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二章
第25話 隣国王子の過保護な指導
しおりを挟む打ち解けるどころか、逆効果だったのでは……? と、私が疑い出した頃、彼がいきなり剣を抜いて、私は立ち止まった。
「なにかいたんですか?」
「まぁそのようなものだ。少し離れていろ」
彼がこちらをちらりと見るので、私は数歩後ろへと引き下がる。
それを確認してからルベルトは地面へと剣を強く振り下ろした。すると、細い糸のようなものがたわんで、日の光にわずかに反射する。
どうみたって、自然に発生するようなものではない。
「もしかして、罠……」
「あぁ、そのようだな。もしかすると、俺の命を狙う輩かもしれない。情報がどこからか抜けていたのだろう」
普段、何気なく接しているとたまに忘れかけてしまうが、ルベルトは、ミュラ王国の第三王子だ。
誰かに狙われることがあってもまったくおかしくはない。それこそ、あの悪い噂だって、そういう政治的な意図があって誰かが流しているなんてことは往々にしてあるし、貴族の世界なんて華やかに見えて、そんなものだ。
それは経験済みだったから、私がすんなり受け入れていたら、
「……怖がらないのだな」
剣をしまいながら、疑いの目が向けられる。
「えっと、それくらいはあるのかなと思ってましたから。でも、誰かに先回りされているということ?」
「その可能性もないとは言えないだけだ。俺がここに来るという情報を誰かが手に入れている可能性は十分ある。そういう世界だ。……ただ、単に魔物を捕える目的の罠だった可能性もあるからなんとも言い難いな」
「それにしても、人が通る道なのだから悪質ですね」
「……あぁ。冒険者ギルドには一応、報告を入れておく」
そこからはより慎重に、罠などを警戒しながら先へと進む。
ルベルトはかなり用心深かった。常に剣を抜いた状態で、私の前を歩く。
おかげで魔物などが少し現れようものなら、すぐに退治してしまう。そもそも彼は、魔物への殺意が異様なまでに強いのだ。
一応、魔法を使えるようになったこともあった。
戦うこともあるかと思って、魔力を伝導するナイフを買って、腰に忍ばせてきたのだが、いらなかったかもしれない。
そう思うほどだったが、途中で彼が剣をしまいながら私に聞く。
「……アスタも戦うか?」
「私がですか」
「少しなら俺も教えられる。自分を守れるくらいの力は持っておいたほうが身のためだ」
まぁたしかにそうだ。魔法を使えるようになったとはいえ、まだ戦闘に使ったことはない。
魔物の類から得ることのできる薬の原料もあるし、今後は一人で薬草採取にも出たい。
そういう意味では、魔物との戦闘は経験してみたかった。
「ぜひ、お願いいたします。ただ、なにぶんまともに戦ったことがないのですが」
「そういうことなら、弱い魔物から倒せばいい。水の刃を飛ばす練習からしようか。……ちょうど、よさそうなのがきたな」
ルベルトは気配を察知していたらしい。
彼がそう言ったすぐあと、少し先の草むらが揺れる。
そこから飛び出してきたのは、魔鹿だ。
かなりのスピードでもって、一目散にこちらへと駆けてくる。
たしかに、いつか見た魔猪よりは弱そうでこそあれ、その角の鋭さはなかなかの迫力があった。
「そのナイフ、魔力を伝導するものだな。構えるんだ」
私はその指示を受けてナイフを抜くと、右手で体の前に構える。
「硬い。肩の力を抜いて、いつもどおりに魔力を生成していけばいい」
すぐになされたルベルトのアドバイスは、やはり的確だ。
はじめての実戦だ、たしかに全身に力が入っていた。
私は大きく息を吐き、いつものルーティンで、今回は水の魔力を手のひらに伝える。
すると、どうだ。
ナイフが柄から刃にかけてほんのりと光を帯びていき、水の波動を纏うようになる。
その感覚は、これまでにない物だった。そして、安定させるのがまた難しい。
私がそれに気を取られていたら、
「え」
魔鹿のほうは、いつのまにかすぐ手前まで来ていた。
角をこちらに向けて、一直線に飛び込んでこようとする。
私はとにかくナイフを前に構えて、それに応じようとするのだけれど……
それまで猛烈な勢いで突っ込んできていた魔鹿の動きが、どういうわけか、私の構えるナイフの手前で止まった。それも、ぴたりとだ。
私の発する魔力がそうさせた――わけでは、もちろんない。
もはや横を見なくとも分かるくらいの、圧を隣からひしひしと感じる。
要するにルベルトの圧倒的な威圧感が、そうさせているのだ。
魔物が本能的な恐怖を覚えるほどだから、かなりのものである。
私は元王妃として、こういった圧には慣れているから大丈夫だが、すぐ近くに彼のことを何も知らない人間がいたら、間違いなく泣きながら逃げているところだろう。
「アスタ、今ならやれる。目標に向かってナイフを振り付けるときに、一瞬だけ力を込めるイメージだ」
彼がぼそりと言う。
そりゃあ、倒すことはできるだろうけども。
これで倒すことができても、意味があるのやらないのやら。このままでは的当てと変わらない気がする。
ただまぁ、練習くらいにはなる。
私は魔鹿から少し距離をとり、少し腰を屈めるとナイフを振る。すると、水の刃はあらぬ方向に飛んでいってしまうが、何度かやっていると、綺麗に魔鹿の身体にヒットする。
何度か当てると、魔鹿はその場でぐったりと倒れた。
「その調子だ。この分ならかなりうまくなる」
と、ルベルトは言うが、完全に彼のおかげでしかない初討伐だった。
鹿の角も薬の原料になるから、角だけはしっかりと剥ぎ取って、私たちは先に進む。
そこからの道中も、弱い魔物が出るたび、私はルベルトの見守りのもと、戦闘を繰り返した。
そのなかで、最初よりはややましに魔法を扱えるようになり、間合いも掴んできたところで、私たちは目的地としていた川辺についていた。
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