腐女子とゆめかわ男子の契約恋愛

遠野まさみ

文字の大きさ
4 / 27
契約カップルというもの

いざ、学校で

しおりを挟む


月曜日に登校すると、席に着いた鳴海の所にクラスの女子たちがわっと集まって来た。

「市原さん、梶原くんとデートしたんだって?」
「梶原くんのエスコートでピーロランドに行ったんでしょ?」
「いいなあ。梶原くんイケメンだしスポーツマンだし、リーダーシップもあるし、いいなって言ってる子多いんだよ」
「でも、梶原くんと市原さんだったら文句言う人居ないよね~。美男美女カップルで、非のつけどころがないし!」
「写真ある? 私服の梶原くん、見てみたい!」

そう口々に言われて、そこまで梶原の人気が女子たちに浸透していたことに驚く。一見、まあイケメンではあるけれど、鳴海が関わるタイプではないと思っていただけに、梶原の先手は確かに鳴海に落ち着きを与えていた。スマホを取り出してクロピーとのスリーショットを見せると、鳴海を囲んでいた女子たちがわっと湧く。

「わ~、期待を裏切らないイケメン! チョイスがおしゃれ!」
「ピーロで目立ったでしょう? こんなイケメンの隣で写真が撮れるのは、やっぱり市原さんくらい美人じゃないと駄目だね~」

口々に騒がれて、おっ、これは表面的とはいえ、理想の卒業式に一歩ずつ近づいてる? と思わせる展開だった。それはまあ嬉しい。この人気を維持すれば、卒業式にわびしい思いをすることはないだろう。鳴海はそう期待した。その輪に加わった由佳が

「シナロールやクロッピよりも、なるちゃんの方がかわいいって言うのが羨ましいな。それに、ただ立ってるだけなのに、梶原くん、ファッション雑誌の読モみたいにかっこいいし。クロッピのイケポーズも霞んじゃうね」

などと言ったのを、周りの女子たちが肯定する。この女子受けが、腐女子であることが知れたら手のひらを反すように覆るのかと思うと、それが、なんとしてでも腐女子であることを隠し通して、友達と彼氏に恵まれた卒業式を迎えるのだと、余計に鳴海に思わせた。
その時、女子の輪の外側からにゅっと背の高い男子が鳴海のスマホを覗き込んだ。

「あれ、市原さんってピーロランド好きだったの?」
「きゃっ!」

声を掛けてきたのは同じクラスの栗里だった。急に現れた栗里に驚いて、小さな悲鳴を上げたのは由佳だ。

「栗里くん、急に人の頭の上からの登場の仕方はどうなの? 由佳がびっくりしてるじゃない」
「いや、みんなが騒いでたから、気になって。驚かせてごめんね、生田さん。大丈夫?」

栗原はやさしそうな顔をしたイケメンで、梶原が剛とすれば栗原は柔、というイメージの物腰柔らかな男子で、こう言う時の女子へのフォローもスマートで完璧だ。由佳は少し顔を赤らめて、突然のことに跳ねたのだろう胸を押さえながら、大丈夫、と頷いた。

「それより、ピーロランドに行ったんだって?」

この高校に入学して以来、この学年ではどっちかというと梶原派という人と、どっちかというと栗原派という人に分かれていた。……とはいえ、学校が二分するようなことはなく、梶原のリーダーシップでこの学年はまとまっていた。

「そうなの、梶原が連れて行ってくれたの。初めてだったけど楽しかったよ」

鳴海がそう言うと栗原は、ふうん? と一瞬思案した様子になって、それからこう言った。

「初めてのデートプランにしては、梶原のプランに頼りすぎじゃない? 普通だったら市原さんの好みを聞いて優先しそうなのに」

そう言うものなのか? なにせ、本質は腐女子で一般人のデートがどんなものか分からないので、言い返しようがない。鳴海としては一般人のデートをリードしてくれたのだから、これ以上ない感謝を梶原に感じている。

「初めてだったんだけど、でも楽しかったよ。いっぱい写真も撮ったし、お土産まで買ってくれたの」

そう言って買ってもらったキーホルダーを見せれば、あっ、それ25周年の記念デザインだね、と由佳からアシストが入る。

「かわいくてお気に入りなの。丁度タイミングよく行けて、良かったわ」
「へえ……。意外だな。市原さんって、そういうかわいい系じゃないと思ってた」

どきっ。本当はカッコいいのとクールの組み合わせが最高に好きですけど、それは言えない。そう思って、そお? とあいまいに返す。

「僕なら、市原さんを本当に満足させられそうなのにな。……市原さんさあ、一度、僕とお試しにデートしてみない?」
「は?」

話の急な展開に鳴海が目を白黒させていると、栗原はにこりと柔和な笑みを顔に浮かべながら、続けた。

「なんとなくだけどね? 市原さんと梶原ってタイプが違うから、趣味とかがかけ離れてるんじゃないかと思うんだ。梶原はアクティブ派だけど、市原さんって文科系というかインドア派に見えるんだよね。だから、僕と市原さんはタイプが似てると思うんだ。デートプランも、テーマパークより映画とかの方が好きそう」

微笑む栗里と、黄色い声を上げる鳴海を取り囲んでいた女子たち。一気に騒がしくなった教室に、廊下から悲鳴のような声が聞こえた。

「栗里せんぱーいっ!! そんな彼氏のいる女よりも、此処に先輩に声を掛けられるのを待ってる女子がいますうー!!」

悲鳴と共に教室の扉を開けて、栗里に体当たりした生徒の胸のリボンは緑色。一年生だな。しかし凄い度胸。普通、後輩って、先輩の教室に入るの緊張するもんじゃない? 少なくとも鳴海はそうだけど。

「清水……。僕は清水とは付き合わないよ。中学の時に何度も言ってあるでしょ」
「だってだって!! そりゃあ、栗里先輩はカッコいいし、スポーツも万能で、頭も良いし、更にはお金持ちのおうちだから、有象無象の女子を煙たがるのは分かるんですけどっ! でも私っ、本気なんですっ! 本気だから、高校まで追いかけて来てるんですっ! この本気さを、分かってもらえませんかっ!?」

おお、朝っぱらから、なんか熱烈な告白ドラマが始まったな。栗里の気持ちが逸れてくれると良いと思って、鳴海が傍観してると、栗里が座っている鳴海の肩を自分に引き寄せた。ぐっと体を引かれて、とん、と肩と背中が栗里に触れる。当然教室内の女子はきゃーと悲鳴を上げ、男子はおいおいーと傍観している。

「清水が悪いわけじゃないし、気持ちは嬉しいけど、僕が清水に持ってる気持ちはほんっとに妹見てるみたいな感覚なんだよ。そんな相手に恋愛するっていうの、無理だと思わない?」
「でもでも、先輩! この女よりも私の方がかわいいです!!」

栗里は、顔でからかう相手を選んでいるのかな。鳴海がそう思っていると、栗里は、違うんだよ、と言った。

「男ってね、手に入りそうなものより、手に入らなさそうなものを手に入れることの方が楽しいの。狩猟本能に似てるね。逃げられると追い掛けたくなる。だから、清水みたいに僕を追っかけてくる子は、最初っから僕の興味を引けないんだよ」

自分を好きだっていう相手に、結構辛辣なこと言うなあ。好きだからアプローチしたい、でもそれが相手をしらけさせる。清水という女の子が、少し可哀想に見えてしまった。

「というわけで、僕は市原さんに興味があるんだよね。どう? 一度僕とデートしてみない? 絶対損はさせないからさ」

るん、という擬音までついてきそうな軽いノリに、鳴海は頭痛を感じた。どうにもこうにも、鳴海の周りには普通の感覚の男子は居ないのか。一年の上期はひたすら擬態上の友達を作ることに集中していたから、三学期になった頃に周りの男子の様子を見てみたけど、やっぱり何というか、鳴海の推しのように鳴海の心を奪ってくれる男子は居なかった。そう思うと梶原はやり方があくどかったけど、鳴海の高校生活の悲願である『彼氏』になってくれたんだから、まあまあ許せる。栗里も、正確に難はありそうだけど、外見は推しそっくりだから、観賞用にはいいかもしれない。

そんなことをやっているうちに予鈴が鳴る。清水はそれでも栗原の言動に堪えないのか、先輩、また来ますから!! と言って、教室を去って行った。
一陣の嵐が去った後、梶原が呑気に登校してきた。鳴海はぱっと栗原から体を話して、そっけなく誘いを断った。

「えーと、悪いけど栗里くんは他を当たってくれるかな? 取り敢えず私、その気ないし」

本音を言えば梶原にだって全くその気はないのだが、擬態しているので『彼氏がいるので』面を装った。栗里はまじまじと鳴海の顔を見て、しばらく考えた後に、

「そう? まあ梶原の彼女だし、そう言われると思ってたけど、市原さんって僕から見て、今でも十分に魅力あるんだよね。だから絶対僕のものにしてみせる」

などと宣言した。鳴海を囲んでいた女子たちのきゃー、という声が教室に響き、梶原がなんだなんだ、とこっちを見ていた。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子
恋愛
 来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。  学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。  ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。  そんなじれじれな話です。 *学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記) *エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。 *拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。  ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。 *作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。 関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役) 『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー) 『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル) 『物狂ほしや色と情』(名取葉子) 『さくやこの』(江原あきら) 『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

処理中です...