の席を奪った。ガールズトークに気合で混じっていると、司会・吉田くんによる開会の挨拶がある。
「今日はたくさんの人にお集まりいただき、ありがとうございます。クラスみんなが仲良くなる場になってほしいなと、俺は心から思ってます」
よく言うよ! 僕をはぶろうとしたくせに!
内心毒づいていると、
「今日はクラス会に、転校生ちゃんの歓迎会も兼ねています。みなさん知ってるとは思いますが、一応この場で、自己紹介してもらいます。甘利さんです!」
結愛が吉田くんと並んで、前方に立っていた。いないと思ったら、そういうことだったらしい。
「甘利結愛です。みなさんのおかげで楽しい学校生活が送れています。改めて、これからよろしくお願い申し上げますね♡」
お決まりのウインクをする。
なんだよ、本当は今日消えるつもりのくせに。
暗い気持ちが訪れる。みんなが拍手をする音が響く中、ただ一人、僕は手を叩けなかった。
開会宣言が終わる。
「俺ここか~、よろしくな」
「うん。よろしくー。ウチ、吉田とまともに喋るん初めてちゃう?」
僕らの班の最後の一人は、なんと吉田くんだった。彼は、僕の方にきっと眉をしかめる。
面倒なことになった。幸運だなんて、これでは口が裂けても言えない。本当は卒倒したくもなったが、投げる順番は、僕が一番手だった。
「光男、頑張りやー!」
「みっちゃん、ファイト~」
「お前投げられんのか? 十ポンドは重いんじゃね? 七ポンドがお似合いだぜ」
舐められたものだ、なら見せつけてやろうじゃないか。
僕は玉に鬱憤を込めて、むんずと放る。
しかしボールはむなしくも、一直線にガーターへ沈んでいった。二度めも同じくガーター。
「しっかりしろよなぁ、ははっ」
第二投者の吉田くんにそう野次られたが、なにも言い返せなかった。
「お疲れ様。下手すぎん?」
澄鈴は口元を手で隠し愉快そうに笑ってから、意地悪にも僕に掌を向ける。その仕草が可愛くて、目を逸らしてから、ぱちんと手を合わせた。
今日告白をすると思えば、これくらいのボディタッチでもドキッとする。
職人然として玉磨きに没頭するなずなに倣って、僕も玉を膝元に置いた。なにか触っているだけで少し落ち着く。
「光男、絶対ボールのせいやないよ。フォーム、ガタガタやったもん」
「うるさいなぁ、数年ぶりだったんだよ」
「もういっそ、膝立ちして手で転がしたらえぇんやない?」
澄鈴とそうこう話しているうち、知らぬ間に吉田くんのターンは終わっていた。結果は、あれだけ人を馬鹿にしたくせにガーター二連発。
「いや、お前もかよ!」
もう五ポンド投げてろよ! しばし吉田くんと口争いをしていると、
「む、難しい! なにこれ、あんな遠いピン倒せるの? というか倒す意味ないよね」
「なず、それ言いだしたらボーリング来る意味なくなるで?」
なずなもガーターを連発して、スコアボードには「G」だけが刻まれる。酷いチームだと思っていたら、澄鈴だけはさすがだった。
「やった~! あははっ、いけるもんやろ?」
軽やかにストライクを奪って見せて、顔を綻ばせる。両手でガッツポーズを決めてはしゃぐ彼女は、天使のように見えた。
「今度こそちゃんと投げや、光男」
いい流れのバトンが、僕に渡された。この波に乗らないわけにはいかない。
しかし、今度は力みすぎたせい、二つ目の「G」を刻んでしまった。またしても吉田くんに嘲笑われる。
次こそは一ピンくらい。僕が必死でボールを拭いていると、
『ムキになってる場合ですか! なずなさんと吉田さんを追っ払ってください!』
結愛からテレパシーで通信がある。怒りのマークまで送られてきた。
そうだった、スコアは別にゼロでもいいのだ。告白という本題を忘れてはいけない。
はたと思い出して僕は、ポケットに忍ばせていた赤色の紙飛行機を取り出す。
対なずな用の秘密兵器として、授業中に結愛がこしらえてくれたのだ。落ちずに、どこまでも飛んでいく魔法がかけてある。
僕はそれを、わざとらしくなずなに見せつけるようにして飛ばす。
「わ、綺麗~!」
子ども騙しな策だったが、それが、なずな相手には的確な効果があるのはグミの道で実証済みだ。狙い通りに、彼女はそれを追って行って、席を離れた。
あとは吉田くんだったが、
「やっぱり難しいな。すみは、どうやって投げてんの。教えて」
「単に放ってるだけやで? うーん、とにかく手首もなにも真っ直ぐ、くらいちゃうかな」
「おぉなるほど。ありがとうな、すみ」
こちらが難敵だった。むしろ僕より親しげに、澄鈴と話し込んでいた。
澄鈴を気安く呼ぶんじゃない。大体、彼女には興味がないはずだ、男っぽくて胸が小さいから。あの悪口は、小学生が好きな子にする意地悪みたいなものだったのか。
だが、そんな事を直接言えるわけではなく、僕は手をこまねく。
「吉田さん。ボーリングの投げ方なら、私がお教えしますよ♪ 澄鈴さんより上手いですし、それから丁寧です」
助け舟は、果たして横から差し出された。
結愛が、空いたなずなの椅子に滑り入るようにやってくる。
「へぇ知らなかった! じゃあ二人に教えてもらおうか」
「いえいえ私だけで十分ですよ♡ その代わり、手取り足取りお教えしますね」
「是非にお願いします!!!!」
たぶん吉田くんは、女子なら誰でもいける口なのだろう。もう結愛に意識が釘付けになっていた。
流れるような素晴らしいフォローだ。
「じゃあ、吉田さん。まずはボールの二本穴に指を、そっと優しく入れてください♪」
それなのに結愛の媚びるような態度を見ていると、なぜか気にくわない思いが先立った。
なんだよ、と苛立つ感じがする。
気のせいに違いない、振り払わんとして僕は首を振る。とにもかくにも、考えるべきは告白だ。
「じゃあウチは光男に投げ方教えたるとするかな。恋人を奪われてご傷心みたいやし」
「……僕らはそういう関係じゃないってば」
「分かってるって。愛のあるいじりやんか! ほらボール持って」
結愛を横目に、僕は僕で澄鈴に一から指導をしてもらった。
おかげさまで少しずつピンを倒せるようになっていって、ラスト一投ではついにストライクを取った。
「やればできるやん!」
澄鈴と、笑顔でハイタッチを交わす。
まるで二人だけの空間にいるような雰囲気だった。もうひと声、というところだったが、そこで邪魔が入った。
「じゃあメンバーシャッフルするんで、もう一回くじ引いてくださーい」
吉田くん曰く、交流を深めるため組み合わせを変えるのだ、と言う。
とことんまで妨害してくれるものである。
今度くじを引くと、
「大外れです。この前のガチャと言い、なんて運が悪いんですか、光男さんは」
結愛と同じチームになった。
澄鈴とは、場内の端と端、一番離れたレーンになる。それも吉田くんと彼女は、また同組だ。仲良さげに喋っているのが遠目にもうかがえた。
「大丈夫ですよ。不安にならないでください。告白できればいいんです。まだ手はありますよ」
不安になって然るべきだろう状況だ。
けれど僕はそれどころか、むしろ不思議なほどに落ち着いてしまっていた。
この悪魔が隣で、ふふんと胸を張っていることに。
もう告白は明日以降でもいいんじゃない、喉まで出かかるが、なんとか飲み下す。昨日の今日では、そんな無責任なことは言えない。
「うん、不安じゃないよ」
「そうですか。まぁなんせ私がついてますからね♪ 悪魔の手、最後にいくらでもお貸しします」
「猫の手みたいに言うなよ」
「怒られたにゃん♡」
結愛と、なんてことのないやりとりをする。
これもラストかなんて感慨のようなものに耽っていると、時間はなぜかあっという間に過ぎていって、ボーリング会はお開きになった。
告白をする心の準備は、到底できていなかった。
予定になかった公園での二次会に参加しつつ、僕は少しでも先延ばしにできたことにほっとする。
そう思うのは、僕がこの期に及んで、告白する踏ん切りがついていないからなのだろうか。それとも──
「鬼ごっこでもしようよ。男子は競歩ね」
「無理すぎじゃんかよそれ。でも鬼ごっこはいいじゃん、楽しそうだな」
もうすっかり空は暗くなっていた。
夜というのは無意味に気持ちが昂るものなのだろう。クラスメイトたちは、広い園内を駆け出す。
僕もそれに混じって走った。一歩一歩に力を込める。鬼役から逃げるためというより、告白への覚悟を決めるためだ。足下ばかりに目を落としていて、あまりに周りを意識しなさすぎた。横から不意に肩を叩かれる。
「もしかして鬼!?」
「なに遊びに本気になってるんですか。私は悪鬼じゃなくて悪魔です」
振り見ると、結愛がいた。
僕は少しだけ流れてしまってから、足を止める。
「ご主人様、大事なお話があります。もう時間がありません」
結愛は、冗談の一つ挟む余地を与えない口ぶりで眉を寄せていた。
僕ははっとして、彼女と正対した。
クラス会の直前になっても、僕はなんとなく釈然としないままでいた。
それでも結愛の主導で、告白へ向けた作戦は立てられていく。つい受け身になっていたら、結愛がしょうがなさそうに問う。
「もう。ご主人様、告白したくないんですか?」
そう聞かれると返事は、
「そんなわけがないよ」になる。
「なら真剣に聞いてください。今日で決めるんですよ」
「うん、そうだね」
イエスかノーかなら、イエス。でも、どうもモヤモヤとして頭は晴れきらなかった。それとは好対照に、結愛はハツラツと僕に作戦を指示する。
「とにかく澄鈴さんにくっついててください。まずはそこからです!」
それは、これまでで一番単純と言っていい、「張り付き作戦」だった。
「雰囲気をよくしておいて、帰り道に告白しましょう。自然と二人きりになれますから」
細かい作戦を詰めて仕込んで、放課後を迎える。
クラスの大勢が塊になって、徒歩で会場となる宝塚駅近くのボーリング場へ向かった。僕は澄鈴の左側を、きっちりとキープする。
「なんなん、二人ともウチの周り固めて。人見知りでもしてるん?」
右側には、なずながいた。
「みっちゃんはそうだろうけど、私は違うよ。私は、すみちゃんが好きだから」
「なっ、なず、そういうこと平気で言うもんやないよ!」
「えー、言っていこう。ハートフルに行こうよ」
女子会じみた雰囲気に尻込みしかけるのだが、
『「僕は澄鈴とハートフルになりたいんだ!」そう言ってください!』
結愛が少し離れたところから念を送ってくるので、
「僕は澄鈴と話がしたかっただけだよ」
なんとか割って入った。
『もう~、なに改変してるんですか! そのまま言えばいいのに!』
さすがに、使えた台詞じゃない。
「そ、そっか、あはは。変わり者やね、光男は。もう毎日話してるやんか!」
澄鈴はなぜか顔を真っ赤にして、冗談言いなや、と僕の頭を数回叩く。力加減に容赦がなく、鈍痛がしたが、それでも僕は彼女の側を離れなかった。
ボウリング場に着くと、まずくじ引きでの、レーンごと四人一組への振り分けがあった。三十人以上の参加者がいたから、澄鈴と一緒になる確率は限りなく低い。
「……あ、光男。ウチと一緒やん」
「えっ、ほんとに?」
半ば無理だと諦めていたら、当たりを引いた。
不幸体質の僕には珍しい幸運だ。もしかして結愛が仕組んだのだろうか、彼女を探すが、たまたま見つからない。
「私も同じ班だよ、二人とも! 元気に玉投げしていこうね!」
あとの二人のうち、なんの偶然か一人はなずなだった。
もう一つは空席で、三人でレーンに入る。僕は先回りして、澄鈴の横の席を奪った。ガールズトークに気合で混じっていると、司会・吉田くんによる開会の挨拶がある。
「今日はたくさんの人にお集まりいただき、ありがとうございます。クラスみんなが仲良くなる場になってほしいなと、俺は心から思ってます」
よく言うよ! 僕をはぶろうとしたくせに!
内心毒づいていると、
「今日はクラス会に、転校生ちゃんの歓迎会も兼ねています。みなさん知ってるとは思いますが、一応この場で、自己紹介してもらいます。甘利さんです!」
結愛が吉田くんと並んで、前方に立っていた。いないと思ったら、そういうことだったらしい。
「甘利結愛です。みなさんのおかげで楽しい学校生活が送れています。改めて、これからよろしくお願い申し上げますね♡」
お決まりのウインクをする。
なんだよ、本当は今日消えるつもりのくせに。
暗い気持ちが訪れる。みんなが拍手をする音が響く中、ただ一人、僕は手を叩けなかった。
開会宣言が終わる。
「俺ここか~、よろしくな」
「うん。よろしくー。ウチ、吉田とまともに喋るん初めてちゃう?」
僕らの班の最後の一人は、なんと吉田くんだった。彼は、僕の方にきっと眉をしかめる。
面倒なことになった。幸運だなんて、これでは口が裂けても言えない。本当は卒倒したくもなったが、投げる順番は、僕が一番手だった。
「光男、頑張りやー!」
「みっちゃん、ファイト~」
「お前投げられんのか? 十ポンドは重いんじゃね? 七ポンドがお似合いだぜ」
舐められたものだ、なら見せつけてやろうじゃないか。
僕は玉に鬱憤を込めて、むんずと放る。
しかしボールはむなしくも、一直線にガーターへ沈んでいった。二度めも同じくガーター。
「しっかりしろよなぁ、ははっ」
第二投者の吉田くんにそう野次られたが、なにも言い返せなかった。
「お疲れ様。下手すぎん?」
澄鈴は口元を手で隠し愉快そうに笑ってから、意地悪にも僕に掌を向ける。その仕草が可愛くて、目を逸らしてから、ぱちんと手を合わせた。
今日告白をすると思えば、これくらいのボディタッチでもドキッとする。
職人然として玉磨きに没頭するなずなに倣って、僕も玉を膝元に置いた。なにか触っているだけで少し落ち着く。
「光男、絶対ボールのせいやないよ。フォーム、ガタガタやったもん」
「うるさいなぁ、数年ぶりだったんだよ」
「もういっそ、膝立ちして手で転がしたらえぇんやない?」
澄鈴とそうこう話しているうち、知らぬ間に吉田くんのターンは終わっていた。結果は、あれだけ人を馬鹿にしたくせにガーター二連発。
「いや、お前もかよ!」
もう五ポンド投げてろよ! しばし吉田くんと口争いをしていると、
「む、難しい! なにこれ、あんな遠いピン倒せるの? というか倒す意味ないよね」
「なず、それ言いだしたらボーリング来る意味なくなるで?」
なずなもガーターを連発して、スコアボードには「G」だけが刻まれる。酷いチームだと思っていたら、澄鈴だけはさすがだった。
「やった~! あははっ、いけるもんやろ?」
軽やかにストライクを奪って見せて、顔を綻ばせる。両手でガッツポーズを決めてはしゃぐ彼女は、天使のように見えた。
「今度こそちゃんと投げや、光男」
いい流れのバトンが、僕に渡された。この波に乗らないわけにはいかない。
しかし、今度は力みすぎたせい、二つ目の「G」を刻んでしまった。またしても吉田くんに嘲笑われる。
次こそは一ピンくらい。僕が必死でボールを拭いていると、
『ムキになってる場合ですか! なずなさんと吉田さんを追っ払ってください!』
結愛からテレパシーで通信がある。怒りのマークまで送られてきた。
そうだった、スコアは別にゼロでもいいのだ。告白という本題を忘れてはいけない。
はたと思い出して僕は、ポケットに忍ばせていた赤色の紙飛行機を取り出す。
対なずな用の秘密兵器として、授業中に結愛がこしらえてくれたのだ。落ちずに、どこまでも飛んでいく魔法がかけてある。
僕はそれを、わざとらしくなずなに見せつけるようにして飛ばす。
「わ、綺麗~!」
子ども騙しな策だったが、それが、なずな相手には的確な効果があるのはグミの道で実証済みだ。狙い通りに、彼女はそれを追って行って、席を離れた。
あとは吉田くんだったが、
「やっぱり難しいな。すみは、どうやって投げてんの。教えて」
「単に放ってるだけやで? うーん、とにかく手首もなにも真っ直ぐ、くらいちゃうかな」
「おぉなるほど。ありがとうな、すみ」
こちらが難敵だった。むしろ僕より親しげに、澄鈴と話し込んでいた。
澄鈴を気安く呼ぶんじゃない。大体、彼女には興味がないはずだ、男っぽくて胸が小さいから。あの悪口は、小学生が好きな子にする意地悪みたいなものだったのか。
だが、そんな事を直接言えるわけではなく、僕は手をこまねく。
「吉田さん。ボーリングの投げ方なら、私がお教えしますよ♪ 澄鈴さんより上手いですし、それから丁寧です」
助け舟は、果たして横から差し出された。
結愛が、空いたなずなの椅子に滑り入るようにやってくる。
「へぇ知らなかった! じゃあ二人に教えてもらおうか」
「いえいえ私だけで十分ですよ♡ その代わり、手取り足取りお教えしますね」
「是非にお願いします!!!!」
たぶん吉田くんは、女子なら誰でもいける口なのだろう。もう結愛に意識が釘付けになっていた。
流れるような素晴らしいフォローだ。
「じゃあ、吉田さん。まずはボールの二本穴に指を、そっと優しく入れてください♪」
それなのに結愛の媚びるような態度を見ていると、なぜか気にくわない思いが先立った。
なんだよ、と苛立つ感じがする。
気のせいに違いない、振り払わんとして僕は首を振る。とにもかくにも、考えるべきは告白だ。
「じゃあウチは光男に投げ方教えたるとするかな。恋人を奪われてご傷心みたいやし」
「……僕らはそういう関係じゃないってば」
「分かってるって。愛のあるいじりやんか! ほらボール持って」
結愛を横目に、僕は僕で澄鈴に一から指導をしてもらった。
おかげさまで少しずつピンを倒せるようになっていって、ラスト一投ではついにストライクを取った。
「やればできるやん!」
澄鈴と、笑顔でハイタッチを交わす。
まるで二人だけの空間にいるような雰囲気だった。もうひと声、というところだったが、そこで邪魔が入った。
「じゃあメンバーシャッフルするんで、もう一回くじ引いてくださーい」
吉田くん曰く、交流を深めるため組み合わせを変えるのだ、と言う。
とことんまで妨害してくれるものである。
今度くじを引くと、
「大外れです。この前のガチャと言い、なんて運が悪いんですか、光男さんは」
結愛と同じチームになった。
澄鈴とは、場内の端と端、一番離れたレーンになる。それも吉田くんと彼女は、また同組だ。仲良さげに喋っているのが遠目にもうかがえた。
「大丈夫ですよ。不安にならないでください。告白できればいいんです。まだ手はありますよ」
不安になって然るべきだろう状況だ。
けれど僕はそれどころか、むしろ不思議なほどに落ち着いてしまっていた。
この悪魔が隣で、ふふんと胸を張っていることに。
もう告白は明日以降でもいいんじゃない、喉まで出かかるが、なんとか飲み下す。昨日の今日では、そんな無責任なことは言えない。
「うん、不安じゃないよ」
「そうですか。まぁなんせ私がついてますからね♪ 悪魔の手、最後にいくらでもお貸しします」
「猫の手みたいに言うなよ」
「怒られたにゃん♡」
結愛と、なんてことのないやりとりをする。
これもラストかなんて感慨のようなものに耽っていると、時間はなぜかあっという間に過ぎていって、ボーリング会はお開きになった。
告白をする心の準備は、到底できていなかった。
予定になかった公園での二次会に参加しつつ、僕は少しでも先延ばしにできたことにほっとする。
そう思うのは、僕がこの期に及んで、告白する踏ん切りがついていないからなのだろうか。それとも──
「鬼ごっこでもしようよ。男子は競歩ね」
「無理すぎじゃんかよそれ。でも鬼ごっこはいいじゃん、楽しそうだな」
もうすっかり空は暗くなっていた。
夜というのは無意味に気持ちが昂るものなのだろう。クラスメイトたちは、広い園内を駆け出す。
僕もそれに混じって走った。一歩一歩に力を込める。鬼役から逃げるためというより、告白への覚悟を決めるためだ。足下ばかりに目を落としていて、あまりに周りを意識しなさすぎた。横から不意に肩を叩かれる。
「もしかして鬼!?」
「なに遊びに本気になってるんですか。私は悪鬼じゃなくて悪魔です」
振り見ると、結愛がいた。
僕は少しだけ流れてしまってから、足を止める。
「ご主人様、大事なお話があります。もう時間がありません」
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聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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