降りしきる雪をすべて玻璃に~大正乙女あやかし譚~

遠野まさみ

文字の大きさ
18 / 45
恋人のふりと婚約者

帝都にて

しおりを挟む

軽井沢から帝都に戻った雪月は、あやかしが視えるモダンガールの執筆を引き続き続けていた。雪月の筆は順調に進んでおり、その隣で雪月を支えることが出来ることに、華乃子はささやかな幸せを感じていた。
太助と白飛とは相変わらずだ。帝都に戻ったから、雪月の長屋通いが再開して、それについては良い顔をしない。嫁入り前の娘なのに、なのだそうだ。

「嫁入り前も何も。先生は私の事、そう言う風にご覧になってらっしゃらないわ……」

梅の声に途切れた言葉。あの時の言葉がもう一度あれば……、いや、もしあの先の言葉があれば、それを信じられると思うが、帝都に戻ってからそれっぽい雰囲気すらもない。きっと、華乃子が受け取り間違えたのだろう。だが、二人とも譲らない。あいつは駄目だというばかりだ。

「駄目だ駄目だってそればっかり。何がどう、駄目なの?」
『あいつは華乃子を失望させる。だから駄目だって言ってるんだ』
「失望させる、ってなに? 先生は先生のお仕事を十分されているわ」

そう言うやり取りを何度もしている。彼らは雪月のことが頑なに認めようとしない。何が気に障るんだろと思う。

『あいつは軽井沢で華乃子の気持ちを蔑ろにしただろう。忘れたのか』
「……蔑ろに、されたわけでは、ないわ……。私は……何も言ってないもの……」

そう。何も言葉にしていない。言葉にしなければ、雪月が華乃子のことを分かる訳はない。雪月が華乃子のことで知っているのは、あやかしに係わった経験があると言うことと、ヒロインのモデルである華乃子が望む恋愛の形だけ。執筆に必要ないことは、雪月が知る必要はない。それでいいではないか。

『そんなにあいつが良いのか』

太助が目を尖らせて華乃子に問う。太助の問いに一瞬声を詰まらせて、それから華乃子は弱々しく応えた。

「良い……、とかの話ではないわ……。私は誰にも必要とされない人間だもの……」

これまでのことを思い出して華乃子が俯くと、白飛が華乃子の周りをくるりと回り、華乃子の顔を覗き込んだ。

『それでも、最近華乃子は元気になったと思う。前は何処か世間に対して自信なさそうなところがあったが、あいつといると華乃子が生き生きとしているのが分かる。だから余計に俺たちは心配なんだ』

太助と白飛からの心配と慈愛の言葉を受けて、二人が心底華乃子を心配してくれていることが分かった。ずっと華乃子の傍に居たからこそ分かる華乃子の変化を、二人は見逃さなかったのだ。

……そう、……かもしれない。雪月に辛かった過去を受け入れてもらって、華乃子は随分と楽に息が出来るようになった。自分を認めてくれた人を、人は大切にする。そう言う意味で、雪月は華乃子の恩人なのだ。

「大丈夫よ……。二人が思うような気持ちじゃないわ……。ただ、雪月先生は私を救ってくれた人なのよ。それで、恩を感じているの。それだけよ」

二人に対して誤魔化そうとしたが、言葉にしただけ、自分の中で雪月がどんな存在であるか逆に認識してしまって、華乃子はやっぱり俯いた。太助と白飛がそれをじっと見つめていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

祓い姫 ~祓い姫とさやけし君~

白亜凛
キャラ文芸
ときは平安。 ひっそりと佇む邸の奥深く、 祓い姫と呼ばれる不思議な力を持つ姫がいた。 ある雨の夜。 邸にひとりの公達が訪れた。 「折り入って頼みがある。このまま付いて来てほしい」 宮中では、ある事件が起きていた。

なぜか水に好かれてしまいました

にいるず
恋愛
 滝村敦子28歳。OLしてます。  今空を飛んでいたところをお隣さんに見られてしまいました。  お隣さんはうちの会社が入っているビルでも有名なイケメンさんです。  でもかなりやばいです。今インターホンが鳴っています。  きっと彼に違いありません。どうしましょう。  会社の帰りに気まぐれに買ったネイルをつけたら、空を飛べるようになって平凡じゃなくなったOLさんのお話。   

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...