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四章

第52話 灰色の景色

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そうして剣呑な雰囲気のうちに事前の顔合わせが終わってすぐ。
私たちは、王城のすぐ脇にある来賓用の屋敷へと案内された。

隣国の王子ご一行ともあらば、最高級の歓待だ。

いくつかある屋敷の中でも、もっとも大きく立派な一棟に通されて、使用人などの従者たちにも一人一人に部屋が割り当てられていた。

夕食までの時間、私はそこで薬の材料類の整理を行う。

そうしていたら、同じ馬車に乗っていた従者の方からお呼びがかかった。
彼女についていけば、通されたのは立派な食堂の前だ。

昔ここに来たことがあるから、扉を開けずとも、ここが自分にとって場違いだと分かる。

「あの、私もここでいいのですか? 私、ただの薬師なのですが」
「はい。ルベルト様がそうしてくれ、と言ってますから。本当、隅に置けないですね」
「え」

なにが言いたいのだろう。
私が彼女のほうを見ていたら、扉が開けられる。

すると、そこに待っていたのはかなり豪奢な食事だ。

すでにテーブルの上には、料理の乗った皿がいくつも並べられている。
それを挟むようにして、ルベルトとデアーグが待ち受けていた。


「あの、私もここでいいのですか」

後ろの扉が締まってから、私は戸惑いながらに問う。

「早く座るといい。食事が冷める」
「そーそ。まぁ早く座ってくれよ。もうお腹空いちゃってさぁ」

返事にはなっていない気がしたが、そう言われたら、変に遠慮をしてもしょうがない。

私はルベルトの横、すでに食器などが置かれた席へと座る。
控えていた従者にグラスへ食前酒を注いでもらい、それを私が手にしたら、

「じゃあ、とりあえず無事の到着を祝して乾杯!!」

すぐにデアーグがこう声をあげて、杯を突き出してきた。

どうやら、待ちきれなかったらしい。
彼はその場で一気に酒を飲み切って、快哉を上げる。

「いやぁ、やっと地上で飯が食える! 酒も飲める! 幸せすぎる」
「……お前の幸せは簡単だな」
「それくらいで生きてる方が楽ですから。あ、もう一杯お願い! 白で!」

相変わらず、主従関係があるんだかないんだか、分からないようなやりとりだ。
私は苦笑しながらも、とりあえずワインに口をつける。

すると、これがなかなか美味しい。
フルーティーで甘みがあるが、キレがあって、後味がすっきりとしている。

そして、懐かしさも感じる。

「美味しい」

と思わずこぼせば、ルベルトも横で口をつけて、一つ首を縦に振った。

「そうだな。酒の名産地を抱えているだけはある。なかなかいいものだ」
「じゃあこれって」
「あぁ、オルセン王国産の酒だ。せっかくだから料理も、オルセン王国の郷土料理を作ってもらうように依頼をしてある」

そう言われて見てみれば、机の上にあるのは、見慣れた料理が多かった。

ミュラとオルセンは、国境付近こそ食文化なども似ているが、ミュラは四季がはっきりしていて、逆にオルセンは基本的に温かい時期が多いなど、異なる部分もある。

こうしてみれば、使われている食材も結構違うらしい。

そして、かなりの豪華ぶりだ。
前菜一つとっても、盛りつけからなにから、細部までかなりのこだわりを感じられる。

王妃だった頃でも、ここまでしっかりした食事をとる機会はそうなかった。

「あの、私はここにいてもいいのでしょうか」

場違いすぎる気がして、私は呟く。
それに対して彼は目を瞑りながら酒を飲んでから、

「構わないと言っている」

グラスを揺らしながらに言う。

「それに、この間はフィーネのところで食事をしたのだろう」
「え。どうしてそれを」
「フィーネが手紙をよこした。アスタと食事をした、と。そのときには、かなりのおもてなしをしたと言っていた」

そんな手紙が交わされていたなんて、知る由もない。
というか、それが今どういう関係があるのだろう。

私はつながりが理解できず顔をしかめて少し、気づいた。

……もしかするとこれも、負けず嫌いの一環なのかもしれない。


フィーネよりいい料理を振る舞いたい、みたいな。

普通なら、そんな発想にはならないと思うが、こと彼に限ってはありえないことではないとも思う。

そんなルベルトの意図を考えれば、一気に気が軽くなった。

「当日は、出席させてやれないからな。今、楽しんでおくといい」
「では、そうさせてもらいます」

「あぁ。今頃、他の使用人たちにも同等のものを提供させている。今日は、顔合わせで不快な思いをさせた詫びもあるからな。気兼ねすることはない。」
「あぁ、あの件ですか。なかなかいい切り返しでしたね」
「ふっ、俺もそう思っていたところだ」


フィーネら家族との食事とは、また全然ちがう雰囲気だった。

落ち着いて話を楽しみながら、ゆったりとした時間を過ごす。

ルベルトは私のために、と食用のハーブ類まで用意してくれていた。
それがまた、お酒を進ませる。

私にとっては、結構いけるのだ、これが。

とても楽しい時間だった。
それは部屋に引っ込んでからも、余韻が残るくらいだ。


寝支度を済ませたら、明かりを消してベッドに入る。

結構な深酒をしてしまっていたことも、移動の疲れもあったのかもしれない。
すぐに眠気が天井から落ちてきて、私は目を瞑りかける。

が、そのときだ。
瞼の裏に、その燃え盛る火の橙色とくすぶる煙の灰色で溢れた景色は唐突に蘇ってきた。
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