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オタクというもの
オタク同士
しおりを挟む鳴海はその日の勉強会を終えての帰りに、朝の女子たちの言葉を梶原に伝えた。きっと、鳴海が擬態に成功していることを満足してくれるだろうと思ったからだ。そして何気に梶原がとても褒められていたので、きっと梶原みたいなタイプは、褒められて有頂天になるだろうと思ったからだった(栗原のことは詳しく言わなかった。知れるなら自然に知れるだろうし、鳴海は弱みを握られているわけでもない栗原と付き合う気は全くなかったし、それは梶原も分かっていると思ったからだ)。鳴海は隣を歩く梶原に、朝の由佳の言葉を伝えた。
「友達がさ、この前のピーロランドで撮った写真見て梶原の事、褒めてたよ。『クロピーのイケポーズも霞むね』だってさ」
何気なく笑って伝えただけだった。しかし梶原は急に「違うだろ!」と声を荒げた。
「『クロピー』ってなんだよ! 『クロッピ』だろ! そこはちゃんとしろよ!! キャラクターの名前を間違えるなんて、言語道断だぞ!! クロッピに謝れ!!」
鳴海は梶原の剣幕に飲まれてぽかんとした。馴染みのないキャラクター名を間違えることはあると思うのに、そこ、そんなに気にしなきゃ駄目な事か?
「……ちょっと間違えただけじゃない。そんなに怒らなくて立って良くない?」
「え……っ、あ、……そっか……? わ、悪いな、急に……」
鳴海の言葉に、急に言葉尻が弱くなる。……あれっ? なんか梶原の様子がおかしい。さっと鳴海の視線から逃れようとして、全く鳴海のことを見ない。なんとなくいつもの梶原じゃないような感じがして、鳴海は梶原に問うた。
「……あのさ、梶原。……もしかして、クロピー、好きだったりする……?」
なんとなくそう感じただけだった。しかし鳴海の言葉に梶原は大袈裟に反応した。
「いやっ! 好きとかじゃなくて……っ! ええ……と……、ああ、あの、妹が、好きみたいで……っ! それで……っ!」
あれっ? 梶原、一人っ子って言ってなかったっけ……。
「……梶原、妹居たの? 一人っ子って言ってたよね……?」
鳴海がそう返すと、梶原は、しまった! という顔をした。そして、以前鳴海が梶原にスマホを見られた時みたいに、天を仰いだ。……これは……。
「……梶原、……もしかして、クロピ―が好きだったとか……?」
「だから、なんで何回も間違うんだよ! 『クロッピ』だろ!」
半ばやけくそ、という感じで梶原が叫んだ。
「そーだよ! 俺はピーロランドが好きなんだよ!! この趣味は止められないけど、その所為で中学時代、笑いものにされたんだ! だから高校では隠し通そうと思ってたのに……っ! 」
市原が名前間違えるからいけないんだぞ! とまで言われてしまった。えっ、それは責任転嫁じゃん?
しかし、成程。鳴海だけではなく、梶原も脛に傷を持つ身だったのか……。
「最初から言ってくれれば良かったのに。どうして黙ってたの、同志だって分かったよね?」
「だましたことについては本当に悪いと思ってる!! 俺、こんな性格だから、絶対笑われると思って!!でも、どうしてもピーロランドに行きたいんだよ! それには市原の力を借りないと、男一人じゃ浮いちまうんだよ! あの場所!!」
あの朝、弱みを握られてからずっと屈してきた梶原が、乗換駅で鳴海に向かってがばっと土下座した。そこまでか。まあ、推しを崇める気持ちは分かるから、そこは同情する。脅され続けた一ヶ月間の落とし前は付けさせてもらうけど。
「……じゃあ、これからは一方的な脅しにはならないってわけね。梶原は私の秘密を、私は梶原の秘密を守る。つまり運命共同体、ってわけか」
にやり、と、きっと今、鳴海は悪い笑みを浮かべている。でも、ずっと一方的に弱みを握られていた時間は、形容しがたいくらいに屈辱的だったのだ。これでフェアだ。梶原が、がっくりと項垂れる。
「……ばらさないから、ばらさないでくれ……」
「勿論よ。でも一ヶ月間、私に屈辱を強いたその落とし前は付けさせてもらうわ」
「……なんだったら、ばらさないで居てくれるんだ……?」
一ヶ月間、頭に乗っていたことを反省しているようだった。反省はしているようなので、其処は認めよう。それを鑑みて、高校生にしては、ちょっとキツい制裁を科す。
「そうね、あんなジャンクなパンケーキじゃなくって、ホテルのデザートブッフェをご馳走してくれるなら許しても良いわ。高校生には妥当な制裁だと思わない?」
鳴海の言葉に、梶原は分かった、と頷いた。鳴海は梶原の手を引いて彼を立ち上がらせると、そのまますっと手を出す。梶原も分かったようで、手を握り返してきた。それは勿論恋人同士の握手ではなく、同盟を結んだ二人の握手だった。
翌日曜日。ホテルに立ち入るんだからと一応気を遣った格好をしてロビーに着いたら、待ち合わせ時間の十分前だというのに、既に梶原が居た。梶原も何故か満面の笑みで張り切った格好をしてそこに居た。やっぱり場所がホテルだからだろうかと思って、梶原のエスコートで最上階のラウンジフロアに着くと、その満面の笑みの理由が分かった。
「……梶原。今日はあんたが楽しむ目的じゃなくて、私を騙していたことの罰としてあんたにおごらせるつもりだったんだけど?」
鳴海が睨みつけるのなんて全然堪えてないという感じで、梶原は鳴海に満面の笑みを向けた。
「だって市原は『ホテルのデザートブッフェ』って言っただけだし、俺がおごるなら何処のどんなブッフェでもいいんだろ!」
さあ入ろう、さあ行こう、とばかりに梶原が鳴海の手を取ってレストランに入っていく。入り口にはピンクとラベンダー色と水色でデコレーションされた五段のケーキがどん! とそびえていた。最上段には王冠を被ったキッティとシナロールのマジパンが飾られていて、二人を取り囲むように白いチョコレート細工のアーチが作られている。アーチの周りはケーキの土台と同じ色のクリームで絞り出された薔薇の花々。まるでキッティとシナロールが王宮の庭園に居るかのようなデコレーションだ。側面は、一体どれだけ時間がかかったのだろうと思わせる、全ての段にフリル状の生クリームが絞られていて、各段には苺、ブルーベリー、ラズベリー、果ては花の砂糖漬けなど、色味良いフルーツと花がちりばめられていた。
他にも、確かピーロランドのお土産売り場で見たような、女子向けのコスメ用品を模したチョコレート細工とか、ポヨポヨプリンやマイレディがプリントされたマカロン、クリームデコで作られたクロピーが載ったカップケーキなどなど……。鳴海がその壮観な様子に唖然としている横で、梶原は既にスマホを取り出してバシャバシャと写真を撮っていた。
そして梶原は、店員に席に案内されるや否やテーブルを離れて皿にクロピーを山盛り盛って帰ってくると、今度はテーブルでクロピーのスイーツの写真をバシャバシャと撮っていた。
「かわいいぜ、クロッピ。お前のその立った三本の毛、つぶらな瞳、ツンと尖ったくちばし、丸いお腹に艶やかな羽根。どれをとっても、お前は最高のペンギンだ。お前が一番だぜ……」
学校での態度からは想像もつかないような、クロピーに対する賛辞の数々。そんなクロピーに対する誉め言葉を独りごとのようにぶつぶつ言いながら写真を撮っている梶原を、鳴海は呆れながらも何処かデジャヴを感じながら見ていた。……そう、対象は違えど、同じオタク。鳴海も推しキャラの登場するコラボカフェで、推しのデコレーションがされたランチの写真をバシャバシャと撮ったことは記憶に新しい。きっと今の梶原は、今まで果たせなかった女子の園であるスイーツブッフェに堂々と立ち入り、大好きなクロピーを堪能しているのだ。そう思うと、梶原のことを怒ったり責めたりは出来なくなる。同じ穴の狢(むじな)ではないか。そこで同感せずしてオタクとは言えない。
テーブルに持って来た様々なクロピーのスイーツの配置を変えながらあれこれと工夫をして写真を撮っている梶原に、鳴海はひと言呟いた。
「クロピーが一番……。つまり、クロピーが最強攻め、ってこと? でも、そのキャラスイーツの並びでいくとシナロール×クロピー……? でも隣のお皿はクロピー×キッティよね? 梶原はクロピー、受け攻めどっち派なの?」
そうなのだ。梶原のクロピーの配置に一貫性がなく、鳴海は梶原の性癖を掴み損ねていたのだ。大切なことだから、ここは押さえておかねばと思って質問したのに、梶原は鳴海の言葉に激怒した。
「最強攻めとか受け攻めどっち派とか、俺のクロッピで変な事考えんな!! それと何度言ったら覚えるんだ! 『クロッピ』だろ!? お前も同じオタクなら、相手の推しの名前を間違えんな!!」
「息をするようにカップリングを考えてしまうのよ。性(さが)ね……」
ふう、と憂いの吐息を零す鳴海に、梶原は怒ったままだ。
「次に俺のクロッピで腐妄想したら、お前の頭カチ割るからな」
怒り心頭の梶原に、これ以上は藪蛇と見て鳴海も黙る。しかし、受け攻めがはっきりしないことに、どうしてもお腹の底がムズムズして、気持ちが悪かった。
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