【完結保証】幼なじみに恋する僕のもとに現れたサキュバスが、死の宣告とともに、僕に色仕掛けをしてくるんだが!?

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】

文字の大きさ
37 / 40
四章 ゲームから出てきたサキュバスのために

第31話 バイト!②

しおりを挟む
「どこに行くんですか、ご主人様」
「秘密だよ」
「もしかして、あのネオン輝くお城でお泊まりですか!」
「いや、あれそんないい場所じゃないから。ラブホ……いや、大人の遊技場だから」

時にひっつかれながら、夜道を歩く。
なにも伝えないまま県道沿いを歩いて僕が彼女を連れて行ったのは、街でも名の知れたラーメン屋だった。

「い、いいんですか! こんな贅沢!」
「大丈夫じゃないかな、僕たちちゃんと働いたしね」

労働量に比べれば、一杯七百円は決して高くない。それにこの店は、麺は無料で三倍マシにでき、かつ野菜はどんぶりをひっくり返したように山盛りなのがテンプレートなのだ。この大食らい悪魔には、まさにおあつらえ向きだった。
ラーメンがテーブルに置かれると、結愛の瞳に星が煌めく。彼女は惚れ惚れした表情で、スープにレンゲを入れた。

「そういえばさ、なんでそんなにラーメン好きだったの?」

もしかしてゲームの世界にもラーメンがあるのだろうか。

「ご主人様が食べてたからですよ」
「え、僕が?」
「えぇ、あんまりに毎日食べてるので、どんな味なのかなってずっと気になってたんです。それで食べてみたら、もう大当たりでした♡」

結愛はこれだけ話す間にも、結構食べ進めていた。僕も、まずは麺を覆う山盛りのもやしに手をつけ始める。
食の趣味さえ僕の影響だったら、結愛が「僕だけが私の世界」と言ったのは、あながち比喩でもなかったのかもしれない。
本当は直接色々なものを見せてやりたいところだけれど、あと三日じゃ足りない。でもできるだけなにかと考えて、ひとつ思い当たった。

十時、家に帰り着いた僕は結愛と一緒に庭へ出る。
まず僕は、バケツを用意した。それから、ろうそくに火をつけようと悪戦苦闘していたら

「なにをするんですか、実験ですか」

結愛は不思議そうながらも、妖精を召喚し、火を灯してくれた。

「これをしようと思ったんだ」

僕は、ベッド下から掘り起こしてきた花火セットを得意になって見せる。ただ何年ものかさえ分からないから、湿気ていないか心配だった。

「よかった~。僕の部屋、乾燥してるのかな」

けれど火にかざすと、無事に七色の光が先端からはじけ出す。

「花火って結構勢いあるものなんですね」

結愛は若干怯え気味だった。僕の腰に右腕をがしっと絡ませる。
しかしその割に空いた左手はそっと僕のシャツの中に這うように忍び込んできて、

「そ、そういうのはいいって! わざとだろ?」
「むぅ、ばれてましたか」
「もうお見通しだって!」
「そうですか。でも見通されたって悪魔には関係ありません♪ 存分に楽しんじゃいますよ」
「花火を楽しむっていうのはどうかな? ねぇ!」

せっかく、夏を先取りしたのに。
しかし、結愛は攻め手を緩めない。爪が僕の敏感な場所、要は二つの突起物をくいっと掻く。
「はうっ」拍子、手が滑った。
花火が火の粉を振り撒きながら、落ちる。それは纏めて置いてあった花火の束の上へ、ぽとりと。
庭の一角、バチバチッと火花が派手な音と見た目で散り始めた。それは命の危険を覚えるほどで。

「ご、ご、ご主人様! 火事です、火事です! 火災が発生しました!」

少なくとも火災報知器になっている場合ではない。消化活動をしなくては。

「馬鹿なことしてるからじゃないか! とにかく、水!!」
「み、み、水ですね! み、み、水の妖精さん呼びますね!」

二文字重ねつつも、結愛は詠唱を唱えて妖精を呼び出す。
しかし、どうも妖精の調子が悪いようで、その放水量は少なすぎて効果をなさなかった。むしろ無闇に煙が起こって、二人咳き込む。

「結愛、水いっぱいに汲んできて!」
「は、はい!」

結愛が風呂場へと駆けていく中、僕は踏みつけるというもっとも原始的な方法で火消しにかかった。
しかし努力はむなしく、ついにロケット花火にまで引火して、僕の家の庭は火の海状態になった。
本能寺を燃やされる信長の気分になっていたら、そのもくもくと上がった煙が呼び寄せたのだろう。

「なにしてるん、光男」

澄鈴が隣の家の二階、窓から上半身を乗り出してこちらを覗き込む。

「す、澄鈴助けて!!」

昨日、置きざりにしてしまった気まずさも忘れて僕は叫んでいた。

「ほんましゃあないなぁ、あんたは」

見捨てられたのか、窓が閉められる。
そのすぐ後、結愛がバケツの水を一帯に掛けたことで、ぼや騒ぎは片づいた。結愛と二人、安堵のため息をついていると、家のチャイムが鳴る。
庭から玄関口へ出ていくと、

「なんや、もう終わったみたいやね」

寝巻き姿の澄鈴がそこにいた。

「うん、今さっきね。ごめん、急に呼んじゃったからびっくりしたよね」

僕は、まだ煙たい庭に彼女を通す。焦げくさ、と彼女は少し鼻を押さえていた。
僕らは縁側に座る。結愛は空気を読んだのか、部屋に引っ込んだようだった。丁寧なことに、お茶まで二つ用意してくれたらしい。

「花火してたんや?」
「あぁ、うん、まぁ。在庫処分しようと思ってさ」
「ふーん、二人でなんて仲えぇね」

澄鈴がつんとそっぽを向く。
だが、これしきでへたってはいられない。僕はお茶を一気に飲み干して、コップを床にトンと叩く。

「昨日は置いて行っちゃってごめんね。取り乱して、僕どうかしてたよ。本当ごめん」

自ら昨日のことを切り出した。
澄鈴は、はっとしたように表情を一瞬陰らせてから、あははと笑う。

「えぇよ、もう大丈夫なん? 泣いてたけど」
「うん、もう平気だよ」
「そ、ならよかった。ほんま昨日はびっくりしたわぁ。けど、考えてみたらウチもどうかしてたな」
「澄鈴もなにかあったの?」
「なんか光男が格好よく見えてさぁ。変な期待してもうた」
「え?」
「わ、分からへんならえぇよ、なんもない! あんたは今日みたいに、情けなーくウチに助け求めるくらい可愛い方が似合ってるしね!」

澄鈴の手が僕の頭に伸びて、わしゃわしゃと撫でられる。
これくらいで「男として意識されてない」なんて、くよくよしていたのが懐かしい。つい二週間前とは思えない。
僕は澄鈴の手をそっと下ろす。その少し尖った目を真摯に見つめて

「僕さ、澄鈴に伝えたいことがあるんだ。月曜日の六時、駅前の河川敷に来てくれないかな」

はっきりと告げた。
澄鈴はもじもじとして、少し間をあけてから、

「……今度は急に走り出したりせん?」
「うん、しないさ」
「…………ならまぁうん、分かった」
「ありがとう。……あー、えーっと」

思い切りよく申し出たくせに、約束を取り付けたら、急に照れ臭くなってきた。

「お茶下げてアイスでも持ってくるよ」

僕は気の利いた風な口実を作って、家に上がる。
心を落ち着かせて、もう一度と向かうと、見ぬうちに結愛が庭に出ていた。
鍵に手をかけたところで、
『今、女子だけの内緒話をしてますので、後で来てください。済んだらお伝えしますので』
結愛から思念が飛んできた。
それを邪魔できるほど、僕の性根が座っていたら、とうに話は済んでいる。結愛が現実にくるまでもなかっただろう。
リビングでテレビでも見ていることにする。しかし長めのCMを二回挟んでも、お呼びはかからなかった。
さすがに遅いなと確認に行くと、二人の手には、さっきのボヤの生き残りだろう線香花火が握られている。

「負けへんよ、ウチうまいんやから!」
「私だって得意中の得意です!」

また、しょうもない競り合いに興じていた。

「光男、邪魔したら殴る!」
「ご主人様、近寄らないでください!」

当たり強くない? 二人とも実は仲良いんじゃなかろうか。
触らぬ神に祟りなしと言う。僕が遠巻きに見ていると、軍配が上がったのは結愛だった。二回戦は僕も加わる。
澄鈴が早々にレースから外れ、僕と結愛の一騎討ちになった。じりじりと音を立て膨れていくオレンジの玉を見つめるのだが、その先、結愛の顔にピントが合う。
不意のことにどきりとして、僕は火を落としてしまった。

「また私の勝ちですね♪ お二人とも弱いですよ」

結愛はあどけなく笑って、次の一本を差し出してくる。
彼女のためと思ったけれど、僕も焼き付けておかねばならない。彼女と過ごせる時間は、残り限られている。
そして僕から彼女への想いも、それまでには、はっきりさせねばなるまい。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

追放された宮廷薬師、科学の力で不毛の地を救い、聡明な第二王子に溺愛される

希羽
ファンタジー
王国の土地が「灰色枯病」に蝕まれる中、若干25歳で宮廷薬師長に就任したばかりの天才リンは、その原因が「神の祟り」ではなく「土壌疲弊」であるという科学的真実を突き止める。しかし、錬金術による安易な「奇跡」にすがりたい国王と、彼女を妬む者たちの陰謀によって、リンは国を侮辱した反逆者の濡れ衣を着せられ、最も不毛な土地「灰の地」へ追放されてしまう。 ​すべてを奪われた彼女に残されたのは、膨大な科学知識だけだった。絶望の地で、リンは化学、物理学、植物学を駆使して生存基盤を確立し、やがて同じく見捨てられた者たちと共に、豊かな共同体「聖域」をゼロから築き上げていく。 ​その様子を影から見守り、心を痛めていたのは、第二王子アルジェント。宮廷で唯一リンの価値を理解しながらも、彼女の追放を止められなかった無力な王子だった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...