星は五度、廻る

遠野まさみ

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清泉皇帝

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「なんだこれは」

今度は皇帝が麗華のすることに食いついた。よしよし、と思って麗華は皇帝に星を読むところを見せてみた。

「清泉さまの星を、この道具で読みます。盤は星を、サイコロは方角を示します」

そう言って星の描かれた盤の上でサイコロを転がすと、結果を厳かに告げる。

「天頂……、陛下の星には巨大な凶星が見えます。しかしその後ろに吉星が輝いています。暫くは危ないことがおありかもしれませんが、結果、ことは上手く収まります」

麗華が述べた占いに、皇帝はふん、と鼻を鳴らした。

「お前がその凶星の元でないと言えるのか。くだらない占いをするな」

全くもって取り付く島もない。そんなに麗華を信じられないのなら、何故召し上げたのか。やはり瞳の色だけが理由なのだろうなと、麗華は思った。ならばこう応じるだけだ。

「陛下のご興味が私の瞳だけでしたら、陛下はご意志のままに私の目を抉り取れば良いのです。そうすれば、煩い戯言を聞かずに済みます」

真っすぐ皇帝を見てそう言うと、皇帝もまた真っすぐに麗華を見て、それから少し口の端を上げた。

「面白い。そこまで言うなら、抉ってやろうか」

そう言って皇帝は腰に差していた刀を引き抜くと、太刀先を麗華の目の横にぴたりと合わせた。

「…………」

「こうすれば、直ぐにでも翠の瞳が手に入る。さあ、どうする」

皇帝は目を細めてそう言った。麗華はごくりと唾を飲み込むと、震えないように口を開いた。

「皇帝陛下がご所望ならば、それまでのことです」

しんと静まり返った部屋の窓の外を、さあっと風が抜けていく。さわさわと梢が靡いて、その音が止んだ時に、皇帝が声をあげて笑った。

「は……! ははは! これは面白い! 自分の価値を瞳の色だけだと断じたこと、まことに面白い!」

皇帝は笑ったまま立ち上がると麗華の宮から去って行った。その笑い声は何時までも麗華の耳にこだました。

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