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三枝理恵子の章
第16話 親友の告白
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ある日のこと……。
「慎一よぉ、ちょっと相談があるんだけど、聞いてくれるか?」
突然、休み時間にそう言って慎一に近寄ってきたのは、同じ柔道部に所属している村山裕司というクラスメイトでした。
彼は、柔道という格闘技をする上では慎一よりも恵まれた体格をしていて、身長も高くウエイトもあり、小柄な慎一がいくら身軽に動き回っても、寝技に持ち込まれたらとてもかなわない技量の持ち主でした。
しかし、その見た目の貫禄とは裏腹に、彼はお茶目なぐらい快活な性格をしていました。慎一ともよくウマがあって、クラスの男子の中では一番親しく交わっている友人でもありました。
「なんだよ、珍しくマジな顔しちゃって、どうした?」
裕司に誘われて廊下に出た慎一は、何事かと言葉を返しました。
「いやぁ、……実はな……何て言うか……。」
いつもは陽気で闊達なしゃべりをする裕司にしては、珍しく、なぜか歯切れの悪い話し方になっています。しかし、さすがにいつまでもグズグズは出来ないと自分でも分かったのか、思い切って話しを始めました。
「実はさ、俺、……なんて言うか、その……、実は、俺……、どうしても、好きになっちゃった子がいるんだ……。」
よく中学生にありがちな、あるあるの恋愛相談です。慎一もすわ何事か、どんな人生相談かと思っただけに、逆に拍子抜けしてしまいました。しかし、思春期の中学生にとって、恋愛問題はある意味でもっとも深刻な人生相談でもあります。
「なんだよ、そんなことか。別にいいことじゃんか。……で、誰だよ、誰を好きになっちゃったんだ?」
慎一に急き立てられながらも、裕司はますます歯切れが悪く、言葉を濁すようにしています。
「なんだよ、スパッと言っちゃえよ。俺も協力するからさ。」
その言葉に、なぜかちょっと嬉しそうにした裕司でしたが、それでもまだ言いにくそうにしています。慎一もいいかげんにしびれを切らし始めてしまいます。
「誰だよ、誰?他のやつに言ったりしないからさ。いい加減に教えろよ。誰か分かんねえと、俺だって協力したくても協力できねえだろ。」
すると裕司は、意を決したようにようやく話し始めました。
「実は、……俺が好きなのは、三枝のことなんだよ。」
「?…………!!」
慎一は想定外の名前に、一瞬、誰のことを言っているのかわからず呆然としてしまいましたが、すぐにそれが慎一の隣の三枝理恵子のことだと分かり、びっくりしてしまいました。
確かにその可能性はあったはずなのに、それが慎一の隣にいる女子のことだとは、慎一はまったく考えもしていませんでした。
慎一の驚いた様子に、裕司は改めて不安に感じたのか、探るように、また聞き返します。
「慎一、お前、三枝と仲がいいだろう?よく話してるし、お前らも名前で呼びあってるみたいだし、慎一も三枝のこと、好きなんじゃねえの?……まさか、付き合ってるまでには見えねぇけどよ。」
「えっ?……えっ!ええ~!」
途端に今度は慎一の方が 口ごもってしまう番です。なぜか動転してしまった慎一は、その裕司の問いかけに何も言葉を返すことができなくなってしまいました。
「やっぱりそうかよ。お前ら、仲、いいもんな。慎一も好きなんだろ。」
裕司は何となく危惧していた状況が的中したようで、冷ややかな目つきになりつつ、ややがっかりしたような素振りを見せました。そうなると、今度は慎一の方が慌てて打ち消しをしなければならなくなります。
「いやいやいやいや、ただ隣ってだけで、……そんな、……俺は、別に……。」
口ごもりながらも、つい慎一は裕司の言葉を否定してしまいました。
「じゃあ、いいのか?俺が三枝のことを好きだって言っても、お前、俺に協力してくれるのか?」
一転して、裕司は目を輝かせて慎一に迫ってきます。あまりのその裕司の勢いに、つい慎一も気圧されてしまいました。
「いや……なんだろう……その……。」
しかし、裕司の方は勝手に独り合点してしまっています。自分の親友が、自分が好きになった女子のことを何とも思っていない、そう思った途端、一つの障害が完全になくなったわけです。友情と恋愛の間に全く齟齬をきたすことがなくなったわけですから、裕司の最大の懸念は払拭されたのです。……もちろん、最大の懸念材料は当の相手の気持ちなんですけれどもね。
「だいたいよ、真一は何とも思わねえのか?いつも三枝の隣にいて。」
裕司は照れ隠しをするように、彼がその少女に対して恋をしてしまった理由のひとつを、慎一が聞きもしないのに語り始めます。
「え?……何が?」
慎一は唐突な裕司の話題転換と詰問口調に、その真意をはかりかねます。
「えじゃねえよ!あいつの シャツを見て、慎一は何も感じねえのかよ!」
「え?……シャツ?」
慎一はますます意味不明になりました。
「だよ、女子はみんなさ、シャツの背中からブラの線が見えるじゃんか。でも、その女子の中でも、三枝の背中、すげえ色っぽいじゃねえか。」
そこまで言われて、慎一はようやく裕司が何を言いたがっているのか、合点が行きました。
「シミーズって言うのか?あれ見てたら、ドキドキしない方がどうかしてるぞ。」
裕司は、さすがに女子の下着の話しをしているだけに、下着の名称を口にするのは、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめて声を潜めましたが、それは三枝理恵子の着ているスリップのレース柄のことだと真一にはすぐ分かりました。
女子は中学に上がってブラジャーをつけるようになると、その下着の線が外に見えるのを恥ずかしがって、下着をもう1枚、重ねて着ている子も半分くらいはいます。
もちろん、全然、気にしない女子も半分以上はいます。だから、冷え性で重ね着しているのか、恥ずかしくてしているのか、その内容まではよくわかりません。しかし、女子がどのような理由でそうしているにせよ、男子の目は、男子にはない女子だけの下着、ふくよかなバストを想起させるその物につい目がいってしまうのも、思春期の男の子としては仕方のないことだったかもしれません。
つまり、女子の下着に心を揺さぶられてしまった男子は、決して慎一だけではなかったのです。そして、慎一の友人である裕司もまた、慎一と同じように、三枝理恵子の背中に透けて見えるレース模様につい心を奪われてしまっていたのでした。
慎一は、あの小学6年生の時はともかく、今現在、自分のこの性癖がまともではないような気がしていました。しかし、この裕司の言葉を聞いて、慎一は決して自分だけが変態的な異常者ではないんだという、自分に都合の良い言い訳を発見できたのでした。
しかし、だからと言って慎一は裕司に偉そうに物を言える立場にはありません。それは慎一が十分に自覚していることです。なぜなら、慎一は自分が女性のランジェリーに対して異常な執着を持ってしまっていることをしっかりと自覚しているからです。現に、今でもおばさんのスリップで夜な夜なオナニーをしているのですから。
「じゃあさ、裕司は一体どうしたいのさ。まさか、『お前の下着に欲情した』なんて言ったら、ひっぱたかれるぞ。」
慎一は、どうにもその下着についてはコメントのしようもなく、無理に話題を変えようとします。すると、それに続く親友の提案は、慎一の予想してもいなかったものでした。
「だぁよ、だからさ、……慎一、まず俺と一緒にさ、あいつの自宅探しに行かねえか?」
「え?」
思いつめていた様子から、告白でもしたいのかと思いましたが、事態の唐突で意外な展開に、慎一も虚を突かれました。確かに、告白というのは相手の意思を確認してしまう行動であり、たいがいの場合、そんなにうまく事が運ぶほうが珍しいものです。その場合には、その後の学校生活は真っ暗闇とは申しませんが、かなりダークな灰色の学園ライフとなるリスクを伴います。
つまり、裕司はリスクを冒すほどの行動には出たくはないが、自分のモヤモヤしている心の裡をなんらかの行動で少しでも打開したいというのでしょう。
「三枝は南部小だろう?俺らは北部だから学区が違うし、ちょっと向こうの地名もよくわかんねえしさ。」
慎一と裕司はともに北部小学校の出身でした。しかし、一方の三枝理恵子は南部小学校の学区からこちらの中学校に来ています。彼らの中学校は近隣の3つの小学校学区が合わさっており、ちょうどその真ん中辺りに中学校があるのです。
「三枝の自宅の電話番号はクラスの連絡網の名簿で知ってるから、電話帳で大体の住所まではわかるけど、やっぱ、どこに住んでるか知りたいじゃねえか。下校する時、まさか、尾行するわけにもいかないしさ。日曜日でも一緒にチャリで探しに行こうぜ。」
やる気満々の親友に押され、もう慎一は渋々と承知する他はありませんでした。もっとも、彼女の家がどこにあるのか、彼自身も知りたいという面もあったのかもしれません。正直な気持ちでは彼女の家を突き止めることに関心がないとは言えませんでした。
授業開始のチャイムが流れて慎一が自分の席に戻ると、隣の少女から声を掛けられます。
「ほんと、慎一くんは、裕司くんと仲が良いよね。まるで付き合ってる恋人同士みたい。」
そう言って、いつものように慎一に楽しそうな笑顔で話しかけてきます。
「ばかやろ、男同士でそういう趣味はねえよ。」
…と、なぜか顔を赤くしてしまった慎一は、生返事をしながら次の授業である現代国語の教科書とノートの準備をしました。
(ここで、『お前の家を教えろよ。遊びに行ってもいいか?』…なんて聞くのは、やっぱおかしいよな。…はぁ~。裕司も理恵子も、まったく…俺の気も知らねえで。)
なぜか、気が重くなる慎一でした。
**********
その日の授業は、まったく頭に何も入ってこず、慎一の脳裏に、なぜか唐突に小学校の思い出が蘇ってきたのでした。
「慎一くん、相談があるんだけど…。」
それは小学校5年の頃、一緒に家に帰っていた同じマンションの同級生の女の子との思い出でした。慎一は、おばさんが大好きな頃ですので、同級生の女子にはあまり興味を持ってはいませんでしたが、それでもその陽子という子はクラスでもなかなかに男子の人気の高い可愛い女の子でした。
「慎一くん、あのね、あのね、慎一くんは…佐々木くんと友達だよね。…あたしね、…佐々木くんのことが好きなの。キャッ!言っちゃった!…ねえ、ねえ、佐々木くんは誰か好きな子がいるのかな?慎一くん、知らない?」
その少女は、恥ずかしがりながらも、まっすぐに自分の思いを正直に話してきました。少なくとも、中学生の裕司よりは小学生の陽子ちゃんの方がはっきりと自分の思いを吐き出すことができるようです。
慎一もあの時は、大好きなおばさんのことしか目に入っていなかったし、第一、まったく男女の恋愛というものには疎かったものですから、近所の女の子の話しにとても驚いたことを覚えています。
(へえ、もう女の子は誰かが好きだなんて言うようになるんだ。陽子ちゃんは可愛いし、そういや男子でも人気があるよな。)
朴念仁の父親に似たものか、恋愛感情などの機微には疎い慎一だけに、女の子の早熟な考え方にはとても驚いたものでした。
「いや、あいつは誰かのことが好きだとか言うのは聞いたことがねえよなぁ。」
慎一は軽い気持ちで言っただけなのですが、少女はその返事にパアッと顔を明るくさせていました。
…ただ、それだけのことでした。でも、そのことがとても嬉しかったのか、小学校の文集の『嬉しかった事』の欄に、その子が『足立くんに相談して色々と教えてもらって嬉しかった』と書き残したのです。
その後、陽子ちゃんに気のあるであろうと思われる複数の男子から、散々に責め立てられた慎一は、その相談内容をあの手この手で聞き出そうとされたのでした。いかに朴念仁の慎一でも、さすがにそれは言っちゃいけないだろうと思って、固く陽子ちゃんの秘密を守り通したのでした。
結局、陽子ちゃんは慎一のその親友に告白することはありませんでした。誰かに思いを聞いてもらっただけで、嬉しくて満足できる、そんな幼く淡い恋心だったのでしょう。
(あんなこともあったよなぁ…。)
昔を思いだしながら、慎一は理恵子とは反対の斜め後ろにいる裕司の方にさりげなく視線を送りました。慎一の視線にそれと気づいた裕司は、にこやかに右手で親指を突き立てて反応します。
(俺に話しただけで満足してくれりゃあなぁ…。)
そう思った慎一の背後で、現代国語教諭の雨宮が、目を吊り上げて睨んでいるのにまったく気づきもしない慎一でした。
「慎一よぉ、ちょっと相談があるんだけど、聞いてくれるか?」
突然、休み時間にそう言って慎一に近寄ってきたのは、同じ柔道部に所属している村山裕司というクラスメイトでした。
彼は、柔道という格闘技をする上では慎一よりも恵まれた体格をしていて、身長も高くウエイトもあり、小柄な慎一がいくら身軽に動き回っても、寝技に持ち込まれたらとてもかなわない技量の持ち主でした。
しかし、その見た目の貫禄とは裏腹に、彼はお茶目なぐらい快活な性格をしていました。慎一ともよくウマがあって、クラスの男子の中では一番親しく交わっている友人でもありました。
「なんだよ、珍しくマジな顔しちゃって、どうした?」
裕司に誘われて廊下に出た慎一は、何事かと言葉を返しました。
「いやぁ、……実はな……何て言うか……。」
いつもは陽気で闊達なしゃべりをする裕司にしては、珍しく、なぜか歯切れの悪い話し方になっています。しかし、さすがにいつまでもグズグズは出来ないと自分でも分かったのか、思い切って話しを始めました。
「実はさ、俺、……なんて言うか、その……、実は、俺……、どうしても、好きになっちゃった子がいるんだ……。」
よく中学生にありがちな、あるあるの恋愛相談です。慎一もすわ何事か、どんな人生相談かと思っただけに、逆に拍子抜けしてしまいました。しかし、思春期の中学生にとって、恋愛問題はある意味でもっとも深刻な人生相談でもあります。
「なんだよ、そんなことか。別にいいことじゃんか。……で、誰だよ、誰を好きになっちゃったんだ?」
慎一に急き立てられながらも、裕司はますます歯切れが悪く、言葉を濁すようにしています。
「なんだよ、スパッと言っちゃえよ。俺も協力するからさ。」
その言葉に、なぜかちょっと嬉しそうにした裕司でしたが、それでもまだ言いにくそうにしています。慎一もいいかげんにしびれを切らし始めてしまいます。
「誰だよ、誰?他のやつに言ったりしないからさ。いい加減に教えろよ。誰か分かんねえと、俺だって協力したくても協力できねえだろ。」
すると裕司は、意を決したようにようやく話し始めました。
「実は、……俺が好きなのは、三枝のことなんだよ。」
「?…………!!」
慎一は想定外の名前に、一瞬、誰のことを言っているのかわからず呆然としてしまいましたが、すぐにそれが慎一の隣の三枝理恵子のことだと分かり、びっくりしてしまいました。
確かにその可能性はあったはずなのに、それが慎一の隣にいる女子のことだとは、慎一はまったく考えもしていませんでした。
慎一の驚いた様子に、裕司は改めて不安に感じたのか、探るように、また聞き返します。
「慎一、お前、三枝と仲がいいだろう?よく話してるし、お前らも名前で呼びあってるみたいだし、慎一も三枝のこと、好きなんじゃねえの?……まさか、付き合ってるまでには見えねぇけどよ。」
「えっ?……えっ!ええ~!」
途端に今度は慎一の方が 口ごもってしまう番です。なぜか動転してしまった慎一は、その裕司の問いかけに何も言葉を返すことができなくなってしまいました。
「やっぱりそうかよ。お前ら、仲、いいもんな。慎一も好きなんだろ。」
裕司は何となく危惧していた状況が的中したようで、冷ややかな目つきになりつつ、ややがっかりしたような素振りを見せました。そうなると、今度は慎一の方が慌てて打ち消しをしなければならなくなります。
「いやいやいやいや、ただ隣ってだけで、……そんな、……俺は、別に……。」
口ごもりながらも、つい慎一は裕司の言葉を否定してしまいました。
「じゃあ、いいのか?俺が三枝のことを好きだって言っても、お前、俺に協力してくれるのか?」
一転して、裕司は目を輝かせて慎一に迫ってきます。あまりのその裕司の勢いに、つい慎一も気圧されてしまいました。
「いや……なんだろう……その……。」
しかし、裕司の方は勝手に独り合点してしまっています。自分の親友が、自分が好きになった女子のことを何とも思っていない、そう思った途端、一つの障害が完全になくなったわけです。友情と恋愛の間に全く齟齬をきたすことがなくなったわけですから、裕司の最大の懸念は払拭されたのです。……もちろん、最大の懸念材料は当の相手の気持ちなんですけれどもね。
「だいたいよ、真一は何とも思わねえのか?いつも三枝の隣にいて。」
裕司は照れ隠しをするように、彼がその少女に対して恋をしてしまった理由のひとつを、慎一が聞きもしないのに語り始めます。
「え?……何が?」
慎一は唐突な裕司の話題転換と詰問口調に、その真意をはかりかねます。
「えじゃねえよ!あいつの シャツを見て、慎一は何も感じねえのかよ!」
「え?……シャツ?」
慎一はますます意味不明になりました。
「だよ、女子はみんなさ、シャツの背中からブラの線が見えるじゃんか。でも、その女子の中でも、三枝の背中、すげえ色っぽいじゃねえか。」
そこまで言われて、慎一はようやく裕司が何を言いたがっているのか、合点が行きました。
「シミーズって言うのか?あれ見てたら、ドキドキしない方がどうかしてるぞ。」
裕司は、さすがに女子の下着の話しをしているだけに、下着の名称を口にするのは、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめて声を潜めましたが、それは三枝理恵子の着ているスリップのレース柄のことだと真一にはすぐ分かりました。
女子は中学に上がってブラジャーをつけるようになると、その下着の線が外に見えるのを恥ずかしがって、下着をもう1枚、重ねて着ている子も半分くらいはいます。
もちろん、全然、気にしない女子も半分以上はいます。だから、冷え性で重ね着しているのか、恥ずかしくてしているのか、その内容まではよくわかりません。しかし、女子がどのような理由でそうしているにせよ、男子の目は、男子にはない女子だけの下着、ふくよかなバストを想起させるその物につい目がいってしまうのも、思春期の男の子としては仕方のないことだったかもしれません。
つまり、女子の下着に心を揺さぶられてしまった男子は、決して慎一だけではなかったのです。そして、慎一の友人である裕司もまた、慎一と同じように、三枝理恵子の背中に透けて見えるレース模様につい心を奪われてしまっていたのでした。
慎一は、あの小学6年生の時はともかく、今現在、自分のこの性癖がまともではないような気がしていました。しかし、この裕司の言葉を聞いて、慎一は決して自分だけが変態的な異常者ではないんだという、自分に都合の良い言い訳を発見できたのでした。
しかし、だからと言って慎一は裕司に偉そうに物を言える立場にはありません。それは慎一が十分に自覚していることです。なぜなら、慎一は自分が女性のランジェリーに対して異常な執着を持ってしまっていることをしっかりと自覚しているからです。現に、今でもおばさんのスリップで夜な夜なオナニーをしているのですから。
「じゃあさ、裕司は一体どうしたいのさ。まさか、『お前の下着に欲情した』なんて言ったら、ひっぱたかれるぞ。」
慎一は、どうにもその下着についてはコメントのしようもなく、無理に話題を変えようとします。すると、それに続く親友の提案は、慎一の予想してもいなかったものでした。
「だぁよ、だからさ、……慎一、まず俺と一緒にさ、あいつの自宅探しに行かねえか?」
「え?」
思いつめていた様子から、告白でもしたいのかと思いましたが、事態の唐突で意外な展開に、慎一も虚を突かれました。確かに、告白というのは相手の意思を確認してしまう行動であり、たいがいの場合、そんなにうまく事が運ぶほうが珍しいものです。その場合には、その後の学校生活は真っ暗闇とは申しませんが、かなりダークな灰色の学園ライフとなるリスクを伴います。
つまり、裕司はリスクを冒すほどの行動には出たくはないが、自分のモヤモヤしている心の裡をなんらかの行動で少しでも打開したいというのでしょう。
「三枝は南部小だろう?俺らは北部だから学区が違うし、ちょっと向こうの地名もよくわかんねえしさ。」
慎一と裕司はともに北部小学校の出身でした。しかし、一方の三枝理恵子は南部小学校の学区からこちらの中学校に来ています。彼らの中学校は近隣の3つの小学校学区が合わさっており、ちょうどその真ん中辺りに中学校があるのです。
「三枝の自宅の電話番号はクラスの連絡網の名簿で知ってるから、電話帳で大体の住所まではわかるけど、やっぱ、どこに住んでるか知りたいじゃねえか。下校する時、まさか、尾行するわけにもいかないしさ。日曜日でも一緒にチャリで探しに行こうぜ。」
やる気満々の親友に押され、もう慎一は渋々と承知する他はありませんでした。もっとも、彼女の家がどこにあるのか、彼自身も知りたいという面もあったのかもしれません。正直な気持ちでは彼女の家を突き止めることに関心がないとは言えませんでした。
授業開始のチャイムが流れて慎一が自分の席に戻ると、隣の少女から声を掛けられます。
「ほんと、慎一くんは、裕司くんと仲が良いよね。まるで付き合ってる恋人同士みたい。」
そう言って、いつものように慎一に楽しそうな笑顔で話しかけてきます。
「ばかやろ、男同士でそういう趣味はねえよ。」
…と、なぜか顔を赤くしてしまった慎一は、生返事をしながら次の授業である現代国語の教科書とノートの準備をしました。
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「慎一くん、相談があるんだけど…。」
それは小学校5年の頃、一緒に家に帰っていた同じマンションの同級生の女の子との思い出でした。慎一は、おばさんが大好きな頃ですので、同級生の女子にはあまり興味を持ってはいませんでしたが、それでもその陽子という子はクラスでもなかなかに男子の人気の高い可愛い女の子でした。
「慎一くん、あのね、あのね、慎一くんは…佐々木くんと友達だよね。…あたしね、…佐々木くんのことが好きなの。キャッ!言っちゃった!…ねえ、ねえ、佐々木くんは誰か好きな子がいるのかな?慎一くん、知らない?」
その少女は、恥ずかしがりながらも、まっすぐに自分の思いを正直に話してきました。少なくとも、中学生の裕司よりは小学生の陽子ちゃんの方がはっきりと自分の思いを吐き出すことができるようです。
慎一もあの時は、大好きなおばさんのことしか目に入っていなかったし、第一、まったく男女の恋愛というものには疎かったものですから、近所の女の子の話しにとても驚いたことを覚えています。
(へえ、もう女の子は誰かが好きだなんて言うようになるんだ。陽子ちゃんは可愛いし、そういや男子でも人気があるよな。)
朴念仁の父親に似たものか、恋愛感情などの機微には疎い慎一だけに、女の子の早熟な考え方にはとても驚いたものでした。
「いや、あいつは誰かのことが好きだとか言うのは聞いたことがねえよなぁ。」
慎一は軽い気持ちで言っただけなのですが、少女はその返事にパアッと顔を明るくさせていました。
…ただ、それだけのことでした。でも、そのことがとても嬉しかったのか、小学校の文集の『嬉しかった事』の欄に、その子が『足立くんに相談して色々と教えてもらって嬉しかった』と書き残したのです。
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結局、陽子ちゃんは慎一のその親友に告白することはありませんでした。誰かに思いを聞いてもらっただけで、嬉しくて満足できる、そんな幼く淡い恋心だったのでしょう。
(あんなこともあったよなぁ…。)
昔を思いだしながら、慎一は理恵子とは反対の斜め後ろにいる裕司の方にさりげなく視線を送りました。慎一の視線にそれと気づいた裕司は、にこやかに右手で親指を突き立てて反応します。
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