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三章

第41話 元王妃、新たな得意先ができる

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「あっはは、早まりすぎでございますよ。さすがに冗談でございます。そうだなぁ……では、こういうのはいかがでしょう。ギルド認可前の薬を、私に流してはもらえませんか」
「……なぜ、そのようなことを?」
「それは秘密ですよ。ただ、確実にそうした薬が売れる筋なら知っています。そこでは、認可前の薬は、通常の十倍以上の値で取引ができる。半分、いや三割、我々にくだされば十分です。これならいかがでしょう」

ミヒャエルは私を見定めるように、少し机から身を乗り出すと、抑揚をつけた声で、こう持ち掛けてくる。

それに対して、私は目を瞑り、一つ息を吐いた。
得られる利益を考えれば、かなりのものになる話だ。

公に売るのはダメだが、個別の製薬と販売自体は禁止されていない。
私としてはミヒャエルだけに売ったという体をとれば、合法性は保たれる。

そして、この口ぶりなら、実際にそういうふうに薬を流している薬師もいるのだろう。
場合によっては、薬一つを作っただけで、豪邸が建つ可能性さえあるのだから不思議なことじゃないし、理由も分かる。

だが、それでも。

「そうした黒い取引をするつもりは毛頭ありません」

私はきっぱりと断りを入れる。

そうした危ない轍を踏むつもりは全くない。薬が人を殺すことも十分にあるのだ。そういう世界に足を突っ込むつもりはない。

そもそも金額面だって魅力を一つも感じなかった。
私はたくさん稼ぎたいわけでも、富裕層貴族のように、毎日を遊び惚けて暮らしたいわけでもない。

狭くても、薬の研究ができる場所があれば、それでいい。

「こちらから申し出た話ですが、この話はなかったことにさせてください」

私はきっぱりとこう言い残して、席を立つ。
そのまま部屋を出ようとしたところで、ぱちぱちと。聞こえてきたのは、まならな拍手だ。

私はなにをされたのかそこで理解をして、取引相手の前だというのに、ついついため息を一つ。うしろを振り向く。

「なんのつもりですか」
「分かっていたのではないですか」
「……少しだけは」

もしかすると試されているかもしれない。
その可能性は、頭の片隅では考えていた。

ただなにが嘘で、なにが真意か。彼の場合は、なにもかもそのたびに警戒しなくてはならない。

本当に言っている可能性もある。
そんなふうにも思っていたが、今回は違ったらしい。

「よく私はうさんくさいと言われるんですがねぇ。むしろ、商売は公正にやるべきだと思っている人間だ。世間にいい顔をして、裏で大金をせしめている連中よりはよほどね。あなたのその姿勢、実に素晴らしい。うん。ブラウエルモント魔石については、差し上げましょう」
「……差し上げる? 高いのではないのですか」
「そうですよ。一つで二十枚ほど金貨がいる、高級なものです。ですが、あなたにならば、それくらい渡してもいい。そう思えたのです」

彼は実に満足そうに、ふふふ、と一人で笑う。

「では、対価として、あくまでも他の業者とフェな条件で、あなたの薬の仕入れをさせていただくのは構いませんか?」

たぶん、これは本音だ。特別な利益を得られずとも、私と取引をしてもいい。そんなふうに思ってくれたのだろう

そういうことなら、と私は一つ頷く。

「えぇ、もちろん。逆に、こちらからも原料などの仕入れをさせていただきたいのですが、構いませんか? プレミアムはなしで」

そしてこう切り返せば、大笑いしたあとに、

「プレミアムなしは無理難題、商売あがったりですが、まぁ割引くらいはしてもいいでしょう」

一応は首を縦に振ってくれた。

それから、私はブラウエルモント魔石を彼から受け取る。

同時に、毒の原因となったデアローテモントを扱っていたという別の商会の話についても、教えてくれた。
そこ以外はほとんど取り扱っていないそうだから、もしかしたら犯人の特定にもつなげられるかもしれない。

味方にすれば、これほど心強いことはないのが、ミヒャエルであり、カーター商会のようだ。

ただしその旗に掲げる猫同様に、気まぐれがすぎるのだが。
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