降りしきる雪をすべて玻璃に~大正乙女あやかし譚~

遠野まさみ

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寛人の野望

雪月の計画

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一方その頃の雪月は幽世の龍族の住処に来ていた。雪女族の跡目として正式な先ぶれを出し、先ほど部屋に通してもらったばかりだ。

龍族の住まう山谷深くにある泉には透明な水が滾々と湧き出しており、溢れる水は谷を下って幽世全体を潤していた。
黒塗りの格子に貼られた障子が明けられており、部屋から見ることのできる庭は現世で言う日本庭園に似ており、雪月は少しなじみ深い気持ちになっていた。

そんな雪月の視線を部屋の入り口の襖に戻させたのは、龍族の長、龍久がその襖を開けた音だった。すっと木の滑る音がして龍久が部屋に入ってくる。雪月は最大の敬意を表して深くこうべを垂れた。
龍久は抑揚のない声で、良い、とひと言言った。雪月は顔を上げる。目の前に居るのは幽世でも最高位の神族の内のひとつ、龍族の長だ。千年を生きてきたその顔には深く皴を刻み、長く伸ばした頭髪は顎髭と同じく白く輝いていた。

「お時間を取って頂き、ありがとうございます」

雪月はまず、龍久に謝意を述べた。龍久はふう、と目を閉じて、顎髭を撫でた。

「用向きを述べさせてください。鷹村華乃子という女性をご存じですか?」
「なにか、我々に関係あることか」
「人間と雪女の間に生まれた彼女は、貴方の血を引いております」
「ふむ……。この前おぬしの郷で儂に助けを求めた、あの存在か」

華乃子が龍久に助けを求めたのかどうか雪月は知らなかったが、千雪と話して、華乃子があの時奇跡的に郷の雪山から帰って来られたのは、千雪と同じ血が通っていたからだと知ったから、こうして龍久と話し合うことに決めたのだ。

「はい……。彼女は現世で長く暮らしてきましたが、私どもの郷で力を持つことを証明しました。龍久殿はこのことをお聞きになり、彼女をどうされますか?」

龍久はわずかに目を開き、それは欲しい、と言った。

「我が一族の直系は乏しい。千雪をおぬしらに預けておる以上、その者は我らに欲しい」
「そのことでお願いがございます」

雪月は再び頭を下げた。

「千雪殿は我が郷に雪樹を生み落としてくれました。我が郷で男の雪女を生むという役目を果たした千雪殿を龍族にお返しする代わりに、華乃子さんを私に頂けませんか……」

言うと龍久は口を噤んだ。快諾できないらしい。

「雪花を忘れられぬ儂が言うのもおこがましいが、血は尊い。雪花を娶った折に交わした盟約により、そちらの男子を優先せねばならぬが、そちらの一族も男子に苦労しておるから分かるだろう。直系は何としても我が手元に欲しい。その者が今度は男子を生んでくれるやもしれぬ」
「そこを何とか……。彼女は人間として生きてきた時間が長い。また、彼女自身も人間として生きることを望んでおります。私は幼い頃に彼女に会い、彼女のやさしさに触れ、己を保つことが出来ました。男の雪女として力を持てたのも、彼女のおかげなのです。彼女と是非、添い遂げたい……」

千雪と話して、華乃子が半妖ではなく人間として生きていきたいと望んでいることを知った。ならば、龍族に返すわけにはいかなかった。龍久は眉間の皴を深くして、ううむ、と考える。

「その代わり、千雪殿を龍族に受け渡します。彼女は雪女の郷に居る限り、光雪を裏切ったという事実から逃れられません。龍久殿の許で、残りの時間を穏やかに過ごしてもらえればと思いますが、いかがですか」
「華乃子は、譲らんか」

龍久の言葉に、雪月は即答した。

「譲れません。私の全てです」

強い眼差しで龍久を見ると、龍久は雪月の強い気持ちを分かってくれたようだった。
元より、今の龍族の住処には今、直系が居ない。千雪の件は龍久の心を動かした。

「……承諾しよう……。しかし、何事か会った時には、その者も我が一族に迎える。そのことだけ、ゆめゆめ忘れるな」

龍久の言葉に、雪月は深く礼をした。

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