コバナシ

鷹美

文字の大きさ
17 / 151
プロローグ

プロローグ17

しおりを挟む
籐麻は一礼した後にゆっくりと顔を上げた。
彼の視線の先には、突進してくる金髪の大男がいる。

思わずギョッとした顔をしたが、金髪の大男…剛はそんなことを気にもせず両手で猫のように籐麻を抱き上げた。



「はっはっは!
可愛げのある気持ちのいぃ坊主じゃねーの。

なぁ、兄者。」


先ほどの客間より小さい部屋ではあるが、大き目な部屋が小さく揺れるくらいの声量で剛は豪快に笑った。
部屋がビリビリと小さく悲鳴を上げているのだ、目の前にいる籐麻の様子は言うまでもないだろう。

両手で耳を塞いで痛そうに耳を塞いでいる。


「ぁあー、剛様!
籐麻が死んじゃいます!」

「拙者と同じ金色の男だ、この程度で死ぬような柔な奴じゃないわ!」



意味のわからない事を言いながら気絶している籐麻を俵のように肩で担ぎ再び笑う剛と、籐麻を奪還しようとピョンピョン跳ねる椿の姿はとても微笑ましいものだった。


おふざけモードに入ったからなのだろう。
護と優は、二人の姿を肴に酒を口にしている。

やれやれと、ため息をついた蓮も二人の所にいき酒を口にした。


部屋を案内された時に渡された東野の酒のようで、保存食に関する技術が長けているから和の土地とは違いあっさりとした飲み口のものだった。


これもまた…堪らん。
蓮は、運命の出会いともいえるこの酒に表情を緩ませている。
…土産の一つに妻にも買っていこうかそんなことを考えた後に蓮は口を開く。


「…して、今回の件だが、優は今回はどんな意図があったのじゃ?」


護も少し驚いた顔をした。
以前にも同じことはあった、それは和国に留守番している守護者候補の”空(そら)”という男の子だ。

襲い掛かってきた身寄りがない子すべてに言っている訳でもないし、素質がありそうな守護者志願の者も追い返したこともある。

二人の視線は、同じ酒を口にする優に向けられる。

優は、自分のお猪口が空になるとゆっくりと口を開く。


「勘みたいなもので確信めいたことじゃなかったから言いたくなかったけど…。
空の時も藤麻の時も、”四大(しだい)”を扱える可能性があると思ったからかな。」


そういった優は、護のお猪口の後に自分のお猪口にも酒をつぐとそれを飲む。

護は、理由を答えてくれた事に満足すると自分のお猪口に入った酒を見つめる。
透き通った酒から見えるお猪口の模様とアルコールの独特の香りからほのかに感じる甘い香りを楽しみながら口を開いた。

「彼が自分でも望んだことなら、私も問題はない。

これからを担う若者を育てるのは、私も心が踊る。

椿も〝楓(かえで)〟も〝空(そら)〟そして、籐麻。
どう育ってくれるのか、楽しみだ。」


「それも大いにわかるぞ、兄者。
だか兄者はそれ以上に世継ぎの事も考えねばな。

〝恵梨香(えりか)〟を待たせぬようになぁ!」


しんみりと言った護に剛は豪快な笑い声をあげて、そう言った。

ガハハハと笑い声をあげながら、籐麻と椿を両肩にそれぞれ俵のように担いでいる。

こう見えて下戸な剛なのだが、酔っ払いの如くはしゃいでいた。
気分がさらに乗ったのか、回転まで始めた。


「これ、剛。
ワシの子供達で遊ばんでくれ。

グッタリしておるじゃろう。」


そう注意する蓮もどこか楽しそうだった。


そうして夜が過ぎていった。

本当に楽しい夜だった。
そして楽しく騒ぎすぎて、朝一で護と蓮が謝罪に向かったのは言うまでもないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】聖女は国を救わないと決めていた~「みんなで一緒に死にましょうよ!」と厄災の日、聖女は言った

ノエル
恋愛
「来たりくる厄災から、王国を救う娘が生まれる。娘の左手甲には星印が刻まれている」 ――女神の神託により、王国は「星印の聖女」を待ち望んでいた。 完璧な星印を持つ子爵令嬢アニエスと、不完全な星印しか持たない公爵令嬢レティーナ。 人々はこぞってアニエスを“救いの聖女”と讃え、レティーナを虐げた。 だが、本当に王国を救うのは、誰なのか。 そして、誰にも愛されずに生きてきたレティーナの心を誰が救うのか。

処理中です...