41 / 46
恋をしよう
オムライスの約束
しおりを挟む薫子が卵割りに挑戦し始めて半年が過ぎた。月に二回のチャレンジの為、一回に卵三つまで試すことになったが、薫子の不器用さは天を極めた。それでもだんだん卵液がボウルに収まるようになり、殻も粉々になって卵液に落ちる数が少なくなっていった。
そして本日めでたく、きれいな卵がボウルに落ちたのである。
「……わ…っ…」
細い声を上げて薫子がボウルの中を凝視し、その背後から佳亮は上体を斜めからキッチンに乗り出すようにしてボウルの中身を確認した。
「やりましたね! 薫子さん!」
佳亮が薫子の両腕を後ろから掴み、薫子の表情を確認すると、まるで信じられないものを見るように目を大きく開いてボウルの中を見つめ、それからゆっくりと振り返って佳亮の視線と目を合わせた。
「……できたわ……。わたし、できたわ、よしあきくん……」
「そうですよ! 立派な卵です! おめでとうございます!」
薫子は少し身体を震わせて佳亮からボウルの中身へと視線を移した。
薫子が自分できれいに割った卵が、そこには浮かんでいた。まるい黄身がつやつやとしていてかわいらしい。白身はとろりと黄身を守っている。
半年前の惨劇を思うと、こんなことが自分にできるようになるなんて思っていなかった。でも佳亮が根気良く付き合ってくれたおかげで、一人で卵を割ることが出来るようになった。
薫子はくすんと鼻を鳴らし、手の甲で目じりににじんだ涙を拭った。
「…嬉しい…。少しは人並みになれたのかしら……」
薫子が言うと佳亮は、はい、と応えた。
「薫子さんは、もっともっといろんなことが出来るようになりますよ。練習すれば、オムライスだって作れます」
卵が割れただけで急にオムライスの話になってしまって、薫子は苦笑する。でも、そんな未来も悪くないと思う。
「そうね…。…私、頑張ってみるわ。もし、オムライスを作ることが出来たら、佳亮くん、食べてくれる?」
薫子の問いに、勿論、と応えた。
「是非、御馳走してください。楽しみにしています」
佳亮の笑みに、薫子も笑みで応えた。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
煙草屋さんと小説家
男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。
商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。
ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。
そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。
小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる