63 / 71
四章

第63話 似合っている

しおりを挟む



昼頃、私はルベルトとデアーグとともに、お披露目会のパーティー会場へと入った。
その控室にて、ドレスを選ぶこととなる。

「とてもお綺麗ですので、どれも似合うとは思いますが、顔立ちがはっきりとされているので、どちらかといえば、赤っぽい色味がいいかもしれませんね」

こういうのは、かなり久しぶりのことだった。
そもそもドレスを半年以上着ていないから、どれを見ても、いまいちしっくりとはこない。

だから、とにかく目立たないことを意識して、比較的シンプルな薄い朱色のものを選択する。

肩口を見せる構造になっている以外は変わった趣向も少なかったため、おかげさまで着るのに、そこまでの時間はかからなかった。

丈の調整などだけその場で行ってもらい、スカート部分の裏にあるポケットに解毒薬を忍ばせたら、私は控室を出る。
すると、すぐそこにルベルトが待ち受けていた。

彼も正装をしている。
そしてその姿はといえば、やはり様になる。

「……輝いてますね」

というか、もう圧倒的だ。
黒地に金糸の装飾がついた、比較的あっさりとした服装だというのに、その飾らなさが彼の素材の良さを引き立たせる。

たぶん彼の横に並び立って、同じだけの存在感を出せる人間など、そうはいないだろう。

「ん、この飾りか? 生地が固くて、肩が凝る」

私は彼自身が輝いているという意味で言ったのだけれど、まさかの取られ方をしてしまった。
彼は肩口についたミュラ王国の紋章を引っ張りながら、渋い顔をする。

それから私のほうを振り向いて、

「……似合っている」

こう、ぼそりと言う。

「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです。しばらくは誤魔化せますでしょうか」
「誰よりも本物に見える。素晴らしい着こなしだ」
「……そうでしょうか」

ルベルトは首を一つ縦に振る。
それからどういうわけか、「待っていろ」と残すと、自分の控室へと下がっていった。

なにかあっただろうか。
そう思いながらも彼が戻ってくるのを待っていると、彼が手にしていたのは白い薄手の羽織だ。

ルベルトは私の背中の方まで腕を回すと、それを肩に掛けてくれる。

「これを使うといい」

見上げれば、ルベルトはどういうわけか壁の方に顔を背けていた。
真っ白な頬は少し赤らんで見える。

「……ありがとうございます。これって……」
「今、仕立て屋のものに見繕ってもらった。気に召さないか?」
「いえ、少し冷えるかもと思っていたので、助かります」
「それもあるが、その、なんだ。あまり見せるものでもないだろう」

言わんとしていることが、ここでやっと分かった。
肩が出ているのを気にしてくれたらしい。

夜会では、これくらいの露出は大したことがない部類だ。もっと大胆な衣装を着る令嬢のほうが多い。

だのに、慣れていないと思われているだろう私に、配慮してくれたらしい。

同じ王でも、ローレンとはまったく違う。
本当によく気が利くものだ。

「……まぁ、なんでもいい。とにかく、羽織っておいてくれ」
「はい」

私は羽織をしっかりと巻いて、胸元で緩く結ぶ。

「もう少ししっかりと結んでもいいんじゃないか」
「え」
「隙は見せないほうがいい。夜会とはそういう場所だ」

まぁたしかにそうだけれど。少し過保護すぎるような……?

「おぉ、すげー。まじでご令嬢じゃん!」

なんて思っていたら、そこへデアーグも合流する。
正装の彼は前にも見たことがあるが、今日はよりフォーマルだ。

ルベルト同様に、紋章のついたジャケットを羽織っている。

「めちゃくちゃ綺麗だ。見込み通り! すげー似合う!」

彼は全開の笑顔で、こう真正面から褒めてくれる。

「ふふ、ありがとうございます。デアーグ様もよくお似合いですよ」
「だろ? 自分でも思ってたところ!」

デアーグは腰に手をやり、ふんと鼻を鳴らす。
それに対してルベルトはといえば、大きなため息をつく。

「……お前はいいな」
「え、なんですか、いきなり」
「そのままの意味だ。いいから行くぞ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...